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1-4 反乱の狼煙
83 カイル (フェルト視点)・前
しおりを挟む「フェルト先輩!!」
ダンジョンの前でレイと話をしていたら、俺に懐いてくれていた後輩が向こうから駆けてくるのが見えた。あ、そうか、レイが顔を元に戻したから気づいたんだ。
まだオーランド団長に報告もしてない上に騎士団内の意向も確認してないから、人質が見られるのはまずいかと思って、俺は自分から後輩、――カイルに近づいて行った。騎士団にいたときも人懐っこいやつだったけど、俺のほうに向かってぶんぶんと手を振りながら、笑顔で近づいてきた。
「やっぱり! 先輩が死ぬなんて絶対にないって思ってました!!!」
「――ああ、うん。いろいろあってさ。迷惑かけてごめんな。これから団長とも話そうと思ってたとこなんだ」
「そうなんですね! あの、あちらの方は?」
「ああ、俺の命の恩人なんだ」
殺そうとしてきたのもレイなので、果たして『恩人』と言っていいのかはわからないが、俺はレイのことを考えて、ふっとあたたかい気持ちになった。
「命の? まさか先輩が本当に死にかかったんですか?」
「俺だけじゃないよ。ジョー先輩たちも危なかったんだ」
「……そうだったんですね。先輩、どうして王都に戻って来なかったんですか。みんなすごく心配してて」
「そうだね。本当に申しわけなかった。カイルたちは大丈夫だった?」
「騎士団は、その、いろいろ大変でした。俺もちょっと。先輩、そのことで相談してもいいですか?」
「相談? ああ、――いいけど」
ちらりとレイのほうを振り返ると、オーランド団長やメルヴィル卿と一緒にいるのが見えた。団長たちと一緒なら、少しくらい大丈夫だろうと思って、不安そうなカイルに向き直った。カイルも身寄りがないせいか、俺のことを兄のように思っているようで、騎士団にいたときもいろんなことを相談されていたのだ。
俺に相談するよりも、クレメンス先輩たちに聞いたほうがいいのに……と思わないでもなかったけど、「俺もいつかフェルト先輩みたいに強くなりたい!」と目をキラキラさせて言われてしまうと、無下にもできずに、いつも話に付き合っていたのだった。
カイルからの話は、驚くことばかりだった。
調査隊が調査に出て戻らないということは、たまに起きる事故のようなもので、まさか自分たち平民のために王都がそんなに揉めることになるだなんて考えもしなかった。レイとメルヴィル卿は、今回の件はなにかがおかしいから気にしなくていい、と言ってたけど、俺が引き起こしてしまったようなものだ。迷惑をかけた団長たちには、なんとお詫びをしたらいいのかわからない。
カイルは、ちょっと恥ずかしい相談なんで人目につかないところに行きましょうと言って、どんどん森の奥に進んでいく。
この森は、商人の通る街道は栄えているけどそれ以外のところはなにもなく、とても暗い。アッカ村が開墾をしているとはいえ、つい先日まで、盗賊が孤児の売買をしていても、誰も気がつかなかったほど手つかずの森で、少し歩けば光も届かないほどだ。
そして、今日は月なし夜でもある。
『ちょっとフェルト、森の奥まで入りすぎなんじゃないの? なんか怪しくない?』
シルフィーの心配する声が聞こえた。
「カイルだから大丈夫だよ」と、安心させるように小声で言った。さっき王都でかなり力を使わせてしまったこともあり、「実家に帰っててもいいよ」と言うと、『帰るほどじゃないけど、ちょっと寝てようかな』という返答があり、シルフィーの代わりに三人の風の精霊たちがまわりに寄ってきてくれた。
ひと仕事終えたこともあって、俺もシルフィーもなんだかほっとしていた。
俺の視界にレイが入らないことが不安だけど、同じ森にいるのだから、なにかあれば精霊たちが教えてくれるだろうからと思って、カイルと会話を続けた。
「その……ジョー先輩たちが罪に問われてるって聞いたんだけど」
「そうなんですよ! ジョー先輩たちのことはもうしかたないですけどね」
「え?」
「でも大丈夫です! フェルト先輩のことは、俺がお願いしたんです!」
「え、ちょっと待って、カイルどういうこと?」
カイルの発言に違和感があって、俺は片眉を上げた。カイルはなんともないことのように、目をキラキラさせて話を続けた。
「俺、ちょっと城内でドジをしちゃったんです。それで貴族の人に怒られたんですけど、でも、――第二王女殿下が、助けて下さって」
「え、第二王女殿下が?」
「はい! 素敵な方ですね! 美しくて、聡明で、お優しくて。フェルト先輩のことも本当に心配なさってました!!」
「――あ、ああ、そう? なんだ」
第二王女殿下が?
あまり人を、――よりにもよって平民を、助けるようなことはしない人だと思っていたけれども。カイルがまだ幼いから、気にかけていただいたのだろうか。
「フェルト先輩がいなくなっちゃって、心を痛めてるって俺に話してくださって」
「はあ……」
「それで今回の遠征も、どうにかして先輩を連れて帰ってさしあげないと! と思って、俺、意気込んでたんです!」
「――あ、ああ」
「だから先輩がいてよかったー! もちろん、一緒に王都まで帰るんですよね??」
「…………あー、いや、俺は。今から団長にも相談してみないとわからないけど、ここに残るつもり……かな」
俺のことを慕ってくれるのはありがたいけど、正直、いろんなことがあって王都に帰るという選択肢はない。それに、まだメルヴィル卿たちの結果を聞いてはいないが、今回の一件のあとだ。騎士団の大半がもう、王都に帰る意志はないだろう。カイルは王都に戻るつもりでいるのか。それはそれでまずいんじゃないかと思って、俺は眉をしかめる。
だけど、ぽつりと小さな声が聞こえた。
「――……え?」
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