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1-4 反乱の狼煙
72 ほろ酔い(フェルト視点)・後
しおりを挟む俺は、バッと勢いよくレイのほうを振り返った。
いつもとは違う優しげな表情のレイが「なに?」と、とろんとした目で俺を見ているのを確認し、俺はぎゅっと紙を握りつぶした。
(く……薬?! えッ! な、なんか変なものじゃないんだよね?! 素直になれるってなに、れれれいはいつも……素直だとは思うんだけど)
俺は頭の中を疑問符で埋めながら、にこにこするレイを見て不思議に思った。
人をからかうのが好きなメルヴィル卿のことだから、どこまでが本当かとか、どこまで狙ってやってるのかとか……いろいろ思うところはあるけど、嘘はつかない人だ。
文面に書かれたことに、偽りはない、――と、思う。
でも、そうなると、ん? 素直? ってことは――。
(これが『防御のなくなった状態』の『普通のレイ』ってことなのかな……)
レイは相変わらず、俺の髪の毛をふわふわくるくると、指先でいじっている。
防御……という言葉を考える。レイが俺に好意を持っていてくれてるような気がするのにうまくいかない気がするのは、その防御のせいってことなんだろうか? よくわからずに考えていると、レイの動きが怪しくなってきた。
それから俺の髪の束にちゅっと口づけると、そのまま俺の首筋を唇でなぞり、耳元で甘く囁いた。
「なあ……付き合うってこういうかんじ?」
「ぇあッ! ちょ、ちょっと……れぃ」
いつもより甘いレイの低い声にぴくっと体が反応してしまった。
グラスを持っているほうのレイの手は、俺の股の上に置かれていて、すりすりと指で内側を撫でてくる。熱っぽくじっと見つめられて、心臓の音が速くなってきた。
レイから放たれる壮絶な色気に当てられて、くらっとする。
(これが本当に『素直』な状態のレイなんだとしたら、俺の心臓が持たないよ……!)
こぼれそうになってるレイのワインをテーブルに置こうとすると、レイがぐいっとグラスを煽って、そのまま強引に口づけてきた。
「んんッ!」
そんな酔っ払いみたいがしそうなことをされるとは思ってなかったから、不意をつかれてしまう。
甘く染まったレイの舌がゆっくり俺の口内を動いて、俺はその酒のせいなのか相手がレイなせいなのか、そのあたたかさにうっとりしてしまった。
口の中にも気持ちいいところってたくさんあるってことは、レイとキスするようになってはじめて知った。
弱いところを優しく撫でられて、頭がじんと痺れた。
「ふ……んぅ、……れッ」
レイの舌の熱さにぼーっとしてたら、グラスをテーブルに置いて自由になったレイの手が俺の股をなぞり、腰をぎゅっと引き寄せられる。そのまま、レイに抱きかかえられるように、ぽすんと二人でソファのクッションに倒れ込んだ。
俺の腹のあたりに熱くて固い感触があって、俺は思わず期待したような吐息を洩らしてしまった。かああっと体温が一気に上がる。
それを見たレイが不思議そうな顔をして、俺の頬を両手で挟みながら言った。
「お前が誘いに来たんだろ」
そう、くすくす笑いながら、俺の腹筋の辺りに股間を軽く擦りつけられる。「そ、そういうつもりじゃッ」って慌てて否定したけど、「ふうん。じゃあ……いらない?」と聞かれて、「う」と言葉につまってしまった。
レイの熱い陰茎に……思いっきり中を擦られたときの快感を思い出して、体中に痺れが走った。
体が密着した状態でレイの欲望を思い出してしまって、「はあ」と夢みてるみたいな熱い息が口をついて出た。
「えろい顔」
俺が一体どんな顔をしてるのかはわからないけど、きっと……レイのペニスに尻の中をめちゃくちゃにかき回されてるときみたいな顔をしてるに違いなかった。
だって、両手で頬を固定されているというのに、さっきからハアハアと変態みたいな吐息が口から洩れてる。その期待しているような顔をレイに真正面から見られてるのが……すごく、恥ずかしい。
「なあ、お前、――俺のこと好きなの?」
レイが少し不安そうに……でも視線は真っ直ぐに俺を見たまま訊いた。
