引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

45 フェルトと盗賊・前

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 フェルトの風を纏う剣から放たれた、夜の闇を切り裂くような一閃。

 
 薄い緑の風が彼を包みこむように舞い、まるですべての悪事を飲みこむように、男たちに向かって吹き荒れた。
 スヒンッという鋭い音が俺の耳に届いたかと思ったときには、その場にいた汚い男たちが吹っ飛んだ後だった。
 風が彼を愛しているように、優しくフェルトのまわりを包んでいた。

 月の光が優しく差していた。
 夏の夜の風は心地いい。なんでも許してくれるような気分になる。でも今日は許された気はしなかった。
 俺とは住む世界が違うな……と俺は思った。


 ――――数時間前。


「はあ? 盗賊?? なんの話だ。傭兵が暴れてるだけじゃなかったのか?」

 アッカ村を出たころにはもう夕方近くになっていた。俺たちはレンベルグまで向かっていたが、その途中でベラんちの早馬が来て、くそいらない情報を置いてった。どうやら、傭兵の残党の中に盗賊と通じているものがいたらしく、町が荒れているのをこれ幸いと、盗賊団まででしゃばってきたのだとか。

 ベラんちのように雇われた騎士たちのいる家は襲われないが、民家や小さな商店を荒らし、見目のいい女子どもは攫われたらしい。
 傭兵たちも一緒になって盗賊団とともに、アジト? に帰って行ったんだとか。今ごろ、アジトではお祭り騒ぎだろう。

「じゃあ、もうレンベルグは、なんにも問題はないってことか?」
「問題はあるわ! でも今は、盗賊団をどうにかしないと。レンベルグは町だから、基本的に冒険者に警邏を委託してるのよ。今はこないだの遠征で冒険者もまばらだし、ほかの街から救援が来るまでは、手も足も出ないわ。対処しなくちゃいけないことが変わっちゃったの」
「どうにかする? ――誰が?」
「――……そ、それは……」
「レイ、俺が行く。攫われた人たちがいるなら、奴隷として売られちゃう。放っておけないよ」

 ――ま、そういうことになるのか……。
 攫われた人を助けるだなんて、フェルトはまるで正義のヒーローみたいだ。そんなこと……考えたこともなかった。そんなこと考えるやついるんだ。

 だって俺には関係のないことだ。
 フェルトにだって、関係のないことなのに。

 胸の中に澱んだなにかでごぽごぽと湧き立つような、気持ちの悪い感覚が巡る。
 真剣な顔をしたフェルトを俺はしばらくぼうっと見ていたが、ベラに向き直って言った。

「じゃあ、オリバーとベラは町の救援してこいよ。傭兵がもういないなら、復興だけだろ? アジトのほうはフェルトと俺が見に行く。ダンジョンに近いみたいだし、そのままうちに帰る」
「わかりました。どちらにしろ俺がいても足手まといですし、イザベラのほうを手伝って帰ります」
「レイ様。今日、いろいろ頼んじゃってごめんね。でも、ありがとう! アッカ村のみんな、すごい喜んでたから」

 足手まとい……俺もそうだけど、と思ってフェルトのほうを見ると「大丈夫」とでも言うように、力強く頷かれた。
 オリバーとベラたちとはその場で別れ、教えられたアジトとやらに向かう。アッカ村とは反対側の森の中に家のようなものがあるらしい。こんな辺境を拠点にして、実入りはあるのか? ……と、盗賊視点で考えてみるものの、すぐには思いつかなかった。
 多分、こんな実入りのないところで悪行やってるくらいの阿呆だから、盗賊なんだろう……という結論に至った。

「ちょっと、飛ばすからね」

 フェルトはそう言うと、さきほどまでとは打って変わって、馬を速く走らせた。
 ちらっと後ろを覗いてみると、真剣な表情のフェルトがいた。ダンジョンで見た以来の表情だった。彼はいつだって〝守る〟ためにこの表情を浮かべるのかもしれない。
 俺が見ていることに気がつくと、「前向いてないと危ない」と、ぎゅっと抱きしめるように片手で抱えられた。腹から、あたたかいフェルトの体温が俺に移って来た。あったかいな……と思いながら、そういえば上着をベラから受け取るのを忘れたなと思った。
 フェルトも気がついたのか、一度速度を緩めると、自分の着ていた上着を俺の肩にかけた。

「男前……。女の子にやってやる機会が来るといいな」
「からかわないでよ……」

 にやにや笑いながら言ったけど、頬にあたる風が冷たくなってきてたから、正直、あったかくてありがたかった。
 しばらく馬を走らせていると、言われた通りの場所に小道っぽい踏み慣らされた場所があり、そのさきに一軒家のような建物が見えた。フェルトと俺は馬を降りた。

「これは、――これ以上近づくと、足音とかで気づかれるだろ」
「うん、大丈夫」

 大丈夫って……なにが? という顔で訝しげに見ていると、フェルトが「あ」という顔をして説明してきた。

「ああ、ごめん。シルフィが森の中には誰もいないって言ってる。どちらにしろ、盗賊が何人いても俺の敵ではないから、出てきてもらっちゃったほうがいいかも」

 シルフィっていうのは、精霊王のことだ。
 精霊王いるんだ? とか、精霊王話すんだ? とか俺は素直にびっくりした。まあ、王様的な精霊が言うんだからそうなんだろう。家の中で、攫った人たちとお祭り中ってことだろうか。
 それにしても、全員出て来てもOKだなんて強気だ。まあ、フェルトは実際強いんだろう。ふうん。そういうことなら――

「おーーい! そこの汚ねえ盗賊ーーー! 今から10数えるー! 攫った人たちを解放しろー!」

 隣でフェルトがギョっとした顔をしていたが、「なに? 出て来たほうが楽なんだろ?」と俺が聞くと、「ふふ、そうだね」と笑っていた。
 余裕だ。
 こんな男に助けられたら、女子は惚れてしまうだろうなー。
 俺が10を数えだすと、盗賊たちはわらわら出てきた。出てきたのは15人くらいだったが、中にもまだ何人か残っていそうだ。手に手に、ゲームで見たような盗賊が持ってそうな曲がった剣のようなものを持っている。

「一体どこのバカかと思えば、随分な上玉だな、お嬢ちゃん。そんなに俺たちに犯して欲しいのか?」
「どちらかと言えば、犯してやり……」
「ごほんッ! 攫った人たちを解放して下さい。あなたたちでは敵いません!」
「やっちまえ!」

 やっちまえ、とか言った? 漫画に出てくる盗賊みたいだ。悪いやつっぽい。
 日本人っていうのは、基本的に平和ボケをしている人種だと聞いたことがある。軽犯罪も含め、被害に遭う確率が少ないから、実際にそういう場面に出くわしても、危機を察知することができないんだとか。逆に冷静に対応しようとして、殺される……なんていうこともあるらしい。
 でもこの場合はどうなんだろ。フェルトが心強すぎて、よくわからない。

 すごい勢いで向かって来る盗賊たち。
 町を襲ったばかりだというのに、ボロボロの汚い服を着ていて、強そうには見えないけど、ちらほら甲冑をつけたやつらもいる。あれが残党の傭兵たちなのかもしれない。
 枝や土を踏み、こちらに向かって不格好に突進してきた。

 そして――、

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