引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-4 反乱の狼煙

87 {回想} ダンジョン経営戦略

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 数週間前――。



「なあ、この世界で一番強いモンスターってなんなの?」
「えーと……」

 いつもの通り、リビングの大きなテーブルを囲んで、一緒に昼食を取っていたオリバーは、考えるように少し上を向いた。
 オリバーが作った絶品海鮮トマトパスタをもぐもぐと口に頬張りながら、俺は今朝のことを思い出していた。


「レイ様。ルナティックもこれから売り上げは倍増するでしょうし、今のところスライムビジネスも順調は順調ですが、宝箱の件はどうしますか? ビアズリー商会におんぶに抱っこじゃ、いつまで経っても不安がつきまとうでしょう?」

 たしかにこのダンジョンは『素材』という意味では魅力的だが、なんせまだ第三階層しかできていないダンジョンである。いまだに、冒険者たちに甘い汁を吸わせるという意味では、かなり手厳しい構造になっており、経営がまかり通っていない。
 いつの間にか、オリバーは利用者の統計と結果を表にまとめたらしく、それを見ながら、俺とオリバーはダンジョン経営の戦略会議に勤しんでいた。

「なるほど。冒険者たちの五割は、捕縛されて繁殖場。一割は死亡。生還率は四割か。立地も悪いし、これじゃあリピーターも減る一方だろうな。世間的には〝繁殖場〟の存在は知られていないから、六割が死亡していると考えられているだろうし、これは一般的なダンジョンから見てもかなり難易度の高いレベルのダンジョンってことになる」
「そうですね。俺みたいな一般人からすると、絶対に近づいてはいけないダンジョンという位置づけですね。まあ、自腹切ってる宝物の質がいいからなんとかなっています。資源が豊富なため採掘者という近場で引き返すタイプの人間もいますので、その生還率を入れれば、四割よりはもちろんよくなりますけど、五割強くらいのものです」
「理想の生還率としては、八割五分くらいにしたいとこだな」
「八割五分という数字はどこから?」
「俺がなんとなく安心できる数字」
「個人的な主観に基づいた数値はあまり推奨できませんよ。でもまあ、一般的なダンジョンで言えば、七割以上の生還率があれば、リピートする者も多いでしょうね」

 ――困ったな。
 資金は潤っているから、宝物の購入の継続は、金額的には問題ないわけだが、でもこの愚策をいつまでも続けているわけにはいかない。できるだけ、自家発電、自給自足、そのスタイルに意向していかなければ、何かあったときに対応が追いつかないだろう。
 ルカのおかげで隣国からも宝物を購入することは可能だし、現に少しずつ頼んではいる。でもそれは、危ない橋が一本から二本に増えただけで、リスク分散というほどの結果を生んではいない。

「とにかく簡単な階層を増やすこと、それから、絶対に突破されないような階層も作ること」
「そうですね。当面は、冒険者たちの生体エネルギー確保しかありません。もうすぐ第四階層分が作れそうなので、次の階層は第一階層と入れ替えられるような、簡単な階層を作ることをお勧めしますね」
「あとは、第三階層のボスがまだだよな」
「そうですね。できればここはかなりの強敵をスカウトしてきたいところですが」

 ――強敵。
 そもそも、俺はまだこの世界についてよく理解できていないが、セイレーンのようにボスをスカウトしてくることが可能なのであれば、どこからか好待遇で凶悪なモンスターを引き抜いてくれば、このダンジョンの平穏は乱されないのだろうか。
 凶悪なモンスターというものが、一体どこでなにをしてなにを好んで、どういう生活をしているのかは定かではない。でもこのダンジョンだって、俺が好きなように改造できることを考えれば、彼らにもいい生活を提供できるに違いない。

「強いモンスターですか? うーん、いろいろいますけど、やっぱり大きなドラゴン系は迫力ありますよね。あ、別に見たことはないんですけど。強さの指標にもよりますけど、毒系なら……とか、水中なら……とか、あ、アンデッドなんてのもいたりします」
「ドラゴン。ドラゴンはたくさん種類がいるのか?」
「はい、結構いますよ。でも彼らは孤高の存在で、人間の世界とは基本的に馴れ合いませんね」
「存在は確認されてるのか?」
「まあ、一応。でも、おとぎ話レベルなので、実際の生態はよくわかってないです」


 そして、冒頭の昼食時の会話へと繋がるわけだ。


「――まあ、1番強いとされてるのは、やはり暗黒竜でしょうね。あ、ほら、黒髪が忌み嫌われてるって言ったでしょ? この国の成り立ちとして、初代国王が残虐な暗黒竜を倒し、お城の地下に封印したっていうのが一般的に習う建国史です。もう千年以上前の話ですから、今朝も話しましたけど、神話レベルの話ですけどね」
「ふうん」

