31 / 119
1-2 騎士団員フェルト
31 フェルトと精霊王(フェルト視点)・後
しおりを挟むこの調査が終わったあと、俺の『昇進』は目前だった。
でも、それは俺の実力が認められたからなのか? と問われれば、それは違うと思う。
なぜかこの国の第二王女に指名され、近衛として城にあがることになっていたのだ。
だいたいが貴族の子弟でそろえられている近衛兵の中に、平民が入るのは異例のことで、貴族からの反発もすごかった。シルフィはなんか執念みたいないやらしさを感じる……だなんて精霊っぽくないことを言って、すごく嫌そうな顔をしてた。
俺も内勤ばっかりの近衛になるより、普通に第二騎士団で団長の元、みんなと一緒に戦っていたかった。
でも俺が断れるような案件じゃないし、そもそも王女様の指名だ。逆にじゃあ辞めちゃいます、ていう選択肢すらなかった。
断ったら、物理的に首が飛んだだろう。
だからこのタイミングで先輩たちともども、『死んだ』扱いになるのは好都合なのだ。
「でしょ? それにシルフィだって、別にレイのこと嫌いじゃなさそうじゃない」
「なッ! なに言ってんのよ!!! あいつ……私の姿見えてないくせに、勘が働くのかなんか知らないけど『……蠅?』って言ったのよ?!」
ぷりぷり怒っているシルフィを見て、俺はくすっと笑ってしまう。
――レイは不思議だ。
本当に極悪非道で、冷酷で、自己中で、変態なくせに、なぜか憎めないところがある。あとやっぱり、アンバランスだと感じるとこがあって……正直なところ、気になる。
どんな人生をたどれば、18才であんな人間に育つんだろう。
一緒にいる時間が長くなるほど、もっとレイのことを知りたい……とか思っちゃってることに気がつく。
『奴隷』なんて言葉が出て一時はどうなるかと思ったけど、あんなことがあったわりに、関係は悪くないのだ。
――シルフィはぶちギレてた。
俺が奴隷になると、シルフィまで洗脳状態になっちゃうらしい。
それは知らなかった。危なかった。
オリバーも言っていたがレイは〝 仕事相手には手を出さない主義〟らしい。
理由は「面倒だから」……だそうだ。
現にあのあとは、一切なにもされてないし、まあ……俺も男だし、犬に噛まれたとでも思って諦めた。
うっかり、その……き、気持ちよくなってしまった記憶は、封印した! たまにレイが意味深に微笑んでいるときがあって、いたたまれない気持ちにもなるけど。
「王族の犬になるよりはいいわよ! ていうかあのくそ最低な国で働くよりいいっていうことよ! レイのほうがましってだけなの!」
そう。シルフィの言う通り、ザイーグ王国はちょっと最近――やばい。
働いてて思ってたけど、本当に王族貴族が腐っていて、政治が成り立たなくなってきてる。民にも不安が広がっているのに、上は知らん顔だ。
ほんと、どうなっちゃうんだろ。
「なら、まあいいじゃない。ちょっと様子見てみようよ」
「わかったわよ」
俺はレイのことを思い浮かべる。
美しい顔、あの細い首、女の子みたいな手。
別に女っぽいとかそういうんじゃないけど、いつもだぼっとした服を着ているせいか、余計華奢に見える。
騎士団にいたときは俺も細身なほうだと思ってたけど、レイは筋肉なんてあるのか? ていうかんじだ。まあ、別にないってわけじゃないんだけど、ただ本人も気にしているらしく『筋トレ』と言って、筋肉をつけようとしている? みたい。
俺の鍛錬の方法も聞かれた。護衛が必要っていうのも、なんかわかる。
多分戦闘は不得手なんだろうし、あの容姿じゃ……町では男にも女にも狙われるだろう。
あんなきれいな顔じゃ、それこそ人さらいや、素行の悪い奴隷商にも気をつけないと。
俺は、レイが隷属の首輪をつけられ、檻に入れられるのを想像して、俺はブンブンと首を横に振った。
だめだ。そんなこと絶対にさせない。
目を離さないように、ほんとに気をつけないと。
じーっと見られているような視線を感じ、シルフィのほうを向く。
「なに?」
「べーつーにー。誰のこと考えてんだか」
「な、なんだよ」
「なにも言ってないのよ!」
そう言ってシルフィはぷいっと横を向くと、俺の部屋の隅にある、シルフィの森のほうに飛んでいった。
「精霊って居心地のいい場所とかあんの?」とレイに聞かれ「森?」と答えたら、フェルトの部屋の一角に、シルフィが好きなそうな植物をたくさん配置してくれた。
土壁だったところから直接生えており、そこだけが小さな森のような、かわいい雰囲気になっている。
大小様々な植物に囲まれた、そのまんなかには、寝椅子がひとつある。
細工の美しい木枠の上に、きれいな薄緑の織物が張られていて、その中身は綿?よりもずっとやわらかい不思議な質感で、シルフィはいたく気にいっていた。
その上に、同じような質感の、やわらかで、きれいなクッションが数個置かれている。
さながら『精霊王が昼寝』するのに、ちょうどよさそうな設え。
土壁がむき出しになっている(といっても土は見えないくらい植物に囲まれてるