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1-2 騎士団員フェルト
34 流れ人(フェルト視点)・前
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※※フェルト視点です
「いや? なんか1ヶ月ちょっと前に、突然あそこで目が覚めた。それまでは違う世界にいた」
レンベルグには小高い丘があって、そこからレイと一緒に町を見渡していた。
青々とした新緑の木々の間を、爽やかな5月の風が通り抜けていった。
オリバーは食料の買い出しに行っている。
レイはパン屋にも行きたがっていたが、「冒険者の男3人で買い出しに行くのはちょっと……」と、オリバーに断られていた。
しばらくここで休憩をしているとこで、レイは屋台で買った薄いパンのような生地に、鶏肉と野菜を巻いたものを食べていた。あの細い体のどこにそんなに食べ物が入るのか、不思議だ。「マヨネーズが欲しいなあ」とまた知らない言葉をぼやいていた。
ここで休憩する前は、たまにダンジョンで顔を合わせるイザベラ・ビアズリー嬢の家を訪ねた。
訪ねた……と言っても、実際に邸宅にお邪魔したわけではなく、商会の隣で最近彼女が営んでいるという布を扱う店を見に行った。
ダンジョンで採れた素材を利用して、新しいタイプの肌着や衣料品を開発しているのだとか。
数週間前からはじめた商売だと言ってたが、もうすでに『ビアズリーアンダーウェア』『ビアズリーシャツ』『ビアズリーコットン』などと呼ばれ、町の中では大人気で、ほかの街からも商人が買いつけに来るらしい。
レンベルグは辺境の町だが、この噂が王都に届くのも時間の問題かもしれない。
その素材を生み出すモンスターも、レイが改良したというのだから驚きだ。彼がいつも着てる『パーカ』というものや『スウェット』というものも、考案したらしい。
彼女には非常にお世話になっていて、レイの騎士になると言ったら、嬉々として黒い騎士服を作り上げてくれた。
黒は、基本的にこの国では忌避される色だが、レイの騎士だというのならたしかに黒が似合うような気がした。
今日は冒険者の出立ちでいるし、外に出るときは紺色の騎士服を着ているが、ダンジョンでは黒い服を着ている。
イザベラ嬢のお店で、レイがいろんな布を手にしながら、「今度えろい下着も作ってよ」と言い出したのにはびっくりしたが、イザベラ嬢はご令嬢なのに興味津々でレイの話を聞いていた。
2人で『透け感』だとか『紐』だとか『レース』『革』『パール』『Tバック』だとかわけのわからない談義が延々と続き、俺は真っ赤になったまま聞いていた。「まあ!」とか「あら!」とか感嘆の声はあがるのに、まったく恥じらう様子のないイザベラ嬢も、やっぱりおかしい。
確かにレイからもらった下着は、伸縮性があって動きやすく、通気性もあってすごく快適。
だけど、なんでわざわざえろい下着を作る必要があるんだ?? と思い、イザベラ嬢が席を外した際に聞いてみたら、レイは悪びれもせず言い切った。
「だってあんなかっちりした騎士服の下に、卑猥な下着つけてたら燃える」
「………………」
シルフィが横で「変態だわ。真性の変態なのだわ」と、きゃーきゃー騒ぎながら、飛びまわっていた。
俺もそう思った。
レイの周りに騎士は俺しかいないんだから、必然的にレイを悦ばせる役割は俺がすることになるんだろうなと、俺は死んだ魚のような目になった。
その欲望のために、わざわざ新しく下着を考案する感覚は……まったく理解できない。でも、商家の娘である、イザベラ嬢の反応を見るに、もしかしたら需要があるのかもしれない。
――とまあ、そんなこともありつつ、町のどこに行っても今日のレイのテンションは高かった。
武器屋も防具屋も、花屋でも薬屋でも雑貨屋でも、レイは本当に嬉しそうに目を輝かせていた。
あまりにもレイが町ではしゃぐものだから、随分と田舎出身なのか、それともずっとダンジョンの中にいたのか不思議に思って尋ねてみると、想像を飛び越えた答えが戻って来た。
俺がどういうこと??と驚いていると、シルフィが隣で言った。
