引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
54 / 119
1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

51 朝(フェルト視点)・後

しおりを挟む


 レイのつやつやした薄い唇は、思った以上に柔らかくて……その中は冷たいレイからは想像もつかないほど、すごく、熱かった。昨日のやらしいレイを思い出すと、心臓がばくばくとすごい音で鳴り出した。
 
(……そ、そういえば、陰茎を舐めたのもはじめてだったって言ってたし)

 恥ずかしくて、情けなくて、どうしたらいいかわからないっていうのに、同時にふわああっと花が咲くみたいな気持ちが広がっていく。なんであんな変態なのに、恋人っぽいことの経験はないんだろう、レイは。
 恋人いたことないのかな、だけどレイに触れた人はたくさんいるんだろうな……そんなことを考えながら、俺の感情は高波みたいに上がったり下がったりで忙しい。きっと、さっきから一人で百面相をしてることだろう。
 こんなこと、ほかの人に感じたことなんてなかった。

 ――レイは、俺にとって特別なのかな。

 死ぬほど恥ずかしいけど……踏まれてもいいと思えるのは、頭がおかしくなってるとしか思えないけど……特別な子なら、もしかすると……? わかんないけど。

 でも、それなら……キスだってもっと! はじめてなら、ちゃんとデートとかして、きれいな場所とかで……優しく、してあげたかった。
 
 (あんなッ! あんな……ッ! うわあああーーッ!!!)

 驚いてぽやっと惚けてた間にキスされて、俺の精子の味がはじめてだなんて――、


 ――……死にたい。


 やり直したい。切実に……。
 ちーんという残念なかんじの鐘の音が頭の中で聞こえる。
 もっと先輩たちに、好きな子ができるってどんなかんじが聞いておけばよかった。好きだなって思えるような子にあったことがなくて、自分は恋愛に淡白なんだろうなって、ずっと思ってたから。
 レイにほかの女の子たちと同じことが当てはまるかどうかは、はなはだ疑問だけど。これが好きってことなんだったら、俺はどうすべきなんだろ。
 わ、わからないーッ! 先輩たちも女の子に局部を踏まれて……た、勃ったりするんだろうか。……謎だ。
 あんな扱いを受けておいて、一体どう大切にしたらいいのかも……謎だ。
 
 謎すぎる。

 とりあえず保留だな、これは。
 オリバーにもイザベラ嬢にも聞きづらいし、なんかシルフィは人間の感覚わかるのか怪しい。というかそもそも、恥ずかしくて聞ける内容じゃないし。もうちょっと、考えよう。

 だんだんと部屋が明るくなってきて、目が覚めてきたのか、レイが「ううん」と言いながら身じろいた。
 昨日はそんなに遅くまで起きてなかったし、もしかすると早めに起きるかもしれないなーと思う。小動物のように身をすりよせてくるレイを見ながら、ぎゅっと抱きしめてやると、「んー?」と言いながら、レイがぼんやりと顔をあげた。

 以前もそうだったけど、レイはすごく朝弱いみたいで、頭が働き出すまでしばらくかかる。
 たしかにいつも眠そうな、気だるそうな顔をしてるんだけど、寝起きでぽやんと無防備な顔をさらしているときは、本当に……天使みたいに愛らしい。

「おはよう、レイ」

 にっこり笑って挨拶すると、レイはパチパチと大きめの目を瞬きして、微かに笑みを浮かべて、目を閉じた。唇をちょっとつき出して「ん」と高圧的に言われる。

 ……えッ! キス待ち?!

 俺はドキドキしながら、目を閉じたレイの顔に唇をよせる。
 ちゅっと小さな濡れた音がした――、と思ったら、そのまま熱い舌が滑りこんできて、口の中を蹂躙される。弱いところを舌先でこすられ、鼻から甘い声がぬける。

「ん……」

 ちゅっと口を離されたときには、ハアハアと荒い息を吐き出してたのは俺のほうだった。レイだって、昨日はじめてキスしたって言ってたのに、なんだこの差は。――ずるい。

 いつの間にか、レイの両手は俺の頭にまわっていて、ぐっと引き寄せられる。寝起きの低い声のレイが、耳元で「入れていい?」と聞いてきて、なんか中心がズクンと甘く痺れた。
 足に熱くて硬いものがあたってて、心臓が飛び出そうだった。ぎゅっと目を閉じて、意を決して口をひらく。

「――お、起きるよ!」

 名残おしいけど、レイの体を優しく押して、起床を促した。
 このまま横になってたら流されそうだと思った俺は、早めに立ち上がる。あ……まだ裸だったんだ、と今気づいた。レイのほうに目を向けると、ベッドに座りながら、不満そうな顔で頭をガシガシ掻いてた。その中心は兆してるのに、白い裸体を惜しげもなく陽の光にさらしていて、ドキッとしてしまった。
 汚れるからって、レイも脱いだんだった。

(こういう開けっ広げな男っぽさみたいなのも……なんかレイだとずるいっていうかさー)

 口を尖らせながらそんなことを考える。
 身支度を素早く整えて、床に散らかったレイの衣服を机の上に畳んでおいておく。着替えている間中、背後から不躾な視線を感じたけど、気づかなかったことにした。
 浄化したとはいえ、部屋でシャワーを浴びてから朝ごはんにしたい。
「またあとで」と短く言って、レイの部屋を後にした。

 リビングにつながる扉をパタンと締めて、ふと顔を上げると、ガガガーーーンという効果音でも聞こえそうなほど、驚愕に目を見開いたオリバーと目があった。

「――……あ」
「う、嘘……俺がいない間、き、昨日一体なにが……ッフェルトさんが、ついにッ悪魔の手に………」

 ぶつぶつ言ったあと、オリバーは悲壮感漂う表情で、涙ぐみながら俺のことを見てきた。
 一体、オリバーの目には……レイはどんな風に映っているんだろうか。普段仲よさそうにしてるのに。

「や、えっと……べ、別になにもないから! お、オリバー。別になんにも起きてないって!」

 おそらく真っ赤になった顔で否定する俺の言い分に、どれだけ信憑性があるのかわからないけど。ほんとになにも起きてない――、と思う。多分。
 俺はオリバーの視線から逃げるように、いそいそと自室に戻ってシャワーを浴びた。
 なぜかその日、唇をよく触ってしまったけれども、やっぱり特になにか起こったわけではない――、と思う。


 ――……多分。

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

「じゃあ、別れるか」

万年青二三歳
BL
 三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。  期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。  ケンカップル好きへ捧げます。  ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

シナリオ回避失敗して投獄された悪役令息は隊長様に抱かれました

無味無臭(不定期更新)
BL
悪役令嬢の道連れで従兄弟だった僕まで投獄されることになった。 前世持ちだが結局役に立たなかった。 そもそもシナリオに抗うなど無理なことだったのだ。 そんなことを思いながら収監された牢屋で眠りについた。 目を覚ますと僕は見知らぬ人に抱かれていた。 …あれ? 僕に風俗墜ちシナリオありましたっけ?

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

処理中です...