引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
119 / 119
2-1 魔法学園の編入生

116 変態サロン ※

しおりを挟む

「納得いかないんだけど」

 昼休みになると、ハルが爆発しそうになっていたので空き教室へと連れ出した。
 ここならハルが変な事を口走っても問題ないからだ。
 連れてきて開口一番に飛び出したのが、この発言だ。

「ハル、落ち着いて」

「なんであたしが白雪姫なんだよ、どう考えてもおかしいだろっ」

 アウトローなハルが大勢で作り上げる“演劇”の“主役”を演じるというのは確かにキャラクターではないように思う。
 しかもそれを他人に決められたとなれば、ハルの気持ちも穏やかではないだろう。

「それでも、黙って受け入れてくれたのね」

 佐野さのさんに推薦された瞬間のハルは立ち上がって今にも掴みかかりそうな勢いだった。
 でも、それをせずにこらえてくれた。
 それは彼女の変化だ。

みおが“大人しくしろ”って目で訴えてきたからな、我慢したよ」

 分かってはいたつもりだが、改めて私による変化だと本人の口から言われると心の奥がどこかムズムズとする感覚があった。

「ありがとう、ハルのおかげで無事に事は進んだわ」

 あの後、私が王子役を引き受けるという展開は佐野さんにとっても予想外だったはずだ。
 主役級さえ決まってしまえば後は自ずと決まっていくため、特に波乱も起きる事なく進行する事が出来た。

「ふん、本当だったら佐野に白雪姫やらせるか、当日サボるかの二択だったからな」

「……うん、どちらも選ばないでくれて良かったわ」

 そんな無理矢理な事をしたらクラスの空気がどんな事になるか、想像するだけで恐ろしい。
 今の流れも決して褒められたものではないが、それでも見返す事は出来ると思う。

「ていうか、王子役を澪が引き受けんのもけっこービックリしたけど……」

 話を聞いている内にハルの怒りの留飲も下がって来たのか、話題は私に移った。

「そうね、あの流れで田中さんに任せるのは可哀想だったし。私がなればそれ以上は嫌がらせも出来ないでしょ」

 私には良くも悪くも“生徒会”という看板がある。
 その砦には“青崎梨乃あおざきりの”というカリスマも控えており、自分で言うのも何だが生徒会を敵に回したいと思う人はそう多くはない。
 まるで虎の威を借りる狐のようなので、好ましくは思っていないのだけれど。
 他人にはそう映っているのは自覚しているので、仕方がない事でもあった。
 とにかく今回はその立場を使って、佐野さんの独壇場を止めたような形になる。

「じゃあ、白雪姫の時点で澪がやってくれたら良かったのに」

 唇をとがらせて不満げなハル。

「……その発想はなかったわね」

「なんでだよ、あたしより田中優先かよ」

「いえ、そういうわけじゃなくて……」

 佐野さんを始め、皆はハルが白雪姫を演じることにギャップを感じた事だろう。
 だが、私はハルの白雪姫を想像して思ったのだ。

「似合いそうって思ったのよ」

「なにが?」

「ハルの白雪姫」

 ハルの目が点になって、一瞬時が止まる。

「……マジで言ってんの?」

「ええ、マジね」

「あたしのどこに姫要素があるんだよっ」

「肌の白さとか?」

「漠然としすぎだろっ」

 とにかく、私はハルの白雪姫がそう悪いものではないと思ってしまったのだ。
 主役になれば周りとコミュニケーションをとる機会も増えるだろうし。
 いいきっかけにもなるのではないかと思ったのだ。

「それより王子様役の方が気が重いわね……」

 裏方でサポートが私の得意分野なのに。
 成り行きで仕方ないとは言え、まさかの演者側に回るだなんて。
 キャラじゃないにも程がある。
 落ち着いてくると、その重圧に心が耐えかねている。

「いや、あたしも姫とか気分わりぃし……」

 “はぁ……”と、お互いに重い溜め息を吐く。
 こんな消極的なお姫様と王子様がいるだろうか。
 心配だ、この演劇。

「でも、やるからには全力でやりきるわよ」

 それでも、嘆いてばかりでも仕方ない。
 私は気持ちを入れ替える。

「うお、真面目モード」

「良い演劇にして見返してやりたいもの」

「見返す?」

「ええ、佐野さんは遊び半分でキャスティングしたんでしょうけど。私達が本気を出して最高の物を見せつけるのよ」

 きっと佐野さんは普段やる気のないハルを主役に押し出すことで、恥をかかせるつもりだったのだろう。
 そこで上下関係なるものを付けようとも考えていたのかもしれない。
 だけど、そうはいかない。
 私がいる限りそんな中途半端なものを見せたりはしない。
 むしろハルの魅力を引き出し、観客すらも驚かせてみせる。

「なんか珍しいな、澪がそこまで対抗心を燃やすなんて」

「……そう、かも」

 言われてみれば確かに、ハルの白雪姫に関しては対抗心なるものが芽生えている。
 これ以上ない正攻法だから問題はないのだけれど、根底にある感情が私には珍しいものだった。

「ハルを馬鹿にした扱いが気に入らなかったのね」

 そして、そうさせてしまった私自身にも責任を感じている。
 だから、ハルの魅力を私は知らしめたいのだと思う。

「な、なんだよ、そうなら最初からそう言えよなっ」

 ハルは急に体をもじもじとさせて視線が彷徨さまよっていた。
 そのまま落ち着かない様子で、ハルの体が私の肩を押した。

「じゃあ、頼んだぜっ。あたしの王子様っ!」

 ハルが満面の笑みを咲かせる。
 その輝くような華を見れば彼女こそ白雪姫だと、疑う者はいないだろう。
しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ!
感想 31

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(31件)

静葉
2024.07.31 静葉

体がビクッと跳ねさせて   になってましたが
身体をビクッっと跳ねさせて   では?

解除
静葉
2024.07.31 静葉

自分が気持ちよくために必要
になってましたが
自分が気持ちよくなるために必要   では?

解除
静葉
2024.07.29 静葉

うーん、怪しい第一王女、生きてそう、そしてダンスの時見てた1人かな?

解除

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。