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1-2 騎士団員フェルト
32 町に行こう・前
しおりを挟む「これが――、町!!!」
俺は目をキラキラさせて、その町の様子と歩く人々を見ていた。
隣ではオリバーとフェルトが、子どもでも見るように、にこにことしていた。
その日、俺はついに、下界デビューを果たした。
(ダンジョンのほうがよっぽど地下)
今朝、俺は珍しく、朝早くに目を覚ました。
なにしろ、この世界で突然目が覚めてから、近所の森以外ははじめて外に出る予定だったからだ。
15分くらい歩いたところに、アッカ村という小さな村があり、そこから30分くらい歩いた場所にレンベルグというそこそこひらけた町がある。オリバーやベラはそこの出身だ。
ちなみに、ザイーグ王国の王都はファシオンという都市で、レンベルグからは馬車で2週間かかるらしい。
実は俺のダンジョンのある森の向こうは、隣国との国境があるって話だ。
俺の顔が目立つことは知っているので、茶色の髪、茶色の瞳に変化させ、顔の造形も少し変えた。
オリバーを参考にしたので、なんかオリバーの弟みたいになった。見慣れない顔なので、前髪で顔があまり見えないように隠している。
あまりひょろいのもなめられると思い、体も少しがっしりとさせた。
せっかくの町だから、女にでもなってベラと歩いてみようかとも思ったが、今回は冒険者ギルドに用事があったのでやめた。
なんつーか、かわいい女に変装してベラと2人で事件に巻き込まれる、というフラグを俺の『勘』が察知した。
まあ、当たり前だが。
フェルトとオリバーも身バレするとまずい身分なので、フェルトは髪と目を茶色にした上で、オリバー同様、顔を少し変えた。
服装は3人とも、冒険者から拝借したものを身につけているので、3人の冒険者パーティに見える。
「おい、坊主! 田舎から出てきたのかしらないが、あんまりきょろきょろしてるとスられるぞ」
気のよさそうなオヤジが、がははと笑いながら教えてくれた。ありがと! という意味で手をあげると、「気をつけろよ!」と去って行った。いいオヤジだ。
「レイ、こっちがレンベルグの冒険者ギルドだ」
〝冒険者登録〟という異世界ならではなイベントが今日の目玉で、あとはダンジョンの情報収集と「町のごはんを食べたい」っていう俺の希望もある。
こっそりベラんちも見に行くつもりだ。
かなり気になっていた例の孤児院は、冒険者の格好で行くと目立つので今回はなし。
オリバーの話では、冒険者登録は名前と年だけを記入し、ランクが表示されるカードをもらうらしい。ステータスが開示されるような機能はないらしく、登録しても問題はないっぽい。
今後必要になることもあるかも?ということで、フェルトは『フィル』、オリバーは『オレヴ』という偽名で登録するつもりだ。
俺は普通にそのままで『レイ』
レンベルグの冒険者ギルドは、そこそこにぎわっていた。
ログハウスのような木造の建物の扉を開けると、正面には登録するらしきカウンターがあり、左側に飲み屋?のようなスペース、右側には素材を買い取る店のようなものがあった。むわっと土くさい匂いがして、「あ、なんか冒険する人の匂いだ」とか思った。
飲食スペースでは、頭ほどの大きさのあるジョッキになみなみ注がれたエールを、冒険者たちがあおっていた。店員がちょうど横を通りすぎ、ちょっと焦げ目のついたでかいソーセージの香りがして、よだれが出た。
「登録お願いします」
「3名様みなさん初めての登録ですか?」
カウンターは女性と男性と5人ほどの職員が並んでおり、どこも数人の列ができていた。
「街」ではなく「町」だから、それほどの規模はないと思っていたが、思っていたよりも、レンベルグは大きな町みたいだ。
名前を記入し、血をたらして、契約完了となった。血をたらすのは、本人認証らしい。
職業柄、フェルトとオリバーも登録したことがなかったようで、よかった。今まで一度でも登録したことがあれば、名前を詐称していることがバレてしまうらしい。
俺に『血』があるのか、その血は何色なのかと恐れていたが、よく考えたら、こないだ『奴隷騎士』事件のときに鼻血吹いたら赤かったし、実験に明け暮れていたときも赤かったことを思い出した。
あと、普通に血出た。不思議な体だ。
ランクはFから始まって、Aまで上がった後は、S、SS、というランクがある。
SSは国内で3人しかいないらしい。当たり前だが、俺たちは3人ともFランクだ。
無事に登録を終え、ギルドを出た。
ひょろいままの姿で行けば、なんかイカついかんじのくすぶってる冒険者に、「お前みたいなひょろいのが~(以下略)」というケンカを売られるフラグが立ちそうな気がしたので、そこそこがっしりした体型にしておいて正解だったのだろう。フェルトが横にいたのも大きい。
「飯! 飯を食おう!」
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