引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-4 反乱の狼煙

78 オーランド団長と話し合い・後

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 オーランドの天幕に向かう前に、俺は簡潔に今聞いた話を伝えると、さすがに二人も絶句した。
 フェルトにおいては、もはや顔色を失っている。

「どうするつもりなの? レイ」
「うーん……正直、人質をどうにかしないことには、こっちの交渉はできないよ。さすがに逃がしたフェルトの先輩たちを売るわけにもいかないし、ラムレイを戻して事態が好転するとは思えない」
「と、投獄……極刑……身分剥奪……」
「いや、さすがに頭おかしいでしょ。これ、第二王女殿下だけじゃないよ。なんかの陰謀だよ。この国を崩壊させたいとしか思えない。第二騎士団だよ? この国の平民の希望で、国っていうのは、平民で成り立ってるっていうのに」

 そうかもしれない。なにかの陰謀かもしれない。だけど、今はそうじゃないのだ。
 呆然としているフェルトは役に立ちそうにないけど、さいわいリンがいるのだから、どうするかっていうことを考えないと。 
「なあ、投獄っていうのは、どこにされるんだ?」
「だいたいは王都の監獄だと思うけど」
「王都の中か。なあ、もしなんだけど、もし、大勢の人間を牢から一歩も出さずに、王都の外へ移動する方法があったとしたら、逃がすっていう手もあると思うか?」
「えぇッ?! ……そんな夢みたいな魔法があるなら、どうにかなるかもしれないけど。役人の顔に顔を変えて、監獄に侵入して人質を逃がすみたいな? レイの魔法があれば、辿りつくまではそんなに問題じゃないと思う。その捕まっている人質の人数だけが問題だから」
 
「え、まさかレイ……助ける気?」
「だってこの状況……なにしても地獄すぎるだろ。この状況でフェルトを差し出して、いいことあるか?」
「愛だね~愛♡」
「ちょっとメルヴィル卿! ふざけないで下さい。でもレイ待ってよ。人質を移動する魔法なんて、そんなことッ」
「うーん、俺自身の力ってわけではないんだけど、もしかすると、裏技的な? ちょっとごり押しすれば……もしかすると、いけるかもしれない」
「でも、レイ……その、危ないことは」
「なんかこのままだと、お前、俺が考えてることよりももっと危ないことをひとりでしそうだ。ま、とにかくオーランド団長と話そう」

 俺たちが天幕に戻ると、リンの姿を見たオーランド団長は目を見開いて、地面に跪いた。

「リンゼイ様でしたか! ご無沙汰しております。今回の一件、リンゼイ様の処遇のことも聞き及んでおります。その節は、騎士団をかばっていただき、なんとお礼を申し上げれば良いか」
「あーうん、大丈夫大丈夫。俺はほら、もとから見放されてるようなもんだから。左遷も、レイと会えてラッキーくらいのかんじで。とにかく座って座って」

 俺はリンを見ながら、ぽかーんとしていた。
 こいつ貴族なのは知ってたけど、すごい偉そうだな! 横でフェルトが涙目で立っているけど、今の顔は別人なので、ただの変なやつにしか見えないぞ……と内心思う。

「すみません。辺境に住んでいる身、王都の情勢には疎いんです。メルヴィル卿に同席していただこうと思います」
「え! メルヴィル卿だって!? レイ……敬語使えたんだね」
「うるさい」

 俺たちのことを見て、びっくりしたような顔をしていたオーランド団長だったが、ハッとしたように我に返ると口をひらいた。

「リンゼイ様、――あなた方、穏健派の方々が王都をあとにしてから、大変な騒ぎになっていて、私たちも正直、どうすればいいのか、――」
「話はレイから聞いたよ。それって、もう国を離れるかとか、そういうレベルの話かな?」
「そうですか。――リンゼイ様にお伝えするのも、本当に心苦しいのですが……正直、私たちも家族を人質に取られることがなければ、早くこの国から離れるべきだったかと、考えるほどです」
「……今回の件は狂ってるよ。王女殿下はともかく、王子殿下たちもなにも動きはなかった?」
「――今回の件、知っているものは限られているようで、王子殿下たちまでが把握しているかどうかはわからないのです」
 
「で、オーランド団長はどうするつもりでここまで来たの?」
「――っ、家族と、部下、部下の家族の処遇を全部背負っている身です。命令に従うほか……ありません」
「フェルトたちが生きているなら、首を差し出すしかないってことだね。まあ、命の重さ云々はなんとも言えないけど、それしかないだろうね」
「しかし! 団長でありながら、罪もない部下を――! 私は……私は……」
 
「うん、でも現状、フェルトたちは行方不明で、死亡しているということになっているよね。レイからなんか聞いたかもしれないけど、現状死亡、成果もなく帰れば身分剥奪。その場合は、どうするつもり?」
「――そ、それは、家族部下ともども身分を剥奪されるか、そ、それとも、死を覚悟して家族を奪還するかということでしょうか」
「うん、どっちのほうがましな地獄なんだろうね」

 オーランド団長は頭を抱えてしまった。

 ――なんていう選択肢だろう。
 フェルトが拳を握りしめ、わなわなと震えているのがわかる。俺は当事者ですらないが、ひどい国、ひどい政治、ひどい時代、なにを恨めばいいのかすらよくわからないだろう。

「――ぶ、部下とも、話してみなければなりません。でも、私は、私は! もう、この国に従うことはできない。家族もそうだと思います。おそらくは、部下たちも」
「そう。じゃあ、奪還のほうだね。――で、レイちゃんどうすんの?」

 というリンの言葉に、もはや涙目のオーランド団長も、つられて俺のほうに振り返った。

 俺は、ハアとため息をつくと、少し考えてから口をひらいた。昼間、このタイミングでハク先生に出くわしたことも、なんとなく頭を掠める。
 多分、この国は『革命』という流れの中にあるんだろう。さっきリンたちが言ってたみたいに、王子殿下? がどういうやつらなのかはわからないが、こんなことがまかり通っている以上……この国はただの泥舟でしかない。
 俺がなにをする、なにをしない……以前の問題で、決壊する寸前の国というだけのことだ。
 
 まあできることを、――するしかない。

「そこまでの決意があるのでしたら、私に今晩だけ時間を下さいませんか? 騎士団の方々もお疲れでしょう。日にちがないので焦っていらっしゃると思いますが、ダンジョン捜索は明朝からにしていただけるのであれば、ひとつだけ考えがあります」
「それは、――その、構いませんが……部下や家族に危害が及ぶリスクのあることは、――その……」
「もちろんです」
「オーランド団長。レイはこう見えて不思議な魔法を使うから、明朝にはなんかいいこと起きてるかも?」
「家族がもし助かるとしたら、あなたの部下の方々はどういう未来を選びたいと思うのか、それだけ確認をしておいてもらってもいいですか?」
「――はあ、わ、わかりました。家族が助かるというのなら、それは皆、もう……他国に逃げたいと思いますが」

 オーランド団長は、意味がわからないという雰囲気だったが、リンのことをよほど信頼しているのか、一応納得してくれたようだった。

「では、メルヴィル卿に人質のリストと投獄されている場所をお伝えいただけますか? そのあとは、明日までゆっくり休んで下さい。物資など足りないものがありましたら、ビアズリー商会に頼んであります」
「――本当に、感謝いたします」

 リンとフェルトを残して、とりあえず天幕を出た俺は――宝石さんの部屋に向かった。
 それから、誰もいない室内で、俺は呟いた。


「――なあ、聞きたいことがあるんだけど?」





――――――――
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