「この男……〝流れ人〟なんだわ。どうりでなんか常識がおかしいと思ったのよ」
「いや? なんか1ヶ月ちょっと前に、突然あそこで目が覚めた。それまでは違う世界にいた」
レンベルグには小高い丘があって、そこからレイと一緒に町を見渡していた。
青々とした新緑の木々の間を、爽やかな5月の風が通り抜けていった。
オリバーは食料の買い出しに行っている。
レイはパン屋にも行きたがっていたが、「冒険者の男3人で買い出しに行くのはちょっと……」と、オリバーに断られていた。
しばらくここで休憩をしているとこで、レイは屋台で買った薄いパンのような生地に、鶏肉と野菜を巻いたものを食べていた。あの細い体のどこにそんなに食べ物が入るのか、不思議だ。「マヨネーズが欲しいなあ」とまた知らない言葉をぼやいていた。
ここで休憩する前は、たまにダンジョンで顔を合わせるイザベラ・ビアズリー嬢の家を訪ねた。
訪ねた……と言っても、実際に邸宅にお邪魔したわけではなく、商会の隣で最近彼女が営んでいるという布を扱う店を見に行った。
ダンジョンで採れた素材を利用して、新しいタイプの肌着や衣料品を開発しているのだとか。
数週間前からはじめた商売だと言ってたが、もうすでに『ビアズリーアンダーウェア』『ビアズリーシャツ』『ビアズリーコットン』などと呼ばれ、町の中では大人気で、ほかの街からも商人が買いつけに来るらしい。
レンベルグは辺境の町だが、この噂が王都に届くのも時間の問題かもしれない。
その素材を生み出すモンスターも、レイが改良したというのだから驚きだ。彼がいつも着てる『パーカ』というものや『スウェット』というものも、考案したらしい。
彼女には非常にお世話になっていて、レイの騎士になると言ったら、嬉々として黒い騎士服を作り上げてくれた。
黒は、基本的にこの国では忌避される色だが、レイの騎士だというのならたしかに黒が似合うような気がした。
今日は冒険者の出立ちでいるし、外に出るときは紺色の騎士服を着ているが、ダンジョンでは黒い服を着ている。
イザベラ嬢のお店で、レイがいろんな布を手にしながら、「今度えろい下着も作ってよ」と言い出したのにはびっくりしたが、イザベラ嬢はご令嬢なのに興味津々でレイの話を聞いていた。
2人で『透け感』だとか『紐』だとか『レース』『革』『パール』『Tバック』だとかわけのわからない談義が延々と続き、俺は真っ赤になったまま聞いていた。「まあ!」とか「あら!」とか感嘆の声はあがるのに、まったく恥じらう様子のないイザベラ嬢も、やっぱりおかしい。
確かにレイからもらった下着は、伸縮性があって動きやすく、通気性もあってすごく快適。
だけど、なんでわざわざえろい下着を作る必要があるんだ?? と思い、イザベラ嬢が席を外した際に聞いてみたら、レイは悪びれもせず言い切った。
「だってあんなかっちりした騎士服の下に、卑猥な下着つけてたら燃える」
「………………」
シルフィが横で「変態だわ。真性の変態なのだわ」と、きゃーきゃー騒ぎながら、飛びまわっていた。
俺もそう思った。
レイの周りに騎士は俺しかいないんだから、必然的にレイを悦ばせる役割は俺がすることになるんだろうなと、俺は死んだ魚のような目になった。
その欲望のために、わざわざ新しく下着を考案する感覚は……まったく理解できない。でも、商家の娘である、イザベラ嬢の反応を見るに、もしかしたら需要があるのかもしれない。
――とまあ、そんなこともありつつ、町のどこに行っても今日のレイのテンションは高かった。
武器屋も防具屋も、花屋でも薬屋でも雑貨屋でも、レイは本当に嬉しそうに目を輝かせていた。
あまりにもレイが町ではしゃぐものだから、随分と田舎出身なのか、それともずっとダンジョンの中にいたのか不思議に思って尋ねてみると、想像を飛び越えた答えが戻って来た。
俺がどういうこと??と驚いていると、シルフィが隣で言った。
「この男……〝流れ人〟なんだわ。どうりでなんか常識がおかしいと思ったのよ」
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