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1-4 反乱の狼煙
80 救出・後
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俺とフェルトが監獄の話をはじめたタイミングで、聞き覚えのある声が上から聞こえた。視線をやると、ニアがダンジョンの洞窟の壁に忍者みたいに立ってるのが見えた。「おお! 忍者みてえ」と思わず目を輝かせる俺とは対照的に、フェルトが驚愕に目を見開いていた。
「ちょ、ちょっと待って。精霊にも感知できない人間っているの……?」
「あれ? お前精霊使役してんのか。これ、おれの特殊体質みたいなもんで、だから組織でも重宝されてたんだ」
「すげえ! な、どうやって壁に立ってんの? それって、やっぱり、チャクラなの?!」
「――ちゃ、ちゃく? いや、暗殺者はみんなできると思うけどね。で、監獄のことだけど、そういうのは俺の管轄じゃないの? レイ様」
「お前詳しいの?」
「うん、王都なんて、目つぶってても歩ける」
「本当か! 人質がすごい量いるんだ。まとめて収容されてるっていう話だったんだけど、目星だけでもつけときたい」
「西の監獄だと思う。王都には監獄が五つある。四つは、東西南北に位置していて、もうひとつは城の地下牢だ。王都の西ってなにもなくて広い敷地が余ってるから、大勢を一カ所にっていうなら絶対に西の監獄だと思う」
ニアは、前回会ったあと、すぐに妹を村に連れてきた。
妹の顔の造形も変えてやってくれ、とお願いされていたので、どうやって変えようかと考えていたが、実際に妹――ティカの顔を見て、ニアが言っていた意味はすぐわかった。黒を無理矢理染めたとわかる茶色の長い髪の下には、顔全体を覆うひどい火傷の跡があったのだ。
俺はさすがに言葉を失った。
まだ十歳にも満たない幼い少女の顔を誰が焼いたのかはわからないし、もしかすると、火事とかによる怪我なのかもしれないけど、あれはあまりにも――……あまりにも、凄惨な現実だった。
ニアがいるから、普通よりはましな生活を送っているんだろうと思っていた俺は、自分を恥じた。これがましだというのなら、もっとひどい目に会っている人間はたくさんいるはずなのだから。
あれでは顔など誰もわからない。元の顔に戻すだけで、正体がばれることはないだろうと思った。俺は「はじめまして」と、できるだけ友好的な表情を作り、そのあとは無言でティカの火傷を治した。
元の顔はニアに似ていて、細い鼻、ぱっちりした目の美少女だった。「髪と目はなに色がいいんだ?」と聞いたら「茶色」と答えたので、「あれ? 金髪碧眼は?」とニアに聞いたら、ティカは真っ赤な顔をして怒っていた。
結局、髪の毛は茶色で、目だけ青ということになった。鏡を見たまま呆然とするティカを見ながら、ニアがものすごい柔らかい顔で笑ってて、こんなに嬉しそうな笑顔をはじめて見たなと思ったのだった。
ちなみに、ニアはそのままでいいというので、黒髪黒目のままになっている。
その代わり、ティカに足がついては困るので、村に帰る際には必ず俺のところに容姿を変えに来る……ということになった。アッカ村では、茶色茶目の素朴な少年になってる。
俺は全部変えてしまったほうが、効率がいいんじゃないかと思ったのだが、「せっかくレイ様に褒められたし~」と、そのままにするらしい。元から暗殺稼業の連中と付き合っていたはずだし、ちょっと不安が残る。一応、村に紛れ込んだローブの孤児は、熱中症と足の怪我が悪化して死んだことになっていて、墓まで作ってみたものの……それで足りるのかどうか。
「王都なら、俺、案内するよ。そこのやたら目立つ騎士つれてガチャガチャ行くより、多分いいと思う」
「お前、――話、どれくらい聞いてたわけ?」
「んーまあ、そういう稼業ですから? オーランドっていう人の天幕辺りからは聞いてたね。こんだけ村の周りが騒がしくなってればさ、やっぱ情報は集めとかないと?」
「じゃあフェルト、俺、ニアと行ってくることにしようかな」
「ちょ、ちょっと待ってレイ。それは無理。絶対に俺も行くから」
「そう?」
その扉のモンスターについては、またあとで説明しようと思う。
今は一刻を争う事態なので、とにかく、リンの情報を得次第、フェルトとニアと一緒に行くことになった。リンが戻って来て、人質のリストと人数と、それからやっぱり西の監獄が有力だと教えてくれた。
「西の監獄はさ、監獄って言ってはいるけど、軽犯罪とか一時的な拘置とかに使われたりするところだから。そんなに警備も厳重じゃないと思うよ」
「そうなんだ。でもどういうプランで行けばいいんだ。俺は素人だから正直わからない。やっぱ看守とかのフリして侵入すんの?」
「どういう仕組みなのかはわからないけど、その魔法って、西の監獄って決めておけば、西の監獄に直接辿りつけるってことだよね?レイ様」
「うん。出る場所は多分、王都であるなら、監獄内でもいけると思う」
