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1-4 反乱の狼煙
77 オーランド団長と話し合い・前
しおりを挟む「はじめまして、オーランド第二騎士団長殿。レイと申します」
「!!!――……は、はじめまして、レイ様。わざわざご足労いただいてしまってすみません。今回の救援物資、本当にありがとうございました」
「いいえ、噂を聞いて勝手に手配してしまいました。私はただの平民ですので、レイと呼んで下さい」
その夜、俺はオーランド第二騎士団長の野営の天幕を訪れていた。
オーランド団長は、俺の容姿を見て驚いたようだった。おおよそ、若いとか、月の女神だとか……そういう驚きだろう。
「わかりました。レイさん。その、イザベラ嬢から『話し合い』がしたいとお伺いしたのですが、――」
「その、今回のオーランド団長たちの遠征に、前回の調査隊の一件が関わっているとお聞きました。捜索にいらっしゃったとか」
「はい、その通りです」
「そのことで、お話ししなければならないことがありまして、――実は、調査隊がダンジョンに来た際に、ラムレイ辺境伯爵のご子息が亡くなりました。調査隊の方たちも瀕死の状態で、たまたま探索中だった私が治療を施させていただいのです」
「!!! それは……!」
「オーランド団長たちは、今回一体どんな任務でこちらにいらしてるんですか? 具体的な期間や達成内容を、できればお伺いしたいのですが」
「――そ、それは、いや、そうですね。あなたは部下たちの恩人ですから、話したほうがいいのかもしれません」
そう言って、オーランド団長は渋い顔をして俯くと、ゆっくりと話し出した。
「今回の任務、私たちにもなにがなんだかわらかないのです。真っ当な理由があるとは到底思えない。私たちは一ヶ月以内に、前回出した調査隊を捜索し、帰還しなければならないのです」
「一ヶ月ですか? 往復の距離を考えるとそれは――」
「そうなんです。前回調査隊として出した者の中に、〝フェルト〟という平民の騎士がいたはずです。ご存知ですか?」
「はい。存じています。若くて将来有望な騎士で、昇進が間近だったと聞きました」
「その通りです。平民という存在でありながら、近衛の昇進が決まり、貴族たちは大いに反発していました。それがフェルトがダンジョンで行方不明になり昇進もなくなったので、落ち着くかと思いきや……その論争は思いも寄らぬ方向に飛び火しました。せっかく近衛に採り立ててやったというのに、間近に失踪するとは国家反逆罪だと。幸い、彼には身内のものがいませんでしたので、被害は出ませんでした。彼と一緒に派遣された騎士たちも、家族がいたものは本当に運よく、他国に引っ越したばかりだったようです。ただ、もし彼らに残された家族がいたらと考えると、本当に恐ろしいことになっていたのではないかと思います」
国家反逆罪……という言葉を聞いて、俺は目を瞬いた。
いろんな想定をしていたけど、これはあまりにもひどい。平民に人権があるとも思えないありさまだ。
「それは一体どういう論理なんでしょう。私には到底理解できません。騎士団でありながら、そんなに平民差別が……それが現状なのでしょうか」
「ええ、今回の一件は私たちも、正直、狂っているとしか思えません。一体この国でなにが起きているのか」
「しかし、それでは、たとえあなた方が捜索に成功し、彼らを連れて帰還したとして、彼らの処罰は一体……」
「ええ、フェルト以外は、極刑が決まっております」
「極刑……?」
信じられない。王族からの昇進を断れば死刑囚とは……。
いろんな歴史を学んできた中でも、今のザイーグ王国の現状はかなりひどい時代の中にある。あのまま彼らを帰していたら、どうなっていたんだろう……と思って眉間に皺を寄せた。
俺が言葉を失っているのを見て、オーランド団長はため息まじりに続けた。
「……国家反逆罪ですから。私どもは、今回、仲間を死へ追いやるために捜索するわけです」
「見つからなかった場合はどうなるんですか?」
「――っ、」
オーランド団長の表情は悲痛を極めた。
「私たちの家族が今、人質として投獄されているのです」
「――……は?」
「明確なことを伝えられたわけではありません。ただ、――私たちが彼らを見つけることができなかった場合、私たちは家族を含め、身分を剥奪される可能性が高い」
「身分剥奪――」
騎士であっても彼らは平民。その身分を剥奪されるということは、奴隷堕ちか、罪人ということだろうか。
「はい。おそらく……隷属の魔法を施されるのではないかと、危惧しております。ただ、人質を取られている以上、私たちにできることは、従うほかありません」
「ちょっと待って下さい。その、国は、――国のために働いている騎士たちを、そんなことのために奴隷にするんですか?」
「ええ……騎士である前に我々は平民です。貴族じゃない者のことなど、……なんとも思っていないのでしょうね」
「……それで、この無理な行軍を」
これは……思っていた以上にひどい。どっちに転んでもいいことがひとつもない上に、救いもない。
国もこれは――、なんにも考えてなさすぎだろう。リンが反対してうんぬんと言っていたのは、こういうこと? やりすぎだと考えたまともな貴族たちが左遷されて、馬鹿しか残ってないから、こういうことになってるのか……?
この国……泥舟すぎるだろ。
「すみません。――ちょっと友達を呼んでもいいですか……貴族なんですけど、まともな方なので、――」
俺は、さすがに頭を抱え、天幕の裏の森で待機してるリンに話を聞こうと思った。
オーランド団長の許可を得て、リンに話を聞いてもらうことにする。フェルトはあらかじめ見ためを変えてあるので、リンの従者として一緒に話を聞いてもらうことにした。
「リン。ちょっとこれは俺の予想を超えてひどい状況だ。一緒に話を聞いて欲しいんだけど、中に来てもらえる? フェルトも悪いんだけど、リンの従者ってことで、一緒に来て欲しい。ただ、フェルトはしゃべっちゃだめだ」
「了解」
「――うん、わかった」
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