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1-4 反乱の狼煙
90 {回想} 契約・後
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「俺の固有魔法は、生体魔法って言うんだ。お前を含む生物を改造することだ。お前は俺の目として、地上に行って、ちゃんと自分の頭で考えろ。誰かに言われたからなんかしてあげるとか、誰かのためになるからなんかしてあげるとか、そういうのはお前の美徳かもしれないけど。お前が守ってきた国の現状を見て、本当にどうしたいか考えるべきだ。ここにいたら、ここに来た人間の意見しか、入って来ない。俺も含め、自分に都合のいいことしか言わないやつの言うことを、鵜呑みにするなよ」
「目にッ?! へええー! うん、――自分で見て考えろってことね! わかった、やってみる!」
「そうだ。契約しよう。お前が俺から出て行きたくなったら、出て行けばいい。そのかわり、それまでは俺と一蓮托生だ。正直、俺も力が欲しい。俺はお前を利用するんだからな。あとは自分でちゃんと考えろよ」
「わかった! 契約」
ふわりと蒼白い光につつまれたかと思うと、竜は俺の左目に唇を落とした。
キラキラと光の粒子が跳び回り、フェルトの精霊の魔法を見たときと同じように、素直に美しいと思った。この世界は元来、とても美しいものなんじゃないかという気がする。
(……不思議だ)
俺は竜の手を握ると、生体魔法を使い、キスされた左目に変化させた。応接室に備えつけられた鏡を見ると、俺の左目だけが、薄い水色になっていて、そこに竜が入ったことがわかった。
「見えるか?」
と、俺が聞くと、体の中から「うん!」という嬉しそうな声が聞こえた。それから、また竜の実体を元に戻し、また隣あって座り、会話を続けることにした。
「レイって優しいね!」
そう言われて、俺は深いため息をついた。俺が優しくてたまるか。「えッ! なんで!」と、慌ててる竜を見たら、もう一度ため息が出た。
「竜っていうのもあれだから、名前でも考えようぜ」
「えー! ほんと?! 名前?! レイがつけてくれんの?」
「ああー……黒助とかでいいか」
「えーッ! なんかもっとかっこいいのにしてよ」
「んーじゃあ、月だな。お前の目、月っぽいし」
「え! 月? おおー! 氷って言われたことはあるけど、月か~」
「なんだろ。中国語とか? ……ユエだな。俺にしてはまともな名前を思いついた気がする」
「おおー! ユエ! かっこいい!」
にこにこ座っているユエの膝の横に手をつくと、下から顔を覗くようにして、俺は訊いた。
「なあ、慰めてやろうか?」
「えー? それってどういうこと?」
俺は、鼻の頭をユエの鼻にこすりつけながら、唇を重ねようとして……思いとどまった。「ん?」と不思議そうに首をかしげるユエの鼻に口づけた。俺がソファにユエを倒して、首筋に唇を落とすと、ユエが不思議そうに尋ねた。
「もしかして、レイ……俺と交尾したいの?」
「――交尾……しよう」
「レイ、交尾っていうのは、番とするんだよ。レイは俺の番じゃないでしょ?」
「番?」
「うん。竜は一生のうち、この人だー! って決めた人としか、番わないんだよ」
「え……まじで。結婚相手とかしないってこと? 性欲とか、やりてーみたいなときないの?」
「うん、ないよ!」
「……え。でもほら、ちんこ触ってたら勃つだろ? 交尾だって始めちゃえば、気持ちよくなるもんだろ」
「レイ、そういうの、強姦っていうんだよ。しちゃだめなことだよ。知らないの?」
「…………」
なんか、清らかな存在すぎて、相容れない。
えー……竜とセックスしてみたかった。馬鹿だけど、泣いてるところはかわいかったのに。健気だし、一生懸命なかんじだし、ジジイだけど、わりと好みなのになー。キラキラニコニコを見ていると、なんか毒気を抜かれる。
「お前の番って誰なの?」
「さあ、まだ会ったことないなー。会ったらビビビッてなるらしいよ」
「ビビビッ? アホらし」
「あれ? そんなこと言ってるけど、レイ、その耳のピアス。番にもらったんじゃないの?」
「は?」
「すごい愛情を感じるよ。優しい。レイのこと、守りたいって気持ち、たくさんだよ」
「…………」
「それにレイだって、それ……大切にしてるじゃん。俺と話してるときも、さっき、キスするのやめたときも、触ってたよ。無意識?」
「…………」
「ぷっ レイもしかして、自分で全然わかってないの? ふふふ、所詮は若造か」
俺は、なんかもやっとして、ユエの頭をスパンと叩いた。「いだッ」と頭を押さえているユエを見て苛つきながら、頭を過る騎士の姿に、また変な気分になった。
番だー? ……そんな乙女みたいなことあってたまるか。竜は本能なのかもしれないけど、俺は竜じゃねーし。そもそも今は、人間ですらねーし。
「もういい。萎えた。お前の技的なものを教えろ」
「技? えーとね、一番強いのは、なんでも焼きつくすまで止まらない炎と、――あと、時間を……」
「時間を……?」
そんなこんなで、俺はこのユエという竜と瞳を合成し、地上に戻ることになった。
流石、神に近い存在なだけあって、知識や常識は、オリバーたちのものとは違う視点のものだった。これはあまり言わないほうがいいかもしれないと考え、オリバーにもフェルトにも秘匿することにした。基本的には、ユエは寝てるか世界を見てるかしていて、俺が部屋にいるときは、たまに出てくる。フェルトの精霊王のことは見たことはないけど、彼らの関係に近いのかもしれない。
この愚かな泣き虫竜が、少しでも、自分で世界のことを考えられるようになるといいなあ、と思った。
「目にッ?! へええー! うん、――自分で見て考えろってことね! わかった、やってみる!」
「そうだ。契約しよう。お前が俺から出て行きたくなったら、出て行けばいい。そのかわり、それまでは俺と一蓮托生だ。正直、俺も力が欲しい。俺はお前を利用するんだからな。あとは自分でちゃんと考えろよ」
「わかった! 契約」
ふわりと蒼白い光につつまれたかと思うと、竜は俺の左目に唇を落とした。
キラキラと光の粒子が跳び回り、フェルトの精霊の魔法を見たときと同じように、素直に美しいと思った。この世界は元来、とても美しいものなんじゃないかという気がする。
(……不思議だ)
俺は竜の手を握ると、生体魔法を使い、キスされた左目に変化させた。応接室に備えつけられた鏡を見ると、俺の左目だけが、薄い水色になっていて、そこに竜が入ったことがわかった。
「見えるか?」
と、俺が聞くと、体の中から「うん!」という嬉しそうな声が聞こえた。それから、また竜の実体を元に戻し、また隣あって座り、会話を続けることにした。
「レイって優しいね!」
そう言われて、俺は深いため息をついた。俺が優しくてたまるか。「えッ! なんで!」と、慌ててる竜を見たら、もう一度ため息が出た。
「竜っていうのもあれだから、名前でも考えようぜ」
「えー! ほんと?! 名前?! レイがつけてくれんの?」
「ああー……黒助とかでいいか」
「えーッ! なんかもっとかっこいいのにしてよ」
「んーじゃあ、月だな。お前の目、月っぽいし」
「え! 月? おおー! 氷って言われたことはあるけど、月か~」
「なんだろ。中国語とか? ……ユエだな。俺にしてはまともな名前を思いついた気がする」
「おおー! ユエ! かっこいい!」
にこにこ座っているユエの膝の横に手をつくと、下から顔を覗くようにして、俺は訊いた。
「なあ、慰めてやろうか?」
「えー? それってどういうこと?」
俺は、鼻の頭をユエの鼻にこすりつけながら、唇を重ねようとして……思いとどまった。「ん?」と不思議そうに首をかしげるユエの鼻に口づけた。俺がソファにユエを倒して、首筋に唇を落とすと、ユエが不思議そうに尋ねた。
「もしかして、レイ……俺と交尾したいの?」
「――交尾……しよう」
「レイ、交尾っていうのは、番とするんだよ。レイは俺の番じゃないでしょ?」
「番?」
「うん。竜は一生のうち、この人だー! って決めた人としか、番わないんだよ」
「え……まじで。結婚相手とかしないってこと? 性欲とか、やりてーみたいなときないの?」
「うん、ないよ!」
「……え。でもほら、ちんこ触ってたら勃つだろ? 交尾だって始めちゃえば、気持ちよくなるもんだろ」
「レイ、そういうの、強姦っていうんだよ。しちゃだめなことだよ。知らないの?」
「…………」
なんか、清らかな存在すぎて、相容れない。
えー……竜とセックスしてみたかった。馬鹿だけど、泣いてるところはかわいかったのに。健気だし、一生懸命なかんじだし、ジジイだけど、わりと好みなのになー。キラキラニコニコを見ていると、なんか毒気を抜かれる。
「お前の番って誰なの?」
「さあ、まだ会ったことないなー。会ったらビビビッてなるらしいよ」
「ビビビッ? アホらし」
「あれ? そんなこと言ってるけど、レイ、その耳のピアス。番にもらったんじゃないの?」
「は?」
「すごい愛情を感じるよ。優しい。レイのこと、守りたいって気持ち、たくさんだよ」
「…………」
「それにレイだって、それ……大切にしてるじゃん。俺と話してるときも、さっき、キスするのやめたときも、触ってたよ。無意識?」
「…………」
「ぷっ レイもしかして、自分で全然わかってないの? ふふふ、所詮は若造か」
俺は、なんかもやっとして、ユエの頭をスパンと叩いた。「いだッ」と頭を押さえているユエを見て苛つきながら、頭を過る騎士の姿に、また変な気分になった。
番だー? ……そんな乙女みたいなことあってたまるか。竜は本能なのかもしれないけど、俺は竜じゃねーし。そもそも今は、人間ですらねーし。
「もういい。萎えた。お前の技的なものを教えろ」
「技? えーとね、一番強いのは、なんでも焼きつくすまで止まらない炎と、――あと、時間を……」
「時間を……?」
そんなこんなで、俺はこのユエという竜と瞳を合成し、地上に戻ることになった。
流石、神に近い存在なだけあって、知識や常識は、オリバーたちのものとは違う視点のものだった。これはあまり言わないほうがいいかもしれないと考え、オリバーにもフェルトにも秘匿することにした。基本的には、ユエは寝てるか世界を見てるかしていて、俺が部屋にいるときは、たまに出てくる。フェルトの精霊王のことは見たことはないけど、彼らの関係に近いのかもしれない。
この愚かな泣き虫竜が、少しでも、自分で世界のことを考えられるようになるといいなあ、と思った。
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いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
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