引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

58 害のない対価・前

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「へえ、孤児の受け入れ? レイは……いいやつなんだね」


 土魔法と聞いてすぐさまアッカ村に連れてこられたリンは、なにもない更地を見て……そう呟いた。
 ――俺はいいやつではない。
 経緯も目的もただの行き当たりばったりで、ある意味、オリバーやベラといった、〝わりといいやつら〟に囲まれているせいで、軌道修正されているだけな気がする。
 アッカ村のはじっこのはじっこに位置するその更地は、森に隣接している。子どもたちが生活するのには不安のある場所ではあるが、この森は俺のダンジョンのある森なので、モンスターに襲われる心配もなく今は盗賊も一掃されたから、多分……大丈夫だろうと考えた。
 アッカ村の大農業改革により、芋と小麦の畑を広げることになったが、結果的に森に隣接した地域が主な勤務場所となることを考えると、近くにいたほうが便利だろうというオリバーからの助言もありつつ。

「いいよ、別に」
「え、まじで?」

 国内有数の土魔法の使い手だとフェルトが言うもので、孤児を住まわせるための住居を作って欲しいんだけど……と、とりあえず頼むだけ頼んでみたがまさか了承してくれるとは。

「そんなに難しいことでもないし、僕は本当は、建築家になりたかったんだよ。文官なんかじゃなくてさー」

 ……と、言いながら、リンはへらへらと更地に手を翳した。
 すると――黄色っぽい淡い光が、じわじわと翳された右手から更地に降り注ぎ、もこっもこっと土が盛り上がったかと思うと、次の瞬間には土壁が幾重にも生え、建物の形を縁取っていった。
 ものの数分で、なにもなかった更地には小さな部屋がいくつも区切られた立派な建物ができていた。
 たしかに、現代のようにコンクリートやきれいに舗装された壁……とまではいかないが、今まで路地で生活していたであろう孤児たちには、十分な代物だろう

「すっげぇー! あ、ありがとうリン」
「家具とかは調達したほうがいいと思う。土壁の枠組みくらいなら難しくはないしいいんだけど、さすがにテーブルとかベッドまで土で作るのもどうかと思うし。あと、扉とか窓とかも土じゃないほうがいいと思うから。でもこれで少しはコスト浮いたんじゃない?」
「うん、すごい助かった」

 魔法すげえッ。
 溢れる嬉しさを押さえられず俺が嬉しそうににこにこしながら言うと、「お礼を期待していていいのかな?」とリンが意味深な笑みを浮かべ、フェルトは反対に、それを見てすごく嫌そうな表情を浮かべた。

「なにが欲しいんだ?」
「うーん、そうだなあ」

 リンは、うーん……と考えるような仕草をしながらしばらく空を仰ぐと、俺の手をつかみ、おもむろに森のほうへと歩きだした。「ちょ、ちょっとメルヴィル卿ッ!」とフェルトの制止する声が背後から聞こえたが、リンは構わずにずんずんと森のほうに進んでいった。
 少し木の葉で翳った場所で足を止めると、俺のほうに向き直った。じっと俺の顔を見て、再び考えるような仕草をするものだから、俺は聞いた。

「なにを要求したいんだ? 金はそんなにないぞ。体?」

 リンは文官だからフェルトほどしっかりした体つきはしていないが、フェルトよりも背は高い。甘い雰囲気と、優しげな声色で、今までも浮き名を流してきたことだろう。こんな男を女が放っておくはずがない。
 だいたい俺に体を要求するやつは、大概が俺を犯したいと思っている人間だということを俺は理解していた。
 犯される気はさらさらないし、まだリンがどういうやつなのかははっきりしないが、フェルトも気を許しているような貴族だ。
 一体どんな要求をしてくるのか。

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