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1-4 反乱の狼煙
74 騎士団の幽鬼的な行軍・後
しおりを挟む「――ってことなんだけど、フェルトくん。自分のために国が動くことなんてないって言ってたのはどこいった?」
「えー……いや、でも、まさか……。というか、団長たちのあの様子は一体、なにがどうなって……」
「これ一体どういう魔法なの? イザベラ嬢の視点と音声が聞こえてるってこと? レイの魔法すごい! ていうか、遊びにきてみたら、なんかすごい展開になってるんだね~」
いつものリビングで一緒に画面を見ていたのは、週末で訪ねてきていたリンとフェルトだ。
オリバーはベラと一緒に荷馬車のほうにいる。リンにはいまだにダンジョンのことは詳しく話してはいないが、ダンジョンのモンスターの研究をしながら、ここに住んでいるとでも思っているんじゃないかと思う。
ぼろぼろの騎士団がグレンヴィルに向かっているらしい……という情報を持って来たのはベラだった。
商人のネットワークは広く、また、ベラのうちの新しい布の商売がうまくいってることもあり、王都から買いつけにきてるやつらからもたらされた情報なのだろう。リンにはじめて会ったときに、第二騎士団がとばっちりを受けているという話は聞いたが、その一貫だろうか? と考え、俺たちはしばらくベラの情報の更新を待って様子を見ていたのだが、――三日三晩寝ずの行進だなんて尋常じゃない。
報告に聞く、疲弊した様子というのも気になる。
なんと言ってもフェルトの仲間である。
フェルトも心配して向かおうとしていたが、渦中の人間をそこに追いやるわけにはいかなかった。ただでさえ、ニアの一件もあり、誰がどんな思惑で、なにをしようとしているのかまったく不透明な状態で、おそらく一番の中心人物(多分)を差し出すわけにはいかない。
とりあえず、レンベルグのダンジョンに向かっているらしいという情報が確定になった時点で、ベラに頼んで動いてもらったわけだった。ベラの聴覚と視覚を、一時的にダンジョンのスクリーンにつながせてもらった。
王都ファシオンからレンベルグまでは、馬車で二週間ということだったから、馬に乗っている騎士団なら、全速力で駆けてくれば一週間くらいで着くかんじだろうか。フェルトたちが来たときは、ラムレイが馬車を用意していたらしく、そのスピードに合わせて来たとのことで……騎士団の速さがいまいちわからない。
とにかく一週間くらいだろうと考えていたが、寝ずに行進をすることで、俺たちが予想したよりも早い到着となっている。
ただ、どういうわけだか替えの馬があるわけではないようで、結局馬も疲弊し歩いていたわけで、なにがしたいのかわからなかった。
これはたしかな情報ではないので微妙なところだが、どうやら十分な物資を持っていないらしい。金銭的な問題もあるんじゃないか、というのがベラの見解だった。国の騎士団とあろう団体が、どういう管理下に置かれているのか、はなはだ疑問だ。
「――なあ、意味がわからなすぎなんだけど、これって、リンが言ってた第二王女的な話?」
「レイ。この意味がわからなすぎなところが、第二王女殿下的な話である証拠だと思うよ」
「論理とか、筋道とか、常識とか、そういうものが当てはまらないところが……?」
「ああ、間違いないね。ただの癇癪で、多分行軍させられてる」
「………それって、その、まさか俺が失踪したせいで、団長たちはこんな目に合っているってこと――?」
流石のフェルトも顔色が悪い。
フェルトはリンや俺のように、前情報があったわけではないから、まさか自分のせいでこんなことになるとは考えてなかったはずだ。仮にも、フェルトの言う通り、彼はただの一平民騎士でしかないわけで、本来はこんなことになるわけがないのだから。
これは別に、フェルトが、自分自身のことを過小評価しているということではないのだ。
たしかに、精霊王のことや近衛昇進なんていう……異例の特性はある。でも、フェルトはただの平民騎士であって、顔を変えて失踪したほかの三人の騎士とまったく変わらない存在なことには間違いない。
おかしいのは、周囲の反応のほうだ。
「なんて説明したらいいのか、正直言葉が見当たらないけど、フェルト、これはお前じゃなくて、周りがおかしいんだ」
「……俺、本当に、こんなことになるなんて思ってなくて……」
「いや、それが正しいよ。殿下の奇行はもとからだけど、流石にこれがまかり通るのは、おかしいよ。フェルトの判断がおかしかったとは僕も思わないなあ。どういうことなんだろ」
リンは俺の言わんとしていることが、なんとなくわかっているようだ。
でも本来はこうならないはずだったとしても、現在進行形でこんなことになってしまっている。今はその原因を、なんで? どうして? と考えている場合でもないから、とりあえず対処しないといけない。
「フェルト。このことに関しては、お前の判断が引き起こしたわけじゃないと、俺も思う」
ただ、なんていうか……いろんなことが、フェルトを中心に起きているような気がしてならないだけで。
それはやっぱり俺が異世界から来た日本人で、ゲームや漫画の影響かも? と思わないでもないけど。フェルトはこの世界にとって、重要なキーファクターな気がする。
でも、そんな荒唐無稽なこと、リンやフェルトに言ったってしょうがない。この前酔っぱらったときに、リンとはそんな世迷いごとを話したけど、あれはあくまでも酒の席での話だ。
――フェルトが主人公ぽいだなんていうことは。
リンはなんとなくそういうファンタジーな話も好きそうだし、わくわくしている様子も見てとれるけど、でも、それもやっぱり……ただの娯楽みたいなものだろうから。
「とにかく、あのオーランドっていうやつに事情を聞こう。そうすれば、しなくちゃいけないことはわかるはずだ。あれだけの無理をしているんだ。なにかそうせざるを得ない理由があるはず」
「そうだね。オーランド団長は本当に思慮深い御方だから、なにも理由がないのに、こんなことをするわけがないよ」
「――そ、そうだけど。俺、結局なにもわかってなくて」
「俺もわかってない。大丈夫だ」
不安そうなフェルトの頭をぽんぽんとしてやると、フェルトは俯いて考えてしまった。
やっぱり自分の判断を後悔してるのかもしれない。俺は「うーん」と考えて、俯いているフェルトを、下から覗くと、顔がくっつきそうなくらいの位置から、上目遣いで聞いた。
「なあ、フェルト。じゃあお前、俺と関わらなければよかったと思うわけ」
「――そ、そんなわけない!!!」
「なら、後悔したってしょうがないだろ。お前はここで、俺と生活することを選んだんだから。とにかく今できることをしたらいいだろ」
「――うん。うん、そうだね。ごめんレイ」
フェルトの頭にしゅんとした耳と、うなだれたしっぽが見える気がする。
俺がきゅううんとする胸をおさえながら、くっと顔をしかめていると、横でにやにや見ていたリンが楽しそうに言った。
「あれー? なんかちょっと見ないうちに、進展あった? あ、ちゃんと気づいてるんだからね。レイのピアス~」
「いいだろ。もらったんだ」
「フェルトって粘着質だったんだね。これはこれで、いいバランスかも」
「ちょ、なんですか! どういう意味ですか……メルヴィル卿!」
――ま、とにかく。夜にはこの辺りに着くんだろうし、オーランドっていう団長? と、ベラの言う通り、話し合いだろうな。
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