引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

44 アッカ村を見に行こう・後

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「貴族ッ! また村を荒らしに来たのか!」
「……お前な、俺がほんとに貴族だったら首飛んでんぞ。弟を守りたいのはわかるが、今のは失敗だからな」
「ち、違うのか……? そのヒラヒラした格好。貴族とおんなじだ」
「その畑、踏み荒らされたのか?」
「こ、こないだのやつらが、通り道で邪魔だからって。小さいけど、うちにはこの畑しかないのに」

 彼らがしゃがみこんでいた小さな畑の苗は、ところどころ接ぎ木がされすっかり元気がない様子だった。土も足あとが残っており、つぶれてしまったトマトや茄子などに、虫がたかっているのが見えた。
 通り道だから? こんなところ、通らねえだろ。貴族だか傭兵だかは知らないけど、文字通り、この村を土足で踏み荒らしていったんだな。
 俺は手を土に置き、元気のない土にカツを入れてやる。
 養分たっぷり水分たっぷり、いい土になっていい野菜作らせてやれよ。それから、接ぎ木のされたトマトや茄子の苗を、虫や疫病に強い品種に改造してやる。大きく丈夫に育つといいな。

「わああ、兄ちゃんすごい! トマトが一瞬であんなに大きくなったよ! あんな元気なの、見たことない」
「――お、お前! 月の女神なのか?」
「んなわけねーだろ。バカなこと言ってないで、スコップでも持ってきて手伝えよ。畑広げてやるよ」
「嘘ッ!! 月の兄ちゃん待ってて!!」

 月の兄ちゃんてなんだよ。
 目の前でつやつやになったトマトが揺れ、青々とした葉が元気に生い茂っていた。隣の茄子も、オクラっぽいのもカボチャっぽいのも、ついでに元気にしてやる。

「フェルト、俺、生活魔法しかできねーんだけど、ウォーターやってよ」

 フェルトが手を翳すと、キラキラと水が降りはじめ、陽の光に照らされて小さな虹ができた。
 日本にいたときは、土をいじる機会なんて与えてもらえなかったけど、こういうスローライフ? ていうんだっけ? なんかそういうのもいいなあ。「俺にもちょっとかけてー」と言うと、くすくす笑いながらフェルトは淡いシャワーのような水を、俺にもかけてくれた。気持ちいいー!
 ジャケット? テールコート? も着ろってベラが騒いでたけど、こんな暑い日に着てられっか。フリルのついたシャツだけ着ていた俺は、適度に水が滴ってちょうどいい温度になった。

「あ! 兄ちゃんずるい! 水遊びしてる!」
「俺もー! 俺もーッ!」

 帰って来た兄弟が、俺が水浴びしているのを見て羨ましそうにこっちを見て来た。
 水遊びじゃねえ! 水浴びだ。

「俺は生活魔法しかできねーから、あの騎士の兄ちゃんに頼め」
「騎士の兄ちゃん、俺たちもー!!」

 フェルトに水を降らせてもらいながら、俺は畑を大きくしていった。弟っぽいやつは水遊びばっかしてたけど、兄貴のほうはちゃんとスコップで畑を起こすのを手伝ってくれた。えらいぞ。なかなか見所のあるやつだ。

「お前ら、なんでこんなトマトとかキュウリばっか育ててんだ? もっと日持ちするやつ育てろよ。稲ってあんのか? 芋とか強いぞ?」
「稲? 芋?」
「稲はないのか? じゃあ小麦とか。そういうのがもっとあったら、冬とか越すの安心だろ」
「小麦なんてちょっとだけ育てたって、腹の足しにもなんねーよ!」

 なるほど。話を聞いてみれば、冬はパンを買って干し肉とスープにして食べてるらしい。
 パンはそこそこ金かかるし、栄養偏るだろそれ。なんて不経済なんだ。2人の体つきを見ているかぎり、ろくな量も食べていないだろうことがわかる。稲とか小麦は、確かにちょっと育てたくらいじゃ、腹の足しにもならないのかもしれないが、芋はいいんじゃないか?根菜作れよ。根菜。
 フェルトの方を見ると、少し考えて、答えを教えてくれた。

「え、うーん、村全体で小麦育ててみたらどう? 芋はこの国では見ないかも。もっと寒いとこの特産だと思ってたけど」
「でも育たないわけじゃないんだろ? ベラに言って用意してもらえよ。あれたしか育てんの簡単だったはずだ」

 話しながらいろんな苗も移植して、畑も潤った。強い苗にしたから、増えたら村人にも分けてやってと兄弟には言っといた。1人1人のうちをどうにかするほど、俺の労力は安くないんだ。
 オリバーが桃を持ってきてくれたから、それを兄弟と一緒に食ってたら、2人は涙目になってた。なかなかかわいい。そのあとも、泥だらけになって畑で遊んで……じゃなくて、畑で作業をしてたら、フェルトが「レイ、そろそろ行かないと」と浄化をかけてくれた。ついでに兄弟にもかけてやっていた。
「またなー!」と言うと、2人は「月の兄ちゃんまた遊びきてー!」とブンブン手を振っていた。

「レイは子ども、好きなの?」

 フェルトが珍しく素直にニコニコしながら、俺に聞いた。
 いや、フェルトはいつもニコニコしているけど、俺といるときは青くなったり赤くなったり忙しそうだから、こんな穏やかな表情で長い時間いるのは珍しい。

「別に」

 俺は、特に子どもが好きなわけじゃない。あんまり関わったこともない。だから好きなわけではない。「そう」と言いながらも、フェルトがやたらにこにこしていて、なんか嫌な感じだった。

 村の入り口まで戻ると、諸々のことを終えたベラとオリバーたちが待っていた。
 ベラに「レイ様、なにか一言」と促され、え、一言ってなんだよ……と思ったが、村長を含む村人たちからなんか期待の込もったような目で見られたので、仕方なく言った。


「また来る」


 おおーッ! と歓声が湧き、なんかひれ伏しそうな勢いでお辞儀をされたが、俺は桃持って来ただけでなんもやってない。俺、畑で兄弟と遊んでただけじゃん。
 この一言必要だった? と、俺は訝しげな目でオリバーとベラを見たが、二人は満足そうににこにこ笑うだけだった。俺が頭に「???」と疑問符を浮かべている間に、さっさと馬に乗せられ、レンベルグの町までの道についたのだった。

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