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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
43 アッカ村を見に行こう・前
しおりを挟む「絶対に、銀髪に紫の瞳よ!」
「いや……普通に、茶色茶目がいいんじゃない?」
「バカなこと言わないで! 人は救世主に神々しさを求めるものなのよ」
……と、さきほどからリビングで争っているのは、ベラとオリバーだ。
なにを争っているのかといえば、俺の『容姿』をどうするかということだ。なぜこんな話し合いをするハメになったかというと、それは少し前に遡る。
朝っぱらから俺の部屋の扉がバンッと勢いよくひらき、ベラがベッドに突撃してきた。
男の寝台に突撃っていうのは……さすがに令嬢としてどうなんだ。
「レイ様ッ! レンベルグもアッカ村も大変なの!!」
「――……はあ?」
「もう10時よ!」と大声でわめくベラの横で目を擦りながら、寝ぼけた頭で耳を傾ける。やっと辺境伯の遠征が終わったと思ったら、1日の休みもなく、次から次へと……はあ。
とにかく、こないだ遠征しにきたヒストリフたちが好き勝手したせいで、村と町がやばいと。
アッカ村においては食料難で、赤子も育てられないほど困窮しており、レンベルグでは残党? というか逃げ帰った傭兵たちが暴れまわっているんだとか。ヒストリフのやつらが、金をちらつかせてたくせにちゃんと払ってなかったもんなあ。それで、町の人たちは店も開けられずに、家の中にこもっているらしい。
「えー これは俺のせいってことになんの?」
「別にレイ様のせいじゃないけど、レイ様ならなんとかできそうなんだもん」
「えー」
まあ、たしかに……俺んちができたせいで調査が来て、それで辺境伯軍が来たわけだから、元をたどれば俺のせいかもしれないけど、それちょっと横暴だろ。でも、小さい子どもにまで被害が出ているというのなら、ほっとくわけにも行かないのかもしれない……のか?
とりあえず様子くらい見に行こうか……と言ったら、ベラとオリバーの談義が始まったのだ。
「村を見に行くだけでしょ? むしろこないだの冒険者の格好でいいんじゃないの?」
「だって、もしそこでレイ様の不思議な力で村をどうにかすることになったら、冒険者の格好のままじゃ困るでしょ! レイ様の美しさは絶対に利用すべき!」
「でも、それで黒髪じゃまずいからって銀髪紫眼って……派手すぎだよ」
「むううう、じゃあフェルトさん! フェルトさんはレイ様の髪と目、なに色のイメージ?!」
「え、俺? えーと……」
当の本人を差し置いて、俺の目と髪をどうするかで大討論だ。
正直、俺はなんでもいい。
オリバーの言う通り、茶色にしたらいいんじゃないか? と思うが、ベラが猛反対をしている。美しさだとか神々しさだとか、必要だとは思えない。色ってそんなに重要なものなのか?
うーんうーん、と腕をくんで考えていたフェルトが、視線を宙にさまよわせながらぽそりと言った。
「えっと、薄いピンク花びらみたいな色の髪に……空みたいなきれいな瞳、とか似合いそう、かなあ」
「「「!!!!!」」」
え、え、だめかな? と赤くなって、焦っているフェルトを見て、俺たち3人は固まった。
「フェ、フェルトさん……あ、あんなひどい仕打ちを受けておきながら、レイ様がそ、そんな可憐なイメージ。ううう、不憫だ。」
「お、乙女。乙女だわ。レイ様のことが天使に見えてるのね?」
「……は? えッ! いや! そ、そんなんじゃ……ッ!」
ピンク頭に水色の目ってこと? どこの少女漫画のヒロインだよ。ひでえイメージだな。
3人でぎゃーぎゃー言ってるのを聞きながら、俺はコーヒーをすする。こないだ町で買ったけど、オリバーが結構本格的にドリップしてくれてうまい。
それにしても、たかが人の髪と目のことでよくもまあ、こんなに話すことがあるもんだな。日本にいたときから、俺は髪を染めたこともないから、いまいちこだわる気持ちがわからない。
「ベラが折れないんだから、銀に紫でいいよ。いないわけじゃないんだろ?」
「ほんと!? レイ様ーッ!」
「いないわけじゃないですけど、月の女神の色ですよ? 知りませんよ。女神とか呼ばれても」
「は? 女神? さすがにそんなもんに見えないだろ。ちんこついてんだよ。――これで、いいのか?」
「はッわ、わ、わぁぁ……レ、レイ様。こ、神々しいー……ま、待ってッ! 今、服! 服を用意するから!!!」
「大袈裟すぎる。村行くだけだろ。スウェットでいい」
「絶対だめッ!!!」
――ということで、なぜかヒラヒラのついたブラウスに紺色のパンツを着せられて、俺はアッカ村に来ていた。
同じような紺色の騎士服に身を包んだフェルトも一緒だ。フェルトは結局、髪と目の色だけ茶色にすることになった。
とりあえず、アッカ村は困窮しているのでそちらに先に行くことにし、俺は例のリビングに生えている桃っぽい実を村人の分だけ持っていくことにした。
ベラが馬を用意してくれたので、俺は人生ではじめて馬に乗ることになった。
もちろん乗ったことはないので、フェルトの前に乗らせてもらっている――が、背後に人がいることに慣れず、乗り心地は最悪だった。俺が後ろだと落ちるからだめなんだってさ。
あまり舗装されているとは言えない道を、パカッパカッと馬の蹄の音が響く。
「あの桃の木を村に植えるわけにはいかないんですか? 実を持ってくのって結構大変なのに」
「それはだめだ。あの実があると、人は働かなくなるから。あくまでも応急処置だ」
人は過ぎるものを手にすると、日々の努力を怠る生き物だ。
栄養価も高く、勝手に増えてくれる木があれば、畑を耕すのをやめる人間も出て来る。
もちろん、桃ばかり食べたいわけじゃないだろうから働くかもしれないが、オリバーが1週間食べ続けても飽きなかったのを見ると、怪しい。「なるほど」とオリバーは頷いていた。
「こちらのレイ様とビアズリー商会から、物資の救援に参りました」
村……と言っても50人いるかいないかという集落だが、ベラが大声でそう言うと、村人たちの間から村長らしき老人が出てきて、お礼を言っていた。ベラとその従者のようなやつらが、物資を均等に村人に分けている間、俺はフェルトとともに集落を歩いていた。
ちらちらと視線を感じるが、仕方ないだろう。貴族のような格好をしていて、ふらふらと歩きまわっていれば、気にもなるはずだ。
蓄えを取られてしまい、畑の作物を食べてその日暮らしだと言っていただろうか? あんまり土地も豊かな気はしないが、それでも、トマトやきゅうりなど、小さな畑で大切に育てているのが見てとれた。
小さな民家の角を曲がったときだった。
小汚い村の子どもが2人、小さな畑の前にしゃがみこんでいた。10才くらいだろうか、大きいほうの子どもが俺に気づいて立ち上がった。
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