引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

61 酒盛り・後

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「んー?」

 リンは「たしかに、こんなにも話題の中心にいるんだから、フェルトが世界の主人公っていうのは、あながち間違ってないのかもね」と小さく笑いながら続けた。

「実はフェルトって騎士団の将来有望株でさ。うちの国の第二王女様に目をつけられてたんだよ。それで、近々平民としては異例の、近衛昇格が決まってたわけ。その矢先失踪しちゃって、その難アリわがまま王女様の怒りの矛先が、第二騎士団に向いちゃってね」
「ちょっと待て、よく理解できない。たかだか平民の騎士が失踪したところで、国はどうこうしないだろうというのがフェルトの見解だったんだが? ……怒り? そんなに将来を期待されてたのか?」
「うーん、まあ実力もだけど、フェルトはあの容姿でしょ。女の子としてはさ、あのキラキラ爽やかくんが自分の近衛になるのを楽しみにしてたってことだと思うよ」
「私情か」
「そうだね。かく言う俺も、王女様のその行動に反対して、結果左遷されたわけだけど」

 そんな提言で左遷。それほどまでにその王女の執着はひどいのか? フェルトから聞いてた話と全然違う。
 それに矛先がって……
 
「第二騎士団は無事なのか?」
「うーん、すごい勢いで働かされていたからね。有能な騎士団だから、そういうのはほどほどにと提言した俺みたいなまともなやつらは、ことごとく左遷だよ。あれ以上エスカレートしてないといいけど。ま、大丈夫。死ぬようなことではないから」
「おい、この国では『死ぬようなこと』でなければ黙認か」
「まあ……そういう国だよ。ここは」

 だから、絶対にバレないように気をつけるんだよ、との忠告をもらった。
 女の子は、粘着質な子多いからねと付け加えたリンの表情が、心底嫌な者を思い出したような顔色だった。

「第二王女ね」
「そうそう。見た目はとても美しい王女様なんだけどね。フェルトも災難だよ。だからある意味、失踪のタイミングとしてはばっちりだったてとこ。本人もそう思ってるから、ここに残っているのかもしれないし」

 たしかに。あの状況での決断としては、ずいぶんと即決だなと思ったのを思い出した。
 それに、フェルトについているという精霊王も、こんなところに残ることに文句も言わなかったみたいだし、もしかするとそんな内情があったのかもしれない。

「――ねえ、なんで好きって言ってあげないのー?」

 ふと、向かいに座っているリンに顔を向けると、さきほどよりもとろんとした顔をしたリンが、ふふっと笑いながらからかうように訊いた。

 なんでフェルトに好きって言わないか?
 というか、そもそも好きかどうかがよく理解できないから?
 それに言ったって、なにもいいことなんてなさそうだから?

 うーん、考えてみてもなにから着手していいのかわからない問題だ。
 恋愛においての心の機微についても、学ぶ機会はあったはずだが、自分の恋愛という意味では無関心すぎて、俺は経験がないのだ。
 周りにいたのは俺に寄って来る人間ばかりで、自分からなにか行動を起こそうだなんて、考えたこともなかった。

「仮に俺がフェルトのことを好きだとして、言ったらなにが変わるんだ?」
「えーッ! 変わるでしょ! デート行って、いろんなこと話したり、キスだって、セックスだってできるでしょ」
「言わなくたって、別にできるだろ」

 デート? はよくわからないけど、ほかはもうしてしまったなと思う。

「あー……そういう考え方か。ま、一応コミットはできるってとこなんじゃないの?」
「人間的にはあいつは人を裏切らないタイプだろうけど、恋愛的に裏切らない保証はないし、裏切られない保証もないだろ。俺ができるかどうかの保証もないのに、なんのためにコミットするんだ」
「うわ、レイってなんか嫌なやつだね」
「俺がいいやつだなんて一言も言ってないだろ」

 フェルトが俺に執心している……って周りはよく言うけど、正直、なにに興味を持たれているのか想像もつかない。俺の長所なんて顔くらいだろ。顔だけは昔から褒められるからな。

「嫌なやつっていうか、なんか陰湿~。フェルトにもうちょっと経験があれば、どうにかしてあげられそうな気もするけど。これは、なにかしらのきっかけに期待」
「なんだそれ」
「このままじゃ平行線だろうなーってかんじ。でもきっと2人はくっつくと思うなー」
「お前さ、俺がフェルトに首輪つけて歩き回るようになっても、『2人はくっついて幸せ』だと思うか?」
「え、なにそれ怖い。うーん、でも、いいんじゃない? レイの性癖はよくわからないけど、フェルト……首輪喜びそうだよ。しっぽと犬耳ついてそうだもん」
「…………」

 くすくすと笑いながら、「ある意味お似合いの二人かも~」と言っているリンをどうしたものか。人間をよく見ている相手が言うのだから、これは素直に納得しておくべきところなのか?

(首輪つけて尻尾を振ってくれるんだとしたら、俺も少しはハードルが下がるけど)

 ……とか思った。
 よくわかんねーけど。

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