引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-4 反乱の狼煙

67 招かれざる客・前

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「月の兄ちゃん。この前、村にきた孤児の奴らの中に、ひとりちょっと変な奴がいてさ」

 しばらくぶりにアッカ村まで、フェルトとオリバーと一緒に散歩に行くと、困った顔のグランがそう伝えてきた。

「怪我してるっぽいから手当をしようと思ったんだけど……触ろうとすると怒るし、ローブのフードも取ろうとしないから、顔もまだわからなくて」
「そうなんだ。なんか怖い目にあったのかもしれないなあ」

 どうしようか……とフェルトのほうを見ると、俺が見ているのに気づいたフェルトが「見に行ってみようか」と言った。俺が行ったところでどうなるんだという気もするが、まあせっかくグランが相談してきてくれたんだから……と、ちょっと行く気になった。

 少し歩くと、小麦畑が見えてきた。
 ちょっと来なかっただけなのに、随分と畑は大きくなって、小麦もよく育っているように見える。俺は畑に触って土がよくなるように魔法をかけ、さらさらと小麦を触りながら、強い品種になるように改造しながら歩いていった。

「――あ、あれかな?」

 フェルトが遠くのほうを指差したので、オリバーと俺はその方向に目をやった。たしかに、小汚い茶色のローブをかぶったままの小柄なやつが、畑を耕しているのが見える。
 夏だというのに、ローブを着たまま農作業。熱中症になってしまいそうだ。

「怪我してるかんじってグランが言ってましたね」
「あ、ほんとだ。ちょっと足、引きずってるかんじするかも」
「触ろうとすると怒るんですよね? どうやって接触しましょうか。今日はレイ様、貴族っぽい格好してますし、威圧的にいけば言うこと聞きますかね」
「え、でも怯えてるかもしれないのに、かわいそうな気もするね」

 オリバーとフェルトがあーでもないこーでもないと話し始めた。でも、俺はそれが不思議で首をかしげた。
 
「殴って連れて帰ればいいんじゃないか?」
「レイ……」
「レイ様……」

 怪我してるのに言うこときかないならしょうがなくないか? 怪我が痛くて暴れている動物のようなものだろうという気がする。まあ、とりあえず声をかけてみないことには、なにも始まらないか。

「おい、そこのお前ー!」
「あッ! レイ様! ま、まだどうするか決めてないのに!」

 俺が声をかけると、ビクウッとあからさまにローブのやつの肩が跳ねた。

「足、痛そうだから見せてみろ」
「へッ!? べ、別になんともないからほっといて下さいッ!!!」
「絶対怪我してるだろ。すぐ治るから見せろ。それにこんな暑い中、ローブなんて着てたらぶっ倒れるぞ」
「い、いいです! だ、だだ大丈夫ですから!!!」

 グランは「怒る」と言っていたけど、さすがに貴族っぽい格好をした俺には怒れないのか、言葉では敬う姿勢を見せながらも、必死に接触を拒む。めんどくせえな。
 苛立った俺は「うるせえ」と言うと、スパンとそいつの頭を叩いた。

「「…………あ」」

 背後から、本当にやったよ……というような飽きれた雰囲気を感じたが、無視することにした。
 俺みたいな非力なやつに叩かれただけだというのに、そいつはやっぱり無理していたのか、ぐらりと揺れて地面に倒れてしまった。いや……ぎりぎりのところでフェルトが支えたから倒れはしなかったけど、ゼエゼエと肩で息をしながら、目を閉じてしまった。
 熱中症だろうな、これは。

「とりあえず、リンが作った孤児院まで運ぼう。こいつの部屋もそこに行けばわかるだろ」

 フェルトがその子どもをおんぶすると、俺たちは孤児院に向かって歩き出した。
 横抱きじゃなくておんぶなんだな……と思いながら、フェルトを見ていると、気づいたフェルトが「ん?」と顔で尋ねてきた。
 横抱きだったらなんで、おんぶだったらなんなんだろう、と自問自答する。
 よくわからないもやっとしたかんじがして……フェルトのそばに行って、耳打ちするフリをしながら耳たぶに噛みついておいた。「ッて!」と小さく声をあげたフェルトが、真っ赤になって俯いた。
 それを見て満足したので、俺は前を歩いているオリバーのところに戻っていった。

「ちょっとレイ様……いちゃつくのはいいですけど、俺いないときにして下さいよ……」
「なに? お前もいちゃつきたいとかあんの?」
「そりゃあ、いつかは……俺でもいいって言ってくれるような素朴な村娘がいたらな~とか思いますよ」
「へえ」
「いまや悪魔の手先ですからね。そんな理解ある子が村にいるとは思えないので、もう……夢のまた夢ですけど」

 オリバーが悲壮感を漂わせながらそう言うのを聞いて、たしかにベラくらい肝が据わった女を見つけるのは大変だろうなと思った。よくわからないが、なんとなくオリバーはあんまり幸せにはなれないような気がしたので、なにも言わないでおくことにした。
 
「へえ」
「ほんっっとーに! 他人ごとですよねッ! 自分はちゃっかり優良物件捕まえといて。ハアア」
「――フェルトのことを言ってんのか? 別に捕まえてはいない」
「…………どう見たって、完全に捕まってますけどね。なんで当の本人たちがこんなに鈍いんだろ」

 オリバーがなんかぶつぶつ言ってたけど、またいつもの愚痴だろと思って、俺はよく聞いてなかった。
 リンが建てた孤児院の枠は、あのあとベラがいろいろ業者を入れてくれて、窓や扉、トイレなどを整備してくれた。当初考えていた値段の何十分の一の出費におさまったから、やっぱりリンに会えてよかったー! と、見るたびににこにこしてる。
 建築家になりたかったとか本人は言ってたけど、たしかにシンプルな造りなのにしっかりと考えられていて、できあがったあと、改めて感動した。時間をかけてこだわれば、もっと違うレベルのものができたんだろうけど、たかが農村の孤児の住む施設にしては十分過ぎる。

「あれ? レイ様。その子は……」

 入り口の扉を叩くと、孤児の世話をお願いしている村人のポーラが出て来た。
 フェルトが背負っているローブのやつを見ると、「あらあら」と言いながら部屋まで案内してくれた。ちょっと怪我の様子を見るから、とだけ伝えると、「レイ様自らすみません。ありがとうございます」と言ってから水差しを取りに行った。

 そのまま寝かせるのも不衛生かと思い、浄化魔法だけかけてローブを脱がせ、ベッドに寝かせた。
 ローブから出てきたのは、――真っ黒な髪の毛。

「あ、黒髪だ」
「ああ、それで、隠してたんですね。かわいそうに」

 オリバーが汗を拭ってやると、フェルトが「うーん」と唸りながら、口をひらいた。

「この子……もしかすると、暗殺の仕込みがされてるかも」






――――――――――――

どうもこんばんは!ばつ森です。
ここまで読んでくださってどうもありがとうございます!

今のところ、なんとか毎日更新ができているのですが、本日(07/01/2023)から他作品『死に戻りの悪魔王子の~』の更新を再開するので1日1話の日ができてしまうかもしれません。その場合は21時に更新します。

順調に行けば7月中旬で【引きこもり第1部】が完結予定です。
どうか楽しんでいただけますように!

ではまた!

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