「そしたら、監獄の近くの目立たないとこに、一度出てもらって、そこから俺が様子見て来る」
「ああ、なら西の地区には、僕のうちが昔使ってた廃屋があるよ。そこの地図を出すから、そこの部屋を使いなよ」
「わかった。じゃあ、プランは、――」
「ちょ、ちょっと待って。精霊にも感知できない人間っているの……?」
「あれ? お前精霊使役してんのか。これ、おれの特殊体質みたいなもんで、だから組織でも重宝されてたんだ」
「すげえ! な、どうやって壁に立ってんの? それって、やっぱり、チャクラなの?!」
「――ちゃ、ちゃく? いや、暗殺者はみんなできると思うけどね。で、監獄のことだけど、そういうのは俺の管轄じゃないの? レイ様」
「お前詳しいの?」
「うん、王都なんて、目つぶってても歩ける」
「本当か! 人質がすごい量いるんだ。まとめて収容されてるっていう話だったんだけど、目星だけでもつけときたい」
「西の監獄だと思う。王都には監獄が五つある。四つは、東西南北に位置していて、もうひとつは城の地下牢だ。王都の西ってなにもなくて広い敷地が余ってるから、大勢を一カ所にっていうなら絶対に西の監獄だと思う」
ニアは、前回会ったあと、すぐに妹を村に連れてきた。
妹の顔の造形も変えてやってくれ、とお願いされていたので、どうやって変えようかと考えていたが、実際に妹――ティカの顔を見て、ニアが言っていた意味はすぐわかった。黒を無理矢理染めたとわかる茶色の長い髪の下には、顔全体を覆うひどい火傷の跡があったのだ。
俺はさすがに言葉を失った。
まだ十歳にも満たない幼い少女の顔を誰が焼いたのかはわからないし、もしかすると、火事とかによる怪我なのかもしれないけど、あれはあまりにも――……あまりにも、凄惨な現実だった。
ニアがいるから、普通よりはましな生活を送っているんだろうと思っていた俺は、自分を恥じた。これがましだというのなら、もっとひどい目に会っている人間はたくさんいるはずなのだから。
あれでは顔など誰もわからない。元の顔に戻すだけで、正体がばれることはないだろうと思った。俺は「はじめまして」と、できるだけ友好的な表情を作り、そのあとは無言でティカの火傷を治した。
元の顔はニアに似ていて、細い鼻、ぱっちりした目の美少女だった。「髪と目はなに色がいいんだ?」と聞いたら「茶色」と答えたので、「あれ? 金髪碧眼は?」とニアに聞いたら、ティカは真っ赤な顔をして怒っていた。
結局、髪の毛は茶色で、目だけ青ということになった。鏡を見たまま呆然とするティカを見ながら、ニアがものすごい柔らかい顔で笑ってて、こんなに嬉しそうな笑顔をはじめて見たなと思ったのだった。
ちなみに、ニアはそのままでいいというので、黒髪黒目のままになっている。
その代わり、ティカに足がついては困るので、村に帰る際には必ず俺のところに容姿を変えに来る……ということになった。アッカ村では、茶色茶目の素朴な少年になってる。
俺は全部変えてしまったほうが、効率がいいんじゃないかと思ったのだが、「せっかくレイ様に褒められたし~」と、そのままにするらしい。元から暗殺稼業の連中と付き合っていたはずだし、ちょっと不安が残る。一応、村に紛れ込んだローブの孤児は、熱中症と足の怪我が悪化して死んだことになっていて、墓まで作ってみたものの……それで足りるのかどうか。
「王都なら、俺、案内するよ。そこのやたら目立つ騎士つれてガチャガチャ行くより、多分いいと思う」
「お前、――話、どれくらい聞いてたわけ?」
「んーまあ、そういう稼業ですから? オーランドっていう人の天幕辺りからは聞いてたね。こんだけ村の周りが騒がしくなってればさ、やっぱ情報は集めとかないと?」
「じゃあフェルト、俺、ニアと行ってくることにしようかな」
「ちょ、ちょっと待ってレイ。それは無理。絶対に俺も行くから」
「そう?」
その扉のモンスターについては、またあとで説明しようと思う。
今は一刻を争う事態なので、とにかく、リンの情報を得次第、フェルトとニアと一緒に行くことになった。リンが戻って来て、人質のリストと人数と、それからやっぱり西の監獄が有力だと教えてくれた。
「西の監獄はさ、監獄って言ってはいるけど、軽犯罪とか一時的な拘置とかに使われたりするところだから。そんなに警備も厳重じゃないと思うよ」
「そうなんだ。でもどういうプランで行けばいいんだ。俺は素人だから正直わからない。やっぱ看守とかのフリして侵入すんの?」
「どういう仕組みなのかはわからないけど、その魔法って、西の監獄って決めておけば、西の監獄に直接辿りつけるってことだよね?レイ様」
「うん。出る場所は多分、王都であるなら、監獄内でもいけると思う」
「そしたら、監獄の近くの目立たないとこに、一度出てもらって、そこから俺が様子見て来る」
「ああ、なら西の地区には、僕のうちが昔使ってた廃屋があるよ。そこの地図を出すから、そこの部屋を使いなよ」
「わかった。じゃあ、プランは、――」
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