引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-2 騎士団員フェルト

31 フェルトと精霊王(フェルト視点)・後

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 この調査が終わったあと、俺の『昇進』は目前だった。
 でも、それは俺の実力が認められたからなのか? と問われれば、それは違うと思う。
 
 なぜかこの国の第二王女に指名され、近衛として城にあがることになっていたのだ。
 
 だいたいが貴族の子弟でそろえられている近衛兵の中に、平民が入るのは異例のことで、貴族からの反発もすごかった。シルフィはなんか執念みたいないやらしさを感じる……だなんて精霊っぽくないことを言って、すごく嫌そうな顔をしてた。
 俺も内勤ばっかりの近衛になるより、普通に第二騎士団で団長の元、みんなと一緒に戦っていたかった。

 でも俺が断れるような案件じゃないし、そもそも王女様の指名だ。逆にじゃあ辞めちゃいます、ていう選択肢すらなかった。
 断ったら、物理的に首が飛んだだろう。
 だからこのタイミングで先輩たちともども、『死んだ』扱いになるのは好都合なのだ。

「でしょ? それにシルフィだって、別にレイのこと嫌いじゃなさそうじゃない」
「なッ! なに言ってんのよ!!! あいつ……私の姿見えてないくせに、勘が働くのかなんか知らないけど『……蠅?』って言ったのよ?!」

 ぷりぷり怒っているシルフィを見て、俺はくすっと笑ってしまう。

 ――レイは不思議だ。
 本当に極悪非道で、冷酷で、自己中で、変態なくせに、なぜか憎めないところがある。あとやっぱり、アンバランスだと感じるとこがあって……正直なところ、気になる。
 どんな人生をたどれば、18才であんな人間に育つんだろう。
 一緒にいる時間が長くなるほど、もっとレイのことを知りたい……とか思っちゃってることに気がつく。

『奴隷』なんて言葉が出て一時はどうなるかと思ったけど、あんなことがあったわりに、関係は悪くないのだ。
 ――シルフィはぶちギレてた。
 俺が奴隷になると、シルフィまで洗脳状態になっちゃうらしい。
 それは知らなかった。危なかった。
 
 オリバーも言っていたがレイは〝 仕事相手には手を出さない主義〟らしい。
 理由は「面倒だから」……だそうだ。
 現にあのあとは、一切なにもされてないし、まあ……俺も男だし、犬に噛まれたとでも思って諦めた。
 うっかり、その……き、気持ちよくなってしまった記憶は、封印した! たまにレイが意味深に微笑んでいるときがあって、いたたまれない気持ちにもなるけど。

「王族の犬になるよりはいいわよ! ていうかあのくそ最低な国で働くよりいいっていうことよ! レイのほうがってだけなの!」

 そう。シルフィの言う通り、ザイーグ王国はちょっと最近――やばい。
 働いてて思ってたけど、本当に王族貴族が腐っていて、政治が成り立たなくなってきてる。民にも不安が広がっているのに、上は知らん顔だ。
 ほんと、どうなっちゃうんだろ。

「なら、まあいいじゃない。ちょっと様子見てみようよ」
「わかったわよ」

 俺はレイのことを思い浮かべる。

 美しい顔、あの細い首、女の子みたいな手。
 別に女っぽいとかそういうんじゃないけど、いつもだぼっとした服を着ているせいか、余計華奢に見える。
 騎士団にいたときは俺も細身なほうだと思ってたけど、レイは筋肉なんてあるのか? ていうかんじだ。まあ、別にないってわけじゃないんだけど、ただ本人も気にしているらしく『筋トレ』と言って、筋肉をつけようとしている? みたい。
 俺の鍛錬の方法も聞かれた。護衛が必要っていうのも、なんかわかる。
 多分戦闘は不得手なんだろうし、あの容姿じゃ……町では男にも女にも狙われるだろう。

 あんなきれいな顔じゃ、それこそ人さらいや、素行の悪い奴隷商にも気をつけないと。
 俺は、レイが隷属の首輪をつけられ、檻に入れられるのを想像して、俺はブンブンと首を横に振った。

 だめだ。そんなこと絶対にさせない。
 目を離さないように、ほんとに気をつけないと。

 じーっと見られているような視線を感じ、シルフィのほうを向く。


「なに?」
「べーつーにー。誰のこと考えてんだか」
「な、なんだよ」
「なにも言ってないのよ!」


 そう言ってシルフィはぷいっと横を向くと、俺の部屋の隅にある、のほうに飛んでいった。
「精霊って居心地のいい場所とかあんの?」とレイに聞かれ「森?」と答えたら、フェルトの部屋の一角に、シルフィが好きなそうな植物をたくさん配置してくれた。
 土壁だったところから直接生えており、そこだけが小さな森のような、かわいい雰囲気になっている。

 大小様々な植物に囲まれた、そのまんなかには、寝椅子がひとつある。
 細工の美しい木枠の上に、きれいな薄緑の織物が張られていて、その中身は綿?よりもずっとやわらかい不思議な質感で、シルフィはいたく気にいっていた。
 その上に、同じような質感の、やわらかで、きれいなクッションが数個置かれている。
 さながら『精霊王が昼寝』するのに、ちょうどよさそうな設え。

 土壁がむき出しになっている(といっても土は見えないくらい植物に囲まれてるけど)のは、シルフィの小さな森がある一面だけで、あとは家の壁のような白い漆喰になっている。
 一体どういう仕組みなのかわかんないけど、俺の部屋は、白と目に優しい緑、あと木で統一されていてかなり過ごしやすい。

 俺のことを「ちょろい」だの「お人好し」だのぎゃーぎゃー言うわりに、シルフィだってすっかり懐柔されている。
 レイはそういうとこがすごい。


 ま、とにかく、そんなこんなで……俺はレイの護衛になったわけだ。
 今後のことはまだわからない。
 でも、しばらくはレイのことを知ってみようと思ってる。

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