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1-4 反乱の狼煙
76 ハク先生・後
しおりを挟むそして、第二騎士団の噂が広まっている今、このタイミングでこの村を見学にきたってこと。確認しにきてるんだ。
なにをって――、きっかけ?
というかさ、なんていうんだろ……火の起こしどころ? を。どう考えたって、めんどくさいことしか頭に浮かばない。
世界が違っても、民衆、群衆、そういうのって多分変わらない。
民衆や群衆が変わらないのなら、それらが作る『歴史』も……やはり変わらないのだと思う。現代ですら、『歴史』は繰り返している。大もうけがしたいのなら、歴史を学べばいいのだ。人間は同じことを繰り返す。そして、時代の伏し目にはいつだって『煽動者』が現れるのだ。
自らがなる場合もあるんだろうが、『カリスマ』みたいな存在を信じたいと思うのが群衆心理というもので、地球ではそういうやつらが時代を作ってきてる。
はじめてアッカ村に行くことになったとき、ベラが言っていた発言を覚えている。
『人々は救世主に神々しさを求めるのよ!』
そのときは、たかが髪の毛の色……と、大して考えもしなかったが、それは多分この『ハク先生』の教えなんだろうと思った。
ベラはそこまで考えて、俺にそうさせたかったわけじゃない。あれは普通に、俺に対する理想があるだけだと思うし。
ただ、現状……アッカ村という小さな規模の群衆にとって、俺は『救世主』であり、それがこの男の求める『カリスマ』の器足るのかってことを、多分確認しにきてるんだ。
そのための見学だろう。
「なんてことでしょう! ……なるほど。あなたには時代を見る目がありそうだ。表に出すには、もってこいの人物だと思いますけど」
「俺は引きこもりで表舞台には出るつもりはないし、多分、――旗印は……俺ではない」
「『旗印』ふふ、本当にいろんなことがお見通しのようですね」
「他あたってくれ」
これは、俺のただの『勘』でしかないけど、『旗印』――だったのは、多分……。
どういう運命をたどって、そうなるのかはわからないけど。そう思えるくらい、渦中にいるやつがいる。
まあ……とにかく、今はこんなところで危ないやつに関わってる暇はない。話し合いはするつもりだけど、交渉が決裂した場合は、第二騎士団っていう精鋭に、本格的にダンジョン攻略をされることになるんだから。
「とにかく、俺らは急いでるから、――あと、知ってるかもしれないけど、騎士団が来るからあんまり近づかないほうがいいぞ」
「ええ、わかりました。レイさんもお気をつけて」
一体、ベラとオリバーから、俺のことをなんだって聞いてるんだろう。
オリバーの性格からして、ダンジョンのことを全部説明しているとは思えないから、俺のことを全部把握してるわけではないだろうけど……やっぱり得体がしれない。怖い人だな、と改めて思う。
「今のって……オリバーとイザベラ嬢の先生ってこと?」
ハク先生と別れると、ところどころ、会話でも聞こえたのか、フェルトが尋ねてきた。
「ああ、孤児院の先生だ。だけど、――フェルト。できるなら、お前はあの人に近づかないで欲しい」
「え? なんで……?」
「俺はちょっとあの人が怖い。特に……俺がいないときは、絶対に話に耳を貸さないでくれ」
「あーちょっとわかるかも。なんかあの人……洗脳とか上手そう。で、フェルトはすぐ騙されちゃいそう」
「えッ! 騙され……? え?!」
つーか、リンもリンでおかしい。
ただフェルトのことといいハク先生のことといい、俺の考えを察してくれるのってすげえ……楽だ。フェルトみたいに、よくわかってくれないのも、それはそれで癒しだから、その存在はありがたいんだけど、理解してくれる中立のやつっていうのも、なんかほんとにありがたい。友達……ってかんじだ。
「なんか俺、――今日、結構、リンがいてよかった」
「えー? ほんとー? でも俺もさ、なかなか話し合う人いないから、レイがいて嬉しいんだよ~」
フェルトがむうっとした顔をしてかわいかったけど、今日はたしかに、フェルトのよくわからない話をしてたから、ちょっと悪いなとも思う。
「でもさ、あの人……関わってきそうだね。なんか、遠巻きに見てて、目つけられてんな~てかんじだった」
「ハア」
まじで関わりたくない。
だってあれ……時代的にはどうあれ危険思想のやつだろ――。
ただでさえ、懐に、あいつの手先みたいなやつが二人も入ってんだからさ。ベラもオリバーも報告はそこそこにしてくれるといいなあ、と思う。ベラもオリバーも、多分、あのハク先生すらも……悪いやつじゃない。どちらかというと、いいやつ側の人間だから……怖いんだ。
わかりやすい悪と、わかりやすい善しかないなら、戦争は起こらないと思うから。
このときの俺は、リンの予想が間違ってることを願うばかりだった。
騎士団のこともあったし、このことに関しては、ただ願うばかりで、楽観的に考えていたのだ。
そう、ひどく――楽観的に。
――だから気がつかなかった。
この日、――レンベルグで、いや、グレンヴィル地方で……なにかが起きてしまうなんてことまで、頭がまわらなかった。
ハク先生が一体どういう人間で、この日、元孤児たちに一体なんの連絡をして、なにをしようとしていたかなんて。
俺の知らないところで、事態は急変していたのだ。
騎士団を送るついでにレンベルグに立ち寄ったベラたちに、なにを言い渡しているかなんて、俺には知る由もなかった。
「イザベラ、オリバー、エマ。この町に残っている卒業生は、あなたたちだけです。私はこれが――待っていた機会だとみます。おそらく、彼が時代の中心になるでしょう」
「はい、先生」
「……はい」
「ふふ、乗り気ではありませんね、オリバー」
「ハア、わかっていたんです。最初の出会いから、全部が『きっかけ』じみていましたから」
「『きっかけ』だなんて、なんだか今日は物語じみたことをよく聞く日ですね。本人に、旗印にはならないと、釘を刺されてしまいましたが」
「あの方は、見ている世界が違います。この世界に、神が遣わした方なんだと思います」
「――オリバー、イザベラ、あなたたち、私にまだ隠していることがありますね?」
「彼のすべてをお伝えするのは、とても難しいです。それに、あの方は先生の『駒』にするのも、正直難しいと思います」
「私も、そう思います」
ハク先生と呼ばれた男は、残念そうな顔でひとつため息をつくと、気持ちを切り替えたかのようにキリッと前を向いて言った。
「――まあ、それでも、これは大きな『機会』なわけです。今がはじめるときでしょう」
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