俺は思わず「……好き」と誘われるように口にしてしまった。「あ……しまった」と思って目を開けたときには、レイがぱちぱちと瞬きをして驚いていて、それから、いつもとは違う……柔らかい笑顔をして言った。
「――俺も」
その笑顔を見て、俺のほうが溶けてしまいそうだと思った。
それから俺が放心している間に、まるで品定めでもするみたいに唇をぺろりと舐められて、そのまま食べられた。ちゅ、ちゅ、と角度を変えながら、唇をついばまれて、熱い舌先が中に侵入してくる。
レイはゆっくりキスをするのが好きみたいで、俺みたいに興奮して焦ったかんじのキスなんてしない。なんていうか……俺の反応を見ながらゆっくりと味わうみたいにキスをして、その速度に……俺はどんどん溶かされて。
唇を離される頃には、いつもとろとろに溶けてしまっているのだ。
「……っはぁ」
俺の口からとろけきった熱い吐息が洩れるころには、すっかりシャツのボタンは開けられていた。レイの手が俺の肌の上を這う。つんと立ってしまっている胸の尖りを、器用な両手にいじられて震える。
「んッ……れいっ」
唇は触れたまま、敏感なところをいじられて、俺は腰がゆらめく。
そのたびに俺の熱くなった中心がレイの膝に刺激されて、「んんっ」と女の子みたいな声をあげてしまう。
――気持ちいい。
レイのキスってなんでこんなに気持ちがいいんだろう。
レイの性的趣向とキスの甘さが……噛み合ってないからなんじゃないかって思ってる。そのギャップにほだされて、天国と地獄を味あわされて、わけがわからなくなるのだ。
いつもならこの辺りで絶対に腕を縛られるし、なんなら目隠しもしたがるし陰茎にも戒めをつけられるけど、今日のレイはなにも言わない。下着を濡らしてしまっている俺の中心にも気づいているはずだけど、レイはまるで恋人にするみたいに……優しく唇を重ねるだけだった。
絡み合う視線が……俺のことを「愛してるよ」って言ってるみたいに甘くて、俺はドキドキしっぱなしだ。
「んぅ……あっ、れいッ」
するりと下穿きの縁をなぞっていた指先が、ぎゅっとそれを一気に引き下ろした。
俺の興奮しきった陰茎がぶるんっと外に出てしまう。恥ずかしくて隠そうとしたら……指を搦めとられてぎゅっと手をつながれた。
空いている手で、固く勃ちあがったものを優しく扱きあげられ、俺はふるりと震えた。ちらっと覗くと、レイのきれいな白い手が、俺の張りつめた陰茎を撫でているところで、その対比がいやらしくて俺の体温は一気にあがる。
「れい……や、やめっ」
恥ずかしくて思わず口をついて出た言葉に、レイは一瞬動きを止めたけど……意地悪そうに笑いながら、俺のさきっぽから滴っている透明な汁を指先でのばしながら言った。
「ちょっと触っただけで、こんなにしてるのに?」
「~~~ッ!!!」
うう、言い返せることがなにもない。期待してるのは、俺なんだから。
なにもできることがない俺は……レイの首に顔をうずめて隠した。レイは俺を抱きかかえるように、尻のほうに指を伸ばし、穴をくるりと撫でて「かわいい」と笑った。
今日は拘束されないのかな? 俺はちらりとレイの顔を窺うがそのまま穴を浄化する気配があり、指先が侵入してきた。俺はレイにしがみついたまま、レイの指先が俺の中を広げていくのを、ただただビクビクと感じていた。
「入れるよ」
短くそう言ったレイのペニスが……中に入ってきた。
レイの低い体温からは考えられないくらい熱くて、いつもビリビリと痺れてしまう。ぐいっと首をひっぱられ、唇を奪われる。
でもやっぱりレイのキスはゆっくりで優しくて、いつもとは違う穏やかな瞳に見つめられて、きゅうッと胸がしめつけられるのを感じた。
「あったけー」
レイが、まるでお風呂にでも浸かってるときみたいな感想を言って目を閉じると、そのまま――え?! そのまま、――……すうすうと寝息が聞こえ始めた。
「――えッ」
そして、次の日、レイはなんにも覚えてなかったのだった――……。
メルヴィル卿の『素直になれる』という文字を繰り返し繰り返し読み返しては、レイの『俺も』発言の真相に、悶々とする日々を送ることになった。
いろんな意味で、やっぱりメルヴィル卿を信用するのはやめよう、と思った俺だった。
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