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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
40 辺境伯軍の遠征・後
しおりを挟むこんな大規模なダンジョン攻略は想定していなかったものの、細い道や人数を分断するような入り組んだ通路を作っていたことが、功を奏したと言える。
たとえどんな大人数で挑んだとしても、迷路に入りバラバラになってしまえば、結局のところ単独で行動しているのとなんら変わらない。
逆に『大人数だから安心』と思っている彼らのほうが、補給や救援が欲しいときに期待していたものが届かない……という事態に陥りそうだなと思う。
長くなりそうだし、2人だけが立ってるのも悪いので、リビングで一緒に見ることにした。
そんなことをしたことは一度もないけれど、もはや家族でスポーツ観戦でもしてるくらいのノリだった。辺境の冒険者に辺境の軍だ、あんまり目立って強いやつはいないように思うけど――
「オリバーが知ってる強いやつっている?」
「レンベルグのギルドはF~C級くらいまでの冒険者が多いですからね。そもそも、レイ様のダンジョンがなければ、そんなに需要がないので、強い人間は別の町に行きます」
「あの演説してたおっさんとかは?」
「辺境伯が軍備を増強してる……という噂は耳にしたことあります。辺境というのは、王都から1番目の届かない領地です。反乱の種を生みやすいので、王家が信頼する貴族の領地であることが多いのですが……まあ、時代は変わりますからね。もしかすると、手練れを集めて軍に入れてることも考えられなくはないですが、あまり人望がある御方ではないので、金で集まる者と貴族の三男以降が多いかなあと」
……ふうん。じゃあやっぱり、大人数だとどうなるのかってデータだけ取っておしまいかな。あとは婚活支援。
スクリーンを見ていると、強いゴブリンたちに翻弄され、引き返した者たちがちらほら映っている。
ああ……確かに大人数だと、引き返そうとしたときに次のパーティにぶつかるから、一緒に攻勢に応じることができるのか。
逃げ道ができるということは、それだけで生存率が上がる。
単独で挑む場合は、追撃されて逃げきるのは困難だが、後続がいるならそれが可能だ。メモを取りながら、改善案を羅列していく。忍者屋敷みたいに、からくり扉や、入ったあとは違う道になってしまう……などの仕掛けがあってもいいかもしれない。
「これって、何日くらいで攻略する気でいるんだ?」
しばらく3人で見ていたが、昼を過ぎ、飯を食って、今……もうオリバーが茶菓子を準備してるとこだった。
もう――6時間以上経っている。
スクリーンを見ると、さっきのヒストリフというおっさんが完全に苛立っていた。
引き返してくる傭兵たちも、中継して情報を収集している辺境軍の人たちも、みんな決まって同じことしか口にしないからだろう。「ゴブリンがいる」「スライムがいる」「ゴブリンウィザードがいる」「ゴブリンソルジャーがいる」「入り組んでいる」「迷路みたい」
宝箱の情報が出ないのは、それは獲得した者が所持しているからだろう。
「あの雰囲気からするに……この人数なら1日もかければ、なにかしらの手がかりが見つかると思っていたんでしょうね」
「こういう遠征って、日をまたぐ場合はどうなるの?」
辺境伯の治めている領地の名前は『グレンヴィル』、辺境伯の屋敷のある都市は『ローグ』というらしい。
ローグからこのダンジョンまでは、馬で2日かかる。
傭兵や冒険者たちはこの辺りか、あるいは行きがけに通った町で集めているんだろうが、士官たちは馬でここまで来たんだろう。
野営の準備とかあるのだろうか。
『1日がかりで、なんの収穫もないとはどういうことだ!!!』
夕方になり、ごつい奴らが引き上げてきたのを見て、憤慨したヒストリフは怒鳴り散らした。
データ的に見れば、冒険者の生存率や帰還率はいつもの倍だと言っていい。俺もこの問題点は改善しなくてはなあと思う。
ヒストリフたちは、やはり野営の準備はなかったようで、どうやらアッカ村で必要なものを調達し一泊するようだった。毎日畑を耕しているだけの村に、どれほどの備蓄があるのかは知らないが、突然言われれば……おそらく困るだろうなあ。
なんてったって、何人かダンジョンに取り込まれたとはいえ、ほぼ50人分だ。
その50人の中に、貴族も入ってるんだからたまったもんじゃないだろう。
「泊まりになったな。いつまでいるつもりだと思う?」
「ど、どうなんでしょう……ご子息のために軍を出すくらいですから、やっぱり収穫があるまで? ってことですかねー」
「もう寝ていいかなー 俺今日眠いー」
「……はいはい。じゃあ冒険者と傭兵の設置は適当にやっておきます。無力化だけしといて下さい」
まだ夕方だというのに、寝不足の俺の眠気はピークに達していた。
なんか明日も早く起こされそうな気がする。
適当に問題点の改造だけして、ねよ。
そして、俺らの予想通り、翌日も翌々日も、この厄介な遠征は続くのだった。
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