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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
39 辺境伯軍の遠征・前
しおりを挟む「結局、辺境伯自体も動いたのか」
オリバーが「緊急事態です」と起こしに来た。
昨晩は夜遅くまでレオで遊んでたから、早朝の俺の機嫌は――最悪だった。眠い。
目を擦りながらスクリーンを立ち上げると、ずらりと並んだごつい男たちに、数人の軍服っぽい格好をしたやつらが映った。オリバーが「傭兵を雇ったみたいです。あとは冒険者」と教えてくれた。
後方には白い天幕が張られ、どうやらその中には指揮官のような人物がいるみたいだ。
(……これはまた、随分本格的なことで)
『今回、ラムレイ辺境伯から命じられ、このダンジョンの調査をすることになった。有力な情報を得たものは金貨5枚、王都からの調査団の行方を発見したものには金貨50枚が出る。今回指揮をとる辺境伯軍――ヒストリフ・モルコだ。私の指示に従ってもらう!』
しばらく様子を見ていると壮年の髭を生やしたオヤジが出てきて、傭兵と冒険者たちに向かって声を張り上げた。
ごつい奴らの数はおおよそ50人ほどだろうか、今までは単独のパーティしか見たことがなかったので、正直――壮観ではある。
「辺境軍の人たちも入れて、総勢60人くらいですかね」
「な、なにこれ……こうやって俺たちも、レイに見られてたんだね……」
机に肘をついて、こめかみを支えながら、俺はふああと欠伸をした。
眠すぎてあんまり頭が働いていないが、フェルトたちで瀕死だったダンジョンである。有象無象が束になったところで、今のとこ、そんなに危険があるとは思えなかった。
でもま……油断は禁物か。
傭兵たちの様子を見ながら、めぼしい手練れはいないかな?と、一応、目を通している。
「さすがに辺境伯も人の子ってことですね。ご子息が失踪して、心配なのかもしれませんね」
残念ながら、『大事なご子息』は、本人がどう思っているかは知らないが、オークと溺愛ハネムーンだ。
ちなみに、MPの多い貴重な貴族なので無理はさせてない。
オークともども、とても大事に扱っている。本人がどう思っているかは知らない(2回目)
辺境伯軍というのは、どの程度の強さを持っているものなんだろう。
フェルトたちのような王国の騎士団に属するものたちとはまた違った指揮下にある軍隊だ。選民意識の高いという話の辺境伯だし、もしかすると、家督の継げない貴族の子弟や、家格の低い貴族なんかもたくさんいるかもしれない。
もしそうだっていうなら――
(あれは嫁候補軍……この遠征は、婚活だな)
さっきまで少し圧倒されていたところもあったが、そう思うと、非常にありがたい存在だなと思う。軍服着ているやつらは、ひとり残らず捕まえて、第3階層送りだ。
ま、見たところ傭兵・冒険者が多そうなので、実働は彼らのみの可能性もある。
ちょっと慌てた様子のフェルトに比べ、オリバーは言葉の節々に余裕がある。
第3階層も開通しているので、大群で来られたとしても足止めするのには十分なトラップがあるからな。
5人ずつくらいのチームになって、順々にごついやつらがダンジョンへと入って来た。
少しずつ間隔をあけ、情報の共有を行っている姿は蟻みたいに見える。調査団の捜索はともかく、今回の彼らの遠征で、うちのダンジョンの情報は多かれ少なかれ、ギルドに流れることになるだろう。
「フェルト。一緒に見るのははじめてだから、さきに言っておくけど――」
俺の椅子の背後に立っているフェルトにくるりと向き直り、見上げながら俺は言った。
「なにがあっても、俺は起きてしまったことを助けたり、救うことはしないし、結果には関与しないから……覚悟しといて」
「…………わかってる。ダンジョンとは……そういうものだ」
「好みの人間がいたときは、関与しますけどね」
「えッ!?」
オリバーがぼそっとまたいつもの余計なことを言った。
ま、それも本当のことだから、特に否定はしない。俺はなにも言わずにスクリーンに目をやり、ダンジョン内の冒険者たちの様子を見た。
今回いつもと違うのは、補給と救護があるという点だ。
今までなら、戦いに敗れたらそこでおしまいであったが、今日は違う。一度戻り立て直したり、後続に支援してもらうことが可能なわけだ。
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