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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
51 朝(フェルト視点)・後
しおりを挟むレイのつやつやした薄い唇は、思った以上に柔らかくて……その中は冷たいレイからは想像もつかないほど、すごく、熱かった。昨日のやらしいレイを思い出すと、心臓がばくばくとすごい音で鳴り出した。
(……そ、そういえば、陰茎を舐めたのもはじめてだったって言ってたし)
恥ずかしくて、情けなくて、どうしたらいいかわからないっていうのに、同時にふわああっと花が咲くみたいな気持ちが広がっていく。なんであんな変態なのに、恋人っぽいことの経験はないんだろう、レイは。
恋人いたことないのかな、だけどレイに触れた人はたくさんいるんだろうな……そんなことを考えながら、俺の感情は高波みたいに上がったり下がったりで忙しい。きっと、さっきから一人で百面相をしてることだろう。
こんなこと、ほかの人に感じたことなんてなかった。
――レイは、俺にとって特別なのかな。
死ぬほど恥ずかしいけど……踏まれてもいいと思えるのは、頭がおかしくなってるとしか思えないけど……特別な子なら、もしかすると……? わかんないけど。
でも、それなら……キスだってもっと! はじめてなら、ちゃんとデートとかして、きれいな場所とかで……優しく、してあげたかった。
(あんなッ! あんな……ッ! うわあああーーッ!!!)
驚いてぽやっと惚けてた間にキスされて、俺の精子の味がはじめてだなんて――、
――……死にたい。
やり直したい。切実に……。
ちーんという残念なかんじの鐘の音が頭の中で聞こえる。
もっと先輩たちに、好きな子ができるってどんなかんじが聞いておけばよかった。好きだなって思えるような子にあったことがなくて、自分は恋愛に淡白なんだろうなって、ずっと思ってたから。
レイにほかの女の子たちと同じことが当てはまるかどうかは、はなはだ疑問だけど。これが好きってことなんだったら、俺はどうすべきなんだろ。
わ、わからないーッ! 先輩たちも女の子に局部を踏まれて……た、勃ったりするんだろうか。……謎だ。
あんな扱いを受けておいて、一体どう大切にしたらいいのかも……謎だ。
謎すぎる。
とりあえず保留だな、これは。
オリバーにもイザベラ嬢にも聞きづらいし、なんかシルフィは人間の感覚わかるのか怪しい。というかそもそも、恥ずかしくて聞ける内容じゃないし。もうちょっと、考えよう。
だんだんと部屋が明るくなってきて、目が覚めてきたのか、レイが「ううん」と言いながら身じろいた。
昨日はそんなに遅くまで起きてなかったし、もしかすると早めに起きるかもしれないなーと思う。小動物のように身をすりよせてくるレイを見ながら、ぎゅっと抱きしめてやると、「んー?」と言いながら、レイがぼんやりと顔をあげた。
以前もそうだったけど、レイはすごく朝弱いみたいで、頭が働き出すまでしばらくかかる。
たしかにいつも眠そうな、気だるそうな顔をしてるんだけど、寝起きでぽやんと無防備な顔をさらしているときは、本当に……天使みたいに愛らしい。
「おはよう、レイ」
にっこり笑って挨拶すると、レイはパチパチと大きめの目を瞬きして、微かに笑みを浮かべて、目を閉じた。唇をちょっとつき出して「ん」と高圧的に言われる。
……えッ! キス待ち?!
俺はドキドキしながら、目を閉じたレイの顔に唇をよせる。
ちゅっと小さな濡れた音がした――、と思ったら、そのまま熱い舌が滑りこんできて、口の中を蹂躙される。弱いところを舌先でこすられ、鼻から甘い声がぬける。
「ん……」
ちゅっと口を離されたときには、ハアハアと荒い息を吐き出してたのは俺のほうだった。レイだって、昨日はじめてキスしたって言ってたのに、なんだこの差は。――ずるい。
いつの間にか、レイの両手は俺の頭にまわっていて、ぐっと引き寄せられる。寝起きの低い声のレイが、耳元で「入れていい?」と聞いてきて、なんか中心がズクンと甘く痺れた。
足に熱くて硬いものがあたってて、心臓が飛び出そうだった。ぎゅっと目を閉じて、意を決して口をひらく。
「――お、起きるよ!」
名残おしいけど、レイの体を優しく押して、起床を促した。
このまま横になってたら流されそうだと思った俺は、早めに立ち上がる。あ……まだ裸だったんだ、と今気づいた。レイのほうに目を向けると、ベッドに座りながら、不満そうな顔で頭をガシガシ掻いてた。その中心は兆してるのに、白い裸体を惜しげもなく陽の光にさらしていて、ドキッとしてしまった。
汚れるからって、レイも脱いだんだった。
(こういう開けっ広げな男っぽさみたいなのも……なんかレイだとずるいっていうかさー)
口を尖らせながらそんなことを考える。
身支度を素早く整えて、床に散らかったレイの衣服を机の上に畳んでおいておく。着替えている間中、背後から不躾な視線を感じたけど、気づかなかったことにした。
浄化したとはいえ、部屋でシャワーを浴びてから朝ごはんにしたい。
「またあとで」と短く言って、レイの部屋を後にした。
リビングにつながる扉をパタンと締めて、ふと顔を上げると、ガガガーーーンという効果音でも聞こえそうなほど、驚愕に目を見開いたオリバーと目があった。
「――……あ」
「う、嘘……俺がいない間、き、昨日一体なにが……ッフェルトさんが、ついにッ悪魔の手に………」
ぶつぶつ言ったあと、オリバーは悲壮感漂う表情で、涙ぐみながら俺のことを見てきた。
一体、オリバーの目には……レイはどんな風に映っているんだろうか。普段仲よさそうにしてるのに。
「や、えっと……べ、別になにもないから! お、オリバー。別になんにも起きてないって!」
おそらく真っ赤になった顔で否定する俺の言い分に、どれだけ信憑性があるのかわからないけど。ほんとになにも起きてない――、と思う。多分。
俺はオリバーの視線から逃げるように、いそいそと自室に戻ってシャワーを浴びた。
なぜかその日、唇をよく触ってしまったけれども、やっぱり特になにか起こったわけではない――、と思う。
――……多分。
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