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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
56 リンゼイ=メルヴィル卿・前
しおりを挟む「よー お前ら、元気か?」
「あッ! 月の兄ちゃん!」
ルカが帰った翌日、俺はアッカ村の様子を見に来ていた。
前回訪れてからオリバーとベラがいろいろと上手くやってくれたようで、森の手前の原っぱまで村を広げ、共同で大きな畑を作ることになったらしい。
当面はそこで小麦と芋の栽培を始め、毎日担当を割りふって、収穫は村全体に均等に分配するという方針らしい。
今まで個人の畑でやってきていたのに、ここに来て共産主義方針かあ……と若干の不安があるものの、なぜかオリバーが大丈夫だと言い切るので、不思議に思っていた。
なんでだよと聞いてもやたら言葉を濁すので、問いつめてみると……「月の女神様のために」的な団結力を見せているらしく、しばらくは心配ない……とのことだった。
まったく意味がわからない。
元からまじめな村人が多く、――というのも、不真面目なやつらや勝手なことをするやつらは、こんな辺境の村でくすぶってられるかー! と、大概出稼ぎに行ってしまうらしい。
どちらにしても一時的な団結力であるのなら、はじめにきちんとシステムを作っておいたほうがいいと思うのだが、オリバーたちが「大丈夫」の一点張りなのだ。
その畑に芋と小麦を植え、今年の冬に備えることになったらしい。
土壌も苗も、さっき生体改造しておいた。きっと山ほど実をつけてくれることだろう。まだ初夏だけど。
「なんか芋の畑、すげーでかかったなー。お前らも手伝ってんのか?」
このアッカ村の兄弟は、グランとジョシュアという名前だ。
2人とも赤毛にそばかすでかわいい。父親はいないらしく、病気がちな母親と生活しているらしい。
いくら俺が生体改造ができるとはいえ、個人の病などに関与しだしたら切りがないので、それはしないつもりでいる。でも、村の改革を期に、母親の体調もよくなるといいなあと思う。
「うん! 手伝ってる。畑も、月の兄ちゃんが来てから、すごい育つんだ! トマト食べ放題ッ」
「俺も手伝ってるんだよ!」
満面の笑みで報告してくる2人に、俺も自然と笑ってしまう。「えらいなー」とフェルトが頭を撫でてやると、嬉しそうに「えへへ」と笑っていた。
それにしても、――フェルトだ。
フェルトは俺の護衛なので、当たり前だが、だいたいいつも隣にいる。
でもなんだか最近、見られている……? というか、フェルトの視線が妙に気になるようになった。なんかそわそわしているというか見張られているというか、落ち着かない気持ちになる。
盗賊の1件があったときに、うっかり手を出してしまったのが、なんとなーく気まずい原因だと思う。
やっぱり仕事相手に手を出すべきではないなあ……と、あのあと少し反省した。フェルトは元から好みの雰囲気なんだ。気をつけないといけない。
なんかかわいくて仕方なくなって、うっかりいろいろ悪戯してしまったこととか……フェルトの中で一体どう処理されてるんだか。
でも、気持ちよかった!
疲れてたから、大分任せてしまったけど。キスって……気持ちがいいんだなあ。また、あの厚めの唇に口を重ねてみたい。
――……と、今はアッカ村を見に来てるんだった。
「そういや、今度この村にたくさん人が来るんでしょ?」
「ああ、身寄りのない子どもを引き取ることにしたんだ。今まで怖い目みたりしてるだろうから、すぐには仲良くなるのは難しいかもしれないけど、いろいろ教えてやってくれるか?」
「もちろん! うちは親父がいないけど、親父も母ちゃんもいないなんて、きっと大変なんだろうなー」
「そうだなあ。でも、この村のおいしい野菜食べて元気になったら、友達になれるといいな」
「女の子もいるかな? って兄ちゃんが気にしてた」
「あッ! こらジョッシュ!」
女の子もいるだろうな……? 多分。
グランもジョッシュも優しくて素直だ。かわいい女の子がいたとしても、すぐに仲よくなれるだろう。俺はにまにましながら、兄弟としばらく話していたが、オリバーが呼びに来たので、挨拶をしてその日は別れた。
「レイ様、孤児を引き取った後、家ってどうします?」
「あーどうしよ。一軒家建てて、部屋を区切る? でもこの村の家は全部小屋みたいなかんじだよな」
「それでも1人1軒っていうわけにはいかないですしね」
「家って、普通に作業して建てるんだよな? 魔法とかでババンとできたりしないのか?」
「えー? 土魔法のすごい使い手とかなら、そういうこともできるかもしれないけど、普通は無理かな」
オリバーとの話を聞いていたフェルトが、困ったような顔でそう言った。
土壁さんの力がここでも使えたら、すごく楽なのになー。仕方がないので、今度ベラんちに大工を紹介してもらおうということになった。
これから人が増えるんだから、かなりの急な対応を要する問題だ。
「……あれ?」
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