引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-4 反乱の狼煙

89 {回想} 契約・前

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 そのあと、応接室的なところに招かれた俺は、その黒い男の話を聞くことになった。


「だって、俺、――違うんだ。龍脈っていうのがあるんだよ。その上に人が住んだりすると、あんまりよくないんだ。森にしといて欲しいっつーか、自然のままでなくちゃいけない場所……みたいなのがあるんだよ! だけど、――人間とは言葉が通じないから、俺、焼いたりするしかなくて!」

 なるほど、『黒竜が暴れまわり、田や畑を焼いてまわるせいで、大地はぼろぼろに疲弊していた』とこだな。

「それに、人間たちが勝手に、龍脈のあるとこを掘り起こしたりするものだから、雨が降りすぎたりしちゃうし、川は溢れるし!」

 …………『黒雲に包まれた空からは、大雨と雷が連日降り注ぎ、川は荒れ、家々は流された』ね。なんかいろいろあるんだなと思いながら、俺は死んだ魚のような目になった。

「でも、唯一〝龍の巫女〟っていうやつがいて、言葉が通じるやつだったんだ! そしたら、地下で龍脈の調整をしてくれないかってお願いされて、それで俺……今までずっとここで、この国のことを支えてきた。でも最近、様子がおかしくて、すごく流れが淀んでて、もう俺の力じゃどうにもならなそうなんだ……」

 めそめそと涙を流しながらこの龍が説明したことを聞く限り、歴史の裏に葬られた事実がえげつなさすぎる。要するに、この泣き虫は、『聖女』と『勇者』に利用されて騙されて……閉じ込められたんだな。地上では、完全な悪者にされているとも知らずに、健気に千年もこんなところで、国を支えて。

「お前……かわいそうだな」

 俺は正直、かわいそうなものに弱い。あと、馬鹿は嫌いだが、健気なやつにも弱い。そういう意味で、この竜の評価は半々だったけど。

「えッ! なんで?!」

 俺は、なにからどう説明したらいいか考えてみたけど、これはオブラートに包んでもしょうがないし、そもそも俺がそういうのは得意じゃないから、そのままズバッと言うことにした。
 俺はせめてもの慰めに、座っていたソファの隣をぽんぽんと叩いて、とりあえず、そのかわいそうな竜を隣に座らせた。「なに? なに?」と、嬉しそうにしている竜にこれから告げることを思うと、さすがに心も痛む。

「え?! え?! ……え? え、じゃあ俺、地上ではずっと悪いやつってことになってんの?! えッッ!!! まじで……?!俺の神殿とか建って崇められてたりしてないの?!」
「そういう話は聞いたことないな。むしろ、黒髪というだけで迫害を受けてる人間もいるくらいだ」
「…………嘘。なんで……アレク……キアラ……」

 俺は、小さくため息をつく。
 それから、唇を噛みしめて涙をぽろぽろと流し始めた竜を、ぎゅっと抱きしめた。

 これはさすがに――、かわいそうだ。

 馬鹿が騙されただけだから……普段ならそんなに気にもしないとこだけど、竜ってもしかすると、元来この世界での位置づけ的には、神に近いものなんじゃないだろうか。健気にこの世界のために、人間のために、と……がんばってたんだろう。
 それに建国記に『馬鹿な竜』と書かれていることが、俺を苛立たせていた。当事者達が、竜のことを馬鹿だと表現しなければ、そう記されることは、絶対になかったはずなのだから。
 俺より身長は高いけど、同じ年くらいの男が俺の肩口で涙を流してて、なんだか居たたまれない。

「――お前、名前は?」
「ない」
「ない? 竜は名前がないのか?」
「うん。俺たちは色で呼ばれてる。黒竜」
「ふうん。で、お前これからどうすんの? まだこの国のこと守ってやるわけ?」

 俺の質問に、きょとんとした顔をすると、「あー……そっかあぁ」と、さすがに竜もため息をついた。
 もう約束は守る必要もないし、そこまで献身的にすることもないんだろう。元から、こいつの好意でやってたようなものだから。

「レイは? どうして欲しい? 俺、レイがこの国を守って欲しいようだったら、俺、まだ――」

 俺は目の前にある、おでこを指ではじいた。

「バカなのか」

 この黒竜は、俺と対局にある存在だな……と俺は思った。こんな簡単に人を信じられるんだったら、騙すのなんて、赤子の手をひねるより楽だ。あーなんだろ、馬鹿はすげー嫌いだけど、このレベルまでの純真さを見せられるとかわいくも思える。
 それにしても……どうしたものか。第四階層のボスとして暗黒竜をスカウトに来たわけだけど、千年も地下に閉じ込められてて……というか、自ら望んでその位置にいて、これからもダンジョンの地下に永遠に縛るのはさすがに俺も頼みたくない。
 でも外に出たら、嫌われてるもんなー。

 いてて、と、おでこを抑えながら、頬を膨らましている男をじっと見つめる。
 ボスだろうがなんだろうが、頼めばなんでもやってくれそうだが、頼みたくはない。

「お前、この世界で一番強いモンスターだってほんと?」
「えー? 一番かどうかはわからないけど、ステータス的には、一番強いかもしれない。ただ、俺、そんなに頭よくないから、ゴリ押しだけど」
「ああ、それはなんかわかるけど。強いことは強いんだなー」
「なに? なに? それがどうかしたの?」

 うん、じゃあ……これが一番いいかもしれない、と心を決める。俺にとってもこの竜にとっても条件はいいし、おそらく俺の能力も高くなるわけだし……と思って、目をキラキラさせている竜に、とりあえず提案してみる。

「お前さ、一緒に外に行こう。俺に力を貸してくれ。それで、ちゃんと世界を見て、自分で考えろ」
「えー? どういうこと?」
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