「え、レイ様。まさか今朝話していた話、まさかドラゴン考えてるんですか? おとぎ話レベルですよ?」
「おとぎ話もなにも、実際にスカウトしに行けばわかるだろ?このダンジョンの仕様で、スカウトするモンスターを選定した後は、そこへつながる召還陣が現れるんだから」
「あ、そういえば、セイレーンのとき、レイ様ひとりでやっちゃって、俺見てないんですよ。危ない真似はやめて下さいよ。食べられちゃったらどうする気だったんですか」
「や、それも説明書に書いてあったんだ。交渉時は危害を加えられることはないって」
「説明書って、例のダンジョンの取説ですか? そうなんだ……」
「――まあとにかく、召還陣が現れるならいるし、現れないならいないってことでいいだろ?いるかいないかわかんないなら、試すのはタダだし、試すべきだ」
「ま、まさか、神話レベルのモンスターを目にするかもしれないなんて.....ドラゴンすら見たことないのに」
「まあ、とにかくやってみよう。飯食い終わったら」
「軽い!!!」

 青ざめて、残りのパスタが喉を通らなくなったらしいオリバーの前で、俺はもくもくとパスタを平らげた。
 それを、落胆とも呆れとも取れるような、げんなりした顔でオリバーが恨めしそうに見ていたが、俺はデザートまで食べきった。

(暗黒竜って……一体どんなやつなんだろう。やっぱり凶悪なかんじなのかな)

 飯を食い終わった後、俺はオリバーに言って、建国記の本を貸してもらった。孤児院の子たちのために買ったという絵本だったが、俺は時間を無駄にしないためにも、ひさしぶりに宝石さんの部屋に閉じこもり、その絵本を読むことにした。

 内容はざっくりいうとこんなかんじだ。


 千年前、この国は荒れ野原だった。
 黒竜が暴れまわり、田や畑を焼いてまわるせいで、大地はぼろぼろに疲弊していた。
 黒雲に包まれた空からは、大雨と雷が連日降り注ぎ、川は荒れ、家々は流された。
 そんな中、一人の若者が立ち上がる。
「あれは黒竜なんかではない。この世を暗闇に還す暗黒竜だ!あいつを倒せばすべてはうまくいく」
 若者は仲間を集め、暗黒竜を倒すことにした。
 一人の聖女と、勇者となったその若者を旗印に、彼らは馬鹿な暗黒竜をうまくおびき出し、
 その鋼鉄の巨体を剣で差し抜いた。
 暗黒竜の目は二度と開く事は無く、その膨大な力も聖女の手により、
 王都の奥深くにある地下神殿へと封印された。
 その後、その隠された神殿の上に、聖女と勇者はザイーグ王国を建国し、
 人々に平和をもたらしたのだ。
 めでたしめでたし。


「――なるほど」

 神話というだけあって、もちろん絵本だから……という理由もあるだろうが、不明瞭な点はいくつかある。
 千年前の話である。日本で言うところの、平安時代くらいのものだ。が、この世界の文化レベルから考えると、現代から平安時代を顧みるどころではなく、むしろ、どちらかというと、平安時代から紀元前を遡るくらいの具合だろう。
 内容がどれくらい正確なものかは、怪しいところだ。それにしても、――

「封印な? ……封印。倒すことはできなかった、ということか?」

 倒されていないんだとすれば、王国の地下でいまだに生きていることも考えられる。
 地下に閉じ込められて千年か。あと、これはどういう意味なんだろう?

「黒竜ではない、暗黒竜だ」

 ということは、黒竜という竜自体は、当初悪いものではなかったように書かれているように感じる。暗黒竜だと勇者が言い出したことで、黒竜は、人々の中で完全な『悪』と認識されたのだろうか。
 現状、その竜が封印されたことで平和が訪れたというのだから、なにかしらの悪いことをやっぱりしていたということなんだろうな。

 それからは千年ずっと平和。

「平和?」

 この話の中での、平和の定義はなんだろう。
 貴族王族は腐っているというのはよく聞くが、川は荒れないし日は出るし、作物が育って、とにかくみんなが問題なく生きていれば平和ということだろうか。
 そういう意味では、――平和か。

 うーん、いまいち腑に落ちないが、歴史背景はわかった。
 あとは本人に聞いてみたほうが早いだろ。

 本人がいるならさ。

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