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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
54 奴隷商と取引・前
しおりを挟む「それでッ! 一体ッなんなんだ!」
ぜえぜえ言いながら、ルカは水を一気に飲み干し、グラスをドンッと机に置いた。
3時間ほどあのまま好きにさせていたが、もうさすがにルカは疲れ果てたらしく、猫をかぶるのをやめたらしい。迎えに行ったら、ルカはもはや白目を剥いてヨダレを垂らしていたが、俺が声をかけると気丈にも正気を取り戻した。
今は、いつものリビングのテーブルで俺と向かい合って座っていた。俺の隣にはオリバーとフェルトが立っている。
フェルトにはどうやってルカを交渉の席につかせたかは伝えてない。でも、ルカとは初対面である以上、念のための護衛としていてもらったほうがいいと思った。
「お前のやってる人さらいの商売を引き継ぐから、関わってる人間と仕組みを教えろ」
「じゃあ最初からそうやって話したらいいだろ!!! 俺は、あんな! あんな……ッッ!!」
さすがに恥ずかしかったのか、ルカは両手で顔を隠して俯いてしまった。
「はあ? お前もヨダレ垂らして嬉しそうにしてただろ」
「うるさい!!! このバケモノ!! なんだってダンジョンの中に人が住んでるなんてことが起きるんだ!! こっちはひさしぶりに回収に来てみれば取引相手はいねえし、商品もねーし、商売あがったりなんだよ」
「――ほ、本当に、この子どもが奴隷商なんですね……レイ様といい、この子といい……人間不信になりそうだ……」
隣に立っていたオリバーが青ざめている。それを聞いて、話には関わるつもりはないようだったフェルトも「えッ」と目を丸くしていた。
「あーあ! くそッ! まじで、そこの月の女神みたいなやつでも奴隷にできれば、マイナスも回収できたのにさー」
「なに? お前、あそこで一生楽しむの希望?」
俺が冷めた目でそう言うと、ルカは、むぐっと悔しそうに唇を噛みしめた。
なぜかフェルトから殺気みたいなものを感じるのはなんでだろ。
「それにしても、なんで人攫いなんてやってんだお前……」
「俺は攫ってねえ! お前もザイーグ王国がもう終わってることくらい、知ってるだろ。孤児なんてこんなクソみたいな国にいたら死ぬだけなんだから、それなら俺が有効に使ってやってるんだ。飯もらえるだけありがたいだろ」
俺がちらりとオリバーに目をやると、オリバー困ったような笑顔を浮かべていた。
その表情を見るに、ルカの情報は正しいのだろう。思っていた通り、どう考えてもオリバーやベラのような待遇の孤児はやはり珍しいケースってことだ。
「攫われた一般人もいるみたいだったが?」
「それは誤差の範囲だ。悪いやつらに捕まってしまったなら、それは事故だろ。この国の汚ねえやつらを使ってんだ。完璧な商売なんてねーんだよ」
ふうん。ひらき直りとも言えるが、俺は別にこういうルカのような計算高い人間のことが嫌いなわけではない。
攫われた人間はたまったもんじゃないだろうが、話を聞くかぎり、隣国に戻ったあとは、比較的まっとうな商売をしているようだ。
それなら作れるコネクションは作っておくべきかな、と俺は思う。
「蜘蛛の糸、融通してやろうか? 隣国での販売に限りだけど」
「――なんでお前がそんなことができるんだよ。冗談も大概にしろ」
「お前……ずいぶんな態度だな」
俺は『口』に話しかけ、糸蜘蛛(改:ヤーンスパイダー)に呼びかけた。
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