引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

52 奴隷商ルカ・前

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「――お兄さん、これは一体どういうことなの?」


 こぼれそうな大きな青い瞳を見開いた、貴族っぽい綺麗な子ども――ルカ、が俺の目の前で鎖につながれているところだ。
 どうもこうもない。
 ただ、聞きたいことがあるから、聞きやすいようにしただけだった。
 どこからどう見ても、幼気な子どもにしか見えないがこの世界での成人(15才)を超えているらしい。


 つまり、端的に言えば、――合法ショタである。


 こんな生まれたての子鹿のようにぷるぷる震えている子どもを、どうして鎖に繋ぐはめになったかという理由は、――今朝まで遡る。



「あ、あの! すみません。この辺りに住んでる方ですかぁ??」

 澄んだ高い声、無垢な響き。
 相手に弱い印象を与えるためだけに精巧に作られたもの、だと思う。爽やかな朝の森だというのに、どこかねっとりした狡猾な雰囲気を感じた。
 なにも気づいていない風を装って振り返ると、ウェーブのかかったブロンドの貴族っぽい子どもが立っていた。
 こぼれそうな大きな青い瞳は見る者に庇護欲を抱かせ、控えめに浮かべられた微笑みは、その価値をわかっている子どもの強かさが滲み出ている。
 俺の顔を見ると、子どもはハッと驚いたような顔で息を呑んだ。

(――が?)

 俺はきょとんとした間抜けそうな表情を作りながら、子どものことを見て首をかしげた。
 つい先日捕まえた盗賊たちのことだが、あんな辺鄙な場所で盗賊やってるなんてとんでもない阿呆だと、俺は思った。そこそこ人数もいたのに、一体なにを稼ぎにしてるのか……すぐにはわからなかったからだ。
 アッカ村やレンベルグのことはオリバーからよく聞いていたが、今まで盗賊の話を聞いたことはなかった。それなのに、訪れたアジトにはそこそこ人数を収容できるような場所があり、よく調べてみれば簡易的な檻まで備わっていた。
 
 それは、――誰かに関与しているやつがいる、そう思った。

 たまたま今回の1件で明るみになったが、オリバーから盗賊の話を聞いたことがない以上、通常はこの辺以外の場所から女子どもを誘拐してきて檻に入れている……と考えるのが妥当だ。
 やつら自体が誘拐などをしているのか、それとも……国中の攫われた人間があそこに集められていたのか。この森が隣国の国境と接している時点で、少し考えればわかることだった。
 
 おそらく……隣国の奴隷商なりなんなりが、そのうち『回収』に来るだろうと思ったのだ。

 土壁さんは、ダンジョン内でしか使うことができないから、入り口の『目』を最大限の『望遠』にして、しばらくアジトのあたりを見張っていたのだ。
 そして、3日後の今日――森の移動にはそぐわない大きな荷馬車が通りかかったのを、『目』が捉えた。

 そんなに人数は多くないが、相手の能力はまだ未知数だ。できることならダンジョンに誘導し、ダンジョンで迎え打ちたかった。
 だが、あいにく相手は商売には興味があっても、ダンジョンになんて興味はないだろう。奴隷に関わる人間がどんなことに興味を持つかはわからないけど、おそらく商人である以上、『俺』――という美しい商品にはきっと食いつくと思った。
 非力っぽい俺が誘導すれば、うまくダンジョンで捕まえられるのではないかと思い、自ら囮になることを決めた。
 もちろん、フェルトはすごく心配して反対していたが、今も近くで待機しているので、なにかがあればすぐに出てくるだろう。

「新しくできたダンジョンに向かうところなんだ。お前はこんなところで、なにをしてるの?」

 この辺に集落はアッカ村くらいしかない。この子どもだって、本当に俺がこの辺に住んでると思ったわけではないだろう。今日はベラの気合いの入ったフリルだらけの〝俺、ダンジョン挑戦してみるよ★〟的な貴族スタイルなのだから。

 子どもの横には、護衛と見られる短髪の若い男。
 それから、小道に停められた荷馬車と馬のあたりに、数人の屈強そうな男がいるのが見えた。

「す、すみません! 商人の父の代理で、ザイーグ王国の特産品を運んで隣国に帰るところなんです。休憩してたら、お兄さんが見えたので」
「この辺りになにか特産品があるのか? ずいぶんと重装備だな」

 俺は彼らの荷馬車のほうに、ちらりと目を向ける。
 遠くてよく見えないが、鉄格子のようなものが嵌められている荷馬車で、まったくもって『特産品』を運ぶものには見えなかった。
 攫われたこの国の人たちを、隣国に奴隷として売っているので間違いないだろう。
 おそらく、ザイーグ王国のように治安が悪い国の人間のほうが、手に入りやすいということは容易に想像がつく。
 取り締まりの厳しい隣国で売るのに、他国の人間ほど打ってつけのものはない。

「え!? たくさんありますよ! 最近は、レンベルグで採れる蜘蛛の糸がすごいって噂になってるし。ダンジョンって……そのダンジョンですよね??」
「興味があるのか」
「ありますよ~! ビアズリー商会は、製造方法も入手方法も今のところ秘匿してますからね。王都でも噂になっているくらいです。王国全土にビアズリーブランドが広がるのは、時間の問題ですよっ」

 どうして、こんな子どもが奴隷に関わることになったんだろう。
 見た目は無邪気でなにもわかっていないように見える。だけど、俺が感じた第一印象は、おそらく間違ってない。
 
 こいつが奴隷商人なんだろう。

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