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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
57 リンゼイ=メルヴィル卿・後
しおりを挟む俺たちがアッカ村からの道をブラブラ歩いていると、遠くに灰色のローブを着た男が馬に乗っているのが見えた。
「あの男もダンジョンに行くのかな? 1人でうろついてるやつは珍しいな」
「――え? あ、ほんとだ。あれ? ……あれって……」
「え? フェルトさん知り合いですか?」
フェルトがその男のほうを見て目を細めていると、男の乗った馬がこっちに向かってすごい勢いで駆けてきた。
「――……あ、やっぱり。あれ、多分メルヴィル卿だ。――て、そうだ! まずいッ! 俺、失踪中なのに!」
「あ、え……どうする? 今からでも顔変えるか?」
「いや、レイ様、なんかもう手遅れっぽいですよ。フェルトさん……バレると本気でまずい相手ですか?」
たしかにオリバーの言う通り、男の目がは爛々と輝いて、どうも確信に満ち満ちている雰囲気だ。馬の勢いも止まらない。
「うーん……いや、多分大丈夫。悪い人じゃないんだ」
「卿ってことは貴族だろ? ほんとに大丈夫なのか」
俺の心配にフェルトが答える間もなく、茶色の毛並みの綺麗な見事な馬がヒヒンと嘶いて、俺たちの前でズサッと音を立てて止まった。
「やっぱりッ! フェルト、生きてる!」
「――おひさしぶりです。メルヴィル卿。ちょー……っと会うとまずかったけど、お元気そうでなによりです」
「元気元気。元気すぎて左遷されちゃったけど。お前たちが失踪したダンジョンが近いから、赴任ついでに見に行こうと思ってたとこなんだよ」
左遷……? ああ、ルカが言ってた国境に赴任する役人がこの男か。
それにしてもあいつ『堅物』って言ってなかったか? その男は少したれ目がちで、どちらかというと……『軽薄』そうな雰囲気だ。
髪なんてゆるく束ねた長髪で、色なんていちごミルクみたいだ。年ごろはフェルトと同じくらいに見えて若いけど、堅物のイメージからは……ほど遠い。
貴族のくせに1人で赴任先に向かってるのか。俺がぼんやり2人の様子を見ていると、男と視線がパチッとぶつかった。
「フェールト? それにしても、そちらの麗しい方は一体どちら様なのかな? 僕が挨拶しても?」
「メルヴィル卿、ちょっと近いですッ! こちらは俺が……つ、仕えてる方です」
フェルトが俺の前に腕を出し、背中に隠すようにずいっと前に一歩出た。
別に隠すほどの危険があるようには見えないし、なんだ? と思いながら訝しげにフェルトを見ていたら、男は一瞬きょとんとして、ニヤアッとかんじの悪い笑みを浮かべた。
「――……ふうん。そういうことね……」
「な、なんですか! レイ……様、は、だめですよ。メルヴィル卿はたくさんお相手がいるでしょう? ほかを当たって下さい」
「――レイ様ね。なるほどなるほど。真面目一辺倒なフェルトが、生きてるのに無断で騎士団を失踪しちゃうわけだね」
男は、ふむふむと頷くと、ふわりと馬から飛び降り、俺の手を取りながら言った。
「はじめまして、美しい方。僕はリンゼイ=メルヴィルと申します。一応、伯爵家の次男だけど、もう勘当されたようなもんだから、気にせずリンって呼んでねっ」
そう言ってリンは俺の手の甲に、ちゅっと唇を落として、にっこり笑った。リンは男のくせに笑うと華がある。
隣でフェルトがそわそわしながら、リンと俺の顔を見ていたが、リンの挨拶に衝撃を受けたのか、なぜか固まっていた。
それにしてもメルヴィル……卿? 卿というには若すぎないか?
「俺はレイだ。よろしくリン。こっちは俺の……執事? で、オリバー」
「オリバーもよろしくね。――それにしても、フェルトが死んだなんて信じられなかったけど、まさかこんなことになってるとはね。さすがに詳細は聞いてもいいわけ?」
「――えーと、でも、どこからどう話したらいいのか……正直わかりません」
目を泳がせながらフェルトが視線を送ってきたので、俺は目を瞬かせた。
説明は難しいだろうけど……まず前提として。
「――フェルト、信用できるやつなのか?」
「うーん、まあ……その、あの王国に左遷されるくらいだからね。メルヴィル卿は平民でも特に気にしない方で、俺と同じ年なので、なにかと話しかけてたっていうか」
「えー! なにそれ、ひどい言い方だなあ。でもま、貴族社会がほんっっとに肌に合わなくてさ。結局こんな辺境に左遷だよ。親もひどいんだよ。その地味な土魔法で、国境で壁でも作ってろとか言って」
肩をすくめながらリンがそんなことを言ったが、非常に気になるワードが1つ。
「……え? 土魔法??」
「――あッ」
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