78 / 119
1-4 反乱の狼煙
75 ハク先生・前
しおりを挟む前回、ラムレイの軍が来たとき、アッカ村はひどい目にあった。
村人や孤児たちが怯えるかもしれないと思って、第二騎士団が来る前に、フェルトとリンと一緒にアッカ村に伝えにきたのだ。とりあえず村長に話し、村全体におおまかなことを伝えてもらった。
村人たちは不安がっていたが、まあ……不安なのは仕方がないことだ。でも、第二騎士団が平民で構成されていることを伝えると、幾分か不安も和らいだようだった。
村の様子だけでも見回って帰ろうと思いながら、民家の角を曲がったとき、見知らぬ男にぶつかった。
「おっと、すみません。ちょっと見学していたもので」
「……見学?」
「アッカ村が開拓をはじめているという話を小耳に挟みましてね。孤児を集めているという話も聞いたので、興味があって見学に。ああ、銀色の髪に紫の瞳――、もちろん、あなたのことも」
フェルトが警戒して、ピリッとした空気が流れた。
落ち着いた優しげな風貌、ゆるくウェーブのかかった水色の髪を、うしろで縛っている。丸めがね。服装は平民の服だが、所作がきれいだ。
なんとなく、心当たりがあるなと俺は思った。こんなところまで見学に来るやつで、見知らぬやつだというのに、村人も大して警戒している雰囲気がない。誰かの知り合いなのだろう。
おそらく、ベラとオリバーの――。
「こっちに移転でもするのか?」
「ッ……ご察しが早いようで。そのつもりはありませんでしたが……どうにも不思議なことがたくさん起きているようですので確認に」
「まあ、減るものではないし、いくらでもどうぞ。ただ、ベラもオリバーも今は出かけてていないんだ」
おそらく、この人物が、貴族の元教師だっていう『ハク先生』だろう、と思った。
俺はフェルトに「大丈夫だ」と目線で示すと、リンと一緒に少しだけ離れてもらった。なんとなく……この男をフェルトに近づかせたくないのは、俺のほうだった。
しかし、このタイミングでこの村の見学に来るだなんて、その背景を勘ぐってしまう。
「私のことはなんて聞いてますか?」
「先生としか」
「どういう印象ですか?」
「怖い人。あんまり関わりたくない」
にこにこと人畜無害そうな笑顔を浮かべていたハク先生だったが、俺の言葉を聞いて、きょとんとした顔になった。
「……怖い、ですか? 優しそうとか、弱そうとか……そういうことはよく言われるのですが。それはまたどうして?」
「理想のために、人を駒のように考えることのできる人間は、面倒だから」
何度も思ったことだ。
ベラとオリバーの考え方はおかしい。この時代にあっていないし、元孤児の持てる視点ではない。
たまたま俺が関わったやつらが変な可能性もあるけど、その孤児院出身のやつらはみんな職につき孤児院に還元する……と、オリバーが言っていたのを聞いたことを思い出す。別にオリバーとベラだけではなく、おそらくその孤児院出身のやつらの視点は、ほぼ全員おかしいんだろう、という推論に行きついていた。
孤児院というのだから、元はみんな〝孤児〟なのだ。
孤児っていうことは、子どもだ。子どもがそんな視点を持つことができるようになるのは、教育が施されているからだ。
おかしな視点を持ったやつの教育が、オリバーにもベラにも染みついている。
――別に悪いことではない。
それに、オリバーとベラを見てればわかる。別に悪いことを教えられているわけではない。人格はいたって真っ当なのだ。ただ、『ハク先生』とやらには、関わりたくないと思っていただけで。
「………………ふふ……ふッあははは!」
「ほら、もうその笑い方が面倒だ。なんかすんなら勝手にやれ。俺を表には出すな」
この男はおそらく、まだ三十代後半だろう。そんなに年を取っていないことを考えると、一体どれくらいの孤児を育てたのかはわからない。最初から上手くいったわけでもないだろうし、孤児院出身のやつらがどれくらいこいつに教育されているのかも、わからない。
ただ、そういうやつが教育を施した駒を国中にばらまき、なにを待っているのかということだけは……明らかだ。
タイミングを待っているんだ。
――――『革命』の。
64
お気に入りに追加
803
あなたにおすすめの小説
ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
釣った魚、逃した魚
円玉
BL
瘴気や魔獣の発生に対応するため定期的に行われる召喚の儀で、浄化と治癒の力を持つ神子として召喚された三倉貴史。
王の寵愛を受け後宮に迎え入れられたかに見えたが、後宮入りした後は「釣った魚」状態。
王には放置され、妃達には嫌がらせを受け、使用人達にも蔑ろにされる中、何とか穏便に後宮を去ろうとするが放置していながら縛り付けようとする王。
護衛騎士マクミランと共に逃亡計画を練る。
騎士×神子 攻目線
一見、神子が腹黒そうにみえるかもだけど、実際には全く悪くないです。
どうしても文字数が多くなってしまう癖が有るので『一話2500文字以下!』を目標にした練習作として書いてきたもの。
ムーンライト様でもアップしています。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました
無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。
前世持ちだが結局役に立たなかった。
そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。
そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。
目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。
…あれ?
僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる