引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

51 朝(フェルト視点)・後

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 レイのつやつやした薄い唇は、思った以上に柔らかくて……その中は冷たいレイからは想像もつかないほど、すごく、熱かった。昨日のやらしいレイを思い出すと、心臓がばくばくとすごい音で鳴り出した。
 
(……そ、そういえば、陰茎を舐めたのもはじめてだったって言ってたし)

 恥ずかしくて、情けなくて、どうしたらいいかわからないっていうのに、同時にふわああっと花が咲くみたいな気持ちが広がっていく。なんであんな変態なのに、恋人っぽいことの経験はないんだろう、レイは。
 恋人いたことないのかな、だけどレイに触れた人はたくさんいるんだろうな……そんなことを考えながら、俺の感情は高波みたいに上がったり下がったりで忙しい。きっと、さっきから一人で百面相をしてることだろう。
 こんなこと、ほかの人に感じたことなんてなかった。

 ――レイは、俺にとって特別なのかな。

 死ぬほど恥ずかしいけど……踏まれてもいいと思えるのは、頭がおかしくなってるとしか思えないけど……特別な子なら、もしかすると……? わかんないけど。

 でも、それなら……キスだってもっと! はじめてなら、ちゃんとデートとかして、きれいな場所とかで……優しく、してあげたかった。
 
 (あんなッ! あんな……ッ! うわあああーーッ!!!)

 驚いてぽやっと惚けてた間にキスされて、俺の精子の味がはじめてだなんて――、


 ――……死にたい。


 やり直したい。切実に……。
 ちーんという残念なかんじの鐘の音が頭の中で聞こえる。
 もっと先輩たちに、好きな子ができるってどんなかんじが聞いておけばよかった。好きだなって思えるような子にあったことがなくて、自分は恋愛に淡白なんだろうなって、ずっと思ってたから。
 レイにほかの女の子たちと同じことが当てはまるかどうかは、はなはだ疑問だけど。これが好きってことなんだったら、俺はどうすべきなんだろ。
 わ、わからないーッ! 先輩たちも女の子に局部を踏まれて……た、勃ったりするんだろうか。……謎だ。
 あんな扱いを受けておいて、一体どう大切にしたらいいのかも……謎だ。
 
 謎すぎる。

 とりあえず保留だな、これは。
 オリバーにもイザベラ嬢にも聞きづらいし、なんかシルフィは人間の感覚わかるのか怪しい。というかそもそも、恥ずかしくて聞ける内容じゃないし。もうちょっと、考えよう。

 だんだんと部屋が明るくなってきて、目が覚めてきたのか、レイが「ううん」と言いながら身じろいた。
 昨日はそんなに遅くまで起きてなかったし、もしかすると早めに起きるかもしれないなーと思う。小動物のように身をすりよせてくるレイを見ながら、ぎゅっと抱きしめてやると、「んー?」と言いながら、レイがぼんやりと顔をあげた。

 以前もそうだったけど、レイはすごく朝弱いみたいで、頭が働き出すまでしばらくかかる。
 たしかにいつも眠そうな、気だるそうな顔をしてるんだけど、寝起きでぽやんと無防備な顔をさらしているときは、本当に……天使みたいに愛らしい。

「おはよう、レイ」

 にっこり笑って挨拶すると、レイはパチパチと大きめの目を瞬きして、微かに笑みを浮かべて、目を閉じた。唇をちょっとつき出して「ん」と高圧的に言われる。

 ……えッ! キス待ち?!

 俺はドキドキしながら、目を閉じたレイの顔に唇をよせる。
 ちゅっと小さな濡れた音がした――、と思ったら、そのまま熱い舌が滑りこんできて、口の中を蹂躙される。弱いところを舌先でこすられ、鼻から甘い声がぬける。

「ん……」

 ちゅっと口を離されたときには、ハアハアと荒い息を吐き出してたのは俺のほうだった。レイだって、昨日はじめてキスしたって言ってたのに、なんだこの差は。――ずるい。

 いつの間にか、レイの両手は俺の頭にまわっていて、ぐっと引き寄せられる。寝起きの低い声のレイが、耳元で「入れていい?」と聞いてきて、なんか中心がズクンと甘く痺れた。
 足に熱くて硬いものがあたってて、心臓が飛び出そうだった。ぎゅっと目を閉じて、意を決して口をひらく。

「――お、起きるよ!」

 名残おしいけど、レイの体を優しく押して、起床を促した。
 このまま横になってたら流されそうだと思った俺は、早めに立ち上がる。あ……まだ裸だったんだ、と今気づいた。レイのほうに目を向けると、ベッドに座りながら、不満そうな顔で頭をガシガシ掻いてた。その中心は兆してるのに、白い裸体を惜しげもなく陽の光にさらしていて、ドキッとしてしまった。
 汚れるからって、レイも脱いだんだった。

(こういう開けっ広げな男っぽさみたいなのも……なんかレイだとずるいっていうかさー)

 口を尖らせながらそんなことを考える。
 身支度を素早く整えて、床に散らかったレイの衣服を机の上に畳んでおいておく。着替えている間中、背後から不躾な視線を感じたけど、気づかなかったことにした。
 浄化したとはいえ、部屋でシャワーを浴びてから朝ごはんにしたい。
「またあとで」と短く言って、レイの部屋を後にした。

 リビングにつながる扉をパタンと締めて、ふと顔を上げると、ガガガーーーンという効果音でも聞こえそうなほど、驚愕に目を見開いたオリバーと目があった。

「――……あ」
「う、嘘……俺がいない間、き、昨日一体なにが……ッフェルトさんが、ついにッ悪魔の手に………」

 ぶつぶつ言ったあと、オリバーは悲壮感漂う表情で、涙ぐみながら俺のことを見てきた。
 一体、オリバーの目には……レイはどんな風に映っているんだろうか。普段仲よさそうにしてるのに。

「や、えっと……べ、別になにもないから! お、オリバー。別になんにも起きてないって!」

 おそらく真っ赤になった顔で否定する俺の言い分に、どれだけ信憑性があるのかわからないけど。ほんとになにも起きてない――、と思う。多分。
 俺はオリバーの視線から逃げるように、いそいそと自室に戻ってシャワーを浴びた。
 なぜかその日、唇をよく触ってしまったけれども、やっぱり特になにか起こったわけではない――、と思う。


 ――……多分。

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