引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
65 / 119
1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

62 ルナティック商業戦略・前

しおりを挟む



「また来いよ」


 翌朝、早めに国境に向かって発つというので、俺たちはリンを見送っていた。
 普通に『友達』ができて嬉しかった俺は、リンの勤め先が王都ではなく、すぐそこの国境であることも素直に嬉しい。

「うん、僕は左遷役人だしさー。特にやることないし、知り合いもいないし、毎週来るよ。レイに会いにー♡」
「そうか」

 ばいばーい! と、馬上から大きく手を振りながら小さくなって行くリンの背中を見送っていると、隣でぼそっとオリバーが言った。

「レイ様……ちゃんとフェルトさんにフォローしといて下さいよ」

 なんのことだと思って振り返ると、不機嫌そうなフェルトとちらりと目が合った。
 ――が、ぷいと反らされてしまった。
 え、なにその反応。そんなにあからさまな態度取るほど? 仲間に入れたほうがよかったか?

「おい、フェルt……「レイさまーッ!!! すごい報告があるのー!!!」……」

 話しかけようと口をひらいた瞬間、逆方向からベラの大声が聞こえた。
 視線を向けると、「おはよー!」とぶんぶんと手を振りながら、馬に乗ったベラが近づいてくるのが見えた。

「レイ様どうしたの? 今日、朝早くない??」
「ああ、友達を見送ってたんだ」
「「「友達?!」」」
「…………なんだよ。俺にだって友達くらいいてもいいだろ」
「「「!!!!!」」」

 なんだその反応は。
 ベラたちは「レイ様に友達?! 誰ッ!」「え、メルヴィル卿は友達って選択を?」「友達っていう概念とかあったんですね」と、ぼそぼそ、なんか知らないけど失礼なことも含みながら、ベラとフェルトとオリバーは3人で話し合っている。
 イラッとした俺は、とにかくベラに要件を聞くことにした。

「それでなんだ。なんの用だ」
「なんの用って……まあ、いつも通り作業しに来たんだけどね。報告があって、ルナティックが異例の売り上げを叩き出してるものだから、王都に進出することになったのよッ!」
「ルナティックって……ベラの下着屋だろ? そうか。栄転じゃん。おめでとう」

 ベラが言うには、こんな辺境にありながらもほかの街で話題になり、ついには王都までその噂が届くようになったんだとか。遠方まで買いつけに来る商人たちに中継地点にだけでも店舗を出してくれと言われ、ビアズリー家で話しあったらしいが、どうせなら王都行っちゃう? ……ということになったらしい。
 最近、このダンジョンのおかげで、資産が潤っていることも原因の一端なのだとか。

 転送陣で、いつものリビングに戻った俺たちは、話し合いを続けた。

「でも問題があってー。王都なんて私あんまり知らないからさー。どうやって販売していこうかしらと考えてて、それでレイ様の意見を聞きに来たわけなの」
「売り方ぁー?」
「お店の雰囲気とかもしっかりしないと、王都だと舐められちゃいそうだし。それに、所詮は田舎から始まったブランドでしょ? とか思われちゃったら、なんか敵も作りそうじゃない?」

 なるほど。
 俺は頭の中で東京の下着屋を思い浮かべた。入りやすさ、買いやすさ、親しみやすさ……とかいろんな方法はあるんだろうが、ベラの話を聞く限りだと、王都っていうのは東京にある大衆向けの下着屋というよりは、パリのハイブランドの店……のような店構えのほうが良さそうだ。大衆向けは大衆向けで、おいおい違うラインを作ってみるのもいいかもしれない。

「そういう敷居の高い市場で成果を出すのに、1番大事なことは……ブランドイメージを固めることだ」

 まずはブランドイメージを固めるために、ロゴを作ったり箱や袋を統一し、誰かが持っているだけで「どこ」の店のものなのかがわかること。それから、袋や箱だからと侮るのではなく高級感を全面に押し出し、値段も素材の値段を基準に考えるのではなく、買いたい人間が買って満足する値段に設定する。
 それにプラスして、モデルを使ったイメージ戦略やノベルティ、期間限定品、セール、など……現代社会では当たり前だったことをベラに教えてあげると、すごい勢いでメモを取っていた。

「レイ様ってすごい……」
「まあ、俺は『流れ人』らしいからな。ここの常識とはちょっと違うことを知っているだけだよ」
「それにしても、モデルっていうのは……見目麗しい人たちを使って客の購買意欲を煽るのね……すごい発想だわ」
「この世界だと舞台俳優とか歌手とかになるんじゃないか? 有名な貴族のご令嬢とかでもいいのかもしれないけど」
「ううん、レイ様。ぴったりの人がいるの。コストもかからないし、女神のように神々しい」

 なんだか嫌な予感がする。
 ベラの視線がじーっとこちらを見ていて、予感が予感にとどまらず、現実になる雰囲気をひしひしを感じさせる。

「えー またなんかそういうやつ?」
「だってそもそも、このブランドイメージは最初からレイ様だしー? 商品もレイ様が考えてるしー? ルナティックって名前自体も、月の女神のイメージだしー? それってもうレイ様がやるしかなくない?」

 えー……。えろいブランドの広告だろ? それってえろいかんじの写真……は、ないか、絵? とかになるじゃん。
 たしかに俺は性転換できるから、女のモデルやれって言われてもできなくはないけどな。そこまで考えたとき、ふと、さっきのオリバーの呟きが、俺の頭をよぎった。

『フォローしといて下さいよ』

 あ、と思いながら、会話には参加していないけれど、同じテーブルでお茶を飲んでいたフェルトに視線を向ける。ああ、それなら俺にとってもモチベーション上がりそうだな……と考えながらベラに言った。

「俺が女の体でモデルやってやるから、相手はフェルトで男女の絡みっぽいのを広告にしてくれ。ただ、ここが大事なとこだが、えろくすると俗っぽくなるから、えろい雰囲気なのにオシャレとか、えろくないのにえろい気がする……みたいな画像にしてくれ」
「フェルトさん?! うんッ! わかった! 愛ねッ! 愛!」
「……そういうことにしといて」
「え?!」

 バタバタと『ロゴ』だの『箱』だの呟きながら、ベラが慌ただしく、ダンジョン内の自室に向かって行った。今から大急ぎで計画案を作り出し、また後で大騒ぎしながら招集をかけられるのだろう。

 取り残され、呆然とするフェルトの手を取り、俺は自分の部屋へと促した。
 え? と困惑した表情を浮かべていたが、俺が「ベラはしばらく出てこないだろ」と言うと、おずおずと俺の後についてくることにしたようだった。

 フェルトの手はいつも大きくてあたたかい。
 俺の手とは正反対だ。


「それで?」

しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ!
感想 31

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

糸目推しは転生先でも推し活をしたい

翠雲花
BL
 糸目イケメン。  それは糸目男性にのみ許された、目を開けた時とのギャップから生まれるイケメンであり、糸那柚鶴は糸目男性に憧れていたが、恋愛対象ではなかった。  いわゆる糸目推しというものだ。  そんな彼は容姿に恵まれ、ストーキングする者が増えていくなか、ある日突然、死んだ記憶がない状態で人型神獣に転生しており、ユルという名で生を受けることになる。  血の繋がりのない父親はユルを可愛がり、屋敷の者にも大切にされていたユルは、成人を迎えた頃、父親にある事を告げられる── ※さらっと書いています。 (重複投稿)

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい

パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け ★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

処理中です...