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1-4 反乱の狼煙
92 レイとフェルト(フェルト視点)・前
しおりを挟む騎士団にはどういう報告になったのか、俺は知らない。
帰り道、なんかローグのある方角の様子がおかしかったけど、レイはなにごともなかったかのようにダンジョンに戻って、いつもの大きな木のあるリビングを通り、自分の部屋の扉に手をかけ、それから、ふと思い出したように「あ」と言いながら、振り返った。
「来る?」
別にそういう誘いじゃないってわかっていても、直球でレイの部屋に誘われて、ドキッとしてしまった。ちょっと顔が赤くなったかもしれない。レイがふふんと嫌な笑みを浮かべながら、見透かしたように、言った。
「やらしー」
「なっ! ちがッ」
それからさっさと自分の部屋に入ってしまった。
俺は、ほんのちょっとだけ葛藤したけど、やっぱりレイの部屋の扉を開けた。
部屋に入ると、床にレイの着ていた黒いローブが落ちているのが目に入った。もうレイはいろいろ脱いでしまっているようで、俺なんかいてもいなくてもおかまいなしだ。レイは半裸で一度体に浄化魔法をかけてみて、「うーん」と唸ってから「シャワー浴びてくる」と言った。
(俺ばっかり、どきどきしててずるい……)
顔が赤くなってしまっている気がして、パタパタと顔を仰ぎながら、床に落ちている服を拾い始めた。浴室の扉に消えたはずのレイが、ひょこっと顔だけ出してこっちを覗いていて、恥ずかしそうな表情……の演技をしながら言った。
「フェルト、一緒に入る?」
「えッ!?」
「お前も、血とか浴びただろ。気分的に浄化だけじゃ足りない。おいで」
「――え、あ、うん」
レイの部屋のシャワー室に浴槽はなくて、本当に簡易的なシャワーが取りつけられているだけだった。俺の部屋には浴槽もつけてくれているから、てっきりそういう仕様だと思っていたけど、なんか合理的なレイっぽいと思った。今日はいろいろありすぎて、全然頭が働かないで、またぼけっとしてしまった。
見かねたレイがまたため息をつくと(今日はこの飽きれたため息ばっかり聞いてる)、するすると流れるような仕草でさっと俺を下着だけにした。レイがここにいて普通にしていることが、まだ夢なんじゃないかという気がして怖い。ぼんやり立ちすくんでる俺に、片眉を上げながら「なに? 下着も俺に脱がせて欲しいの?」と、きれいな指先で、やらしく陰茎の形をなぞられた。
さすがにそこで、我に返った。
レイはもうとっくに裸で、惜しげもなくその白い裸体をさらしていて、薄い硝子で区切られたシャワーの中にぐいっとひっぱられると、なんの予告もなくお湯が頭から降ってきた。
「わッ! もう、ちょっとくらいなんか言ってよー」
「ぼけっとしてるからだろ」
レイが濡れた髪を後ろに搔き上げながら笑って、前髪で隠れてない額が見えてドキッとした。レイも俺が熱っぽい目で見てる視線に、気づいたみたいで、俺のほうを見上げた。
それから、いつもとは違う真剣な顔で、俺の首に両手を回しながら、俺の名前を呼んだ。
「フェルト」
なんだろう。名前を呼ばれただけなのに、――なんか、その普通なことが……俺の中の琴線に触れた。
「――、れい」
ねえ、これ、夢じゃないよね――? 違うんだよね? そう思ったら……いろんな感情が決壊したみたいに、次から次へと目から涙が溢れてきた。
多分、安心したんだと思う。
「、れいっ」
悲しかった。俺、死にたいくらい、びっくりして……
びっくりして、どうしていいかわからなくて、ただ死にたいって思った。
「――れ、っい」
生きてて、よかった。死なないでいてくれて、よかった。
俺が、――俺が殺してなくて……
「――よかっ、た」
レイは困ったような顔をして、涙を流す俺の頬を両手で包むと、そっと唇を重ねた。
「――っく、れい、……んとにっ……ほんとに、こわ、くて」
そのまま、肩から背中に手をまわすと、ぎゅっと安心させるように抱きしめてくれた。
シャワーから注がれるお湯が俺の涙を流してくれるけど、それでも涙が全然止まらなくて、怖くて、悲しくて、死にたかったって、何度も思い返した。失ってしまったかもしれなかった温もりが俺の目の前にあって、俺はレイの腰に手をまわして、二度と失うことのないように、ぎゅうううっと強く抱きしめた。
レイはその不自由な体勢から、俺の頬に両手を伸ばして、少し下からじっと俺のことを見た。
それから、真剣そうな顔がどんどん――……にやあっとしたいつもの意地悪そうな顔になって、それから…… もう我慢できない、みたいなえろい顔になって、え?
「あー……お前の泣き顔やっばい」
と、うっとりした顔で言って、俺の涙を頬からぺろりと舐め上げた。
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