引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
42 / 119
1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

39 辺境伯軍の遠征・前

しおりを挟む



 

「結局、辺境伯ラムレイ自体も動いたのか」

 オリバーが「緊急事態です」と起こしに来た。
 昨晩は夜遅くまでレオで遊んでたから、早朝の俺の機嫌は――最悪だった。眠い。
 目を擦りながらスクリーンを立ち上げると、ずらりと並んだごつい男たちに、数人の軍服っぽい格好をしたやつらが映った。オリバーが「傭兵を雇ったみたいです。あとは冒険者」と教えてくれた。
 後方には白い天幕が張られ、どうやらその中には指揮官のような人物がいるみたいだ。

(……これはまた、随分本格的なことで)

『今回、ラムレイ辺境伯から命じられ、このダンジョンの調査をすることになった。有力な情報を得たものは金貨5枚、王都からの調査団の行方を発見したものには金貨50枚が出る。今回指揮をとる辺境伯軍――ヒストリフ・モルコだ。私の指示に従ってもらう!』

 しばらく様子を見ていると壮年の髭を生やしたオヤジが出てきて、傭兵と冒険者たちに向かって声を張り上げた。
 ごつい奴らの数はおおよそ50人ほどだろうか、今までは単独のパーティしか見たことがなかったので、正直――壮観ではある。

「辺境軍の人たちも入れて、総勢60人くらいですかね」
「な、なにこれ……こうやって俺たちも、レイに見られてたんだね……」

 机に肘をついて、こめかみを支えながら、俺はふああと欠伸をした。
 眠すぎてあんまり頭が働いていないが、フェルトたちで瀕死だったダンジョンである。有象無象が束になったところで、今のとこ、そんなに危険があるとは思えなかった。
 でもま……油断は禁物か。
 傭兵たちの様子を見ながら、めぼしい手練れはいないかな?と、一応、目を通している。

「さすがに辺境伯も人の子ってことですね。ご子息が失踪して、心配なのかもしれませんね」

 残念ながら、『大事なご子息』は、本人がどう思っているかは知らないが、オークと溺愛ハネムーンだ。
 ちなみに、MPの多い貴重な貴族なので無理はさせてない。
 オークともども、とても大事に扱っている。本人がどう思っているかは知らない(2回目)
 辺境伯軍というのは、どの程度の強さを持っているものなんだろう。
 フェルトたちのような王国の騎士団に属するものたちとはまた違った指揮下にある軍隊だ。選民意識の高いという話の辺境伯だし、もしかすると、家督の継げない貴族の子弟や、家格の低い貴族なんかもたくさんいるかもしれない。
 もしそうだっていうなら――

(あれは嫁候補軍……この遠征は、婚活だな)
 
 さっきまで少し圧倒されていたところもあったが、そう思うと、非常にありがたい存在だなと思う。軍服着ているやつらは、ひとり残らず捕まえて、第3階層お見合い会場送りだ。
 ま、見たところ傭兵・冒険者が多そうなので、実働は彼らのみの可能性もある。

 ちょっと慌てた様子のフェルトに比べ、オリバーは言葉の節々に余裕がある。
 第3階層も開通しているので、大群で来られたとしても足止めするのには十分なトラップがあるからな。

 5人ずつくらいのチームになって、順々にごついやつらがダンジョンへと入って来た。
 少しずつ間隔をあけ、情報の共有を行っている姿は蟻みたいに見える。調査団の捜索はともかく、今回の彼らの遠征で、うちのダンジョンの情報は多かれ少なかれ、ギルドに流れることになるだろう。

「フェルト。一緒に見るのははじめてだから、さきに言っておくけど――」

 俺の椅子の背後に立っているフェルトにくるりと向き直り、見上げながら俺は言った。

「なにがあっても、俺は起きてしまったことを助けたり、救うことはしないし、結果には関与しないから……覚悟しといて」
「…………わかってる。ダンジョンとは……そういうものだ」
「好みの人間がいたときは、関与しますけどね」
「えッ!?」

 オリバーがぼそっとまたいつもの余計なことを言った。
 ま、それも本当のことだから、特に否定はしない。俺はなにも言わずにスクリーンに目をやり、ダンジョン内の冒険者たちの様子を見た。
 今回いつもと違うのは、補給と救護があるという点だ。
 今までなら、戦いに敗れたらそこでおしまいであったが、今日は違う。一度戻り立て直したり、後続に支援してもらうことが可能なわけだ。

しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ!
感想 31

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

糸目推しは転生先でも推し活をしたい

翠雲花
BL
 糸目イケメン。  それは糸目男性にのみ許された、目を開けた時とのギャップから生まれるイケメンであり、糸那柚鶴は糸目男性に憧れていたが、恋愛対象ではなかった。  いわゆる糸目推しというものだ。  そんな彼は容姿に恵まれ、ストーキングする者が増えていくなか、ある日突然、死んだ記憶がない状態で人型神獣に転生しており、ユルという名で生を受けることになる。  血の繋がりのない父親はユルを可愛がり、屋敷の者にも大切にされていたユルは、成人を迎えた頃、父親にある事を告げられる── ※さらっと書いています。 (重複投稿)

クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました

岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。 そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……? 「僕、犬を飼うのが夢だったんです」 『俺はおまえのペットではないからな?』 「だから今すごく嬉しいです」 『話聞いてるか? ペットではないからな?』 果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。 ※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい

パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け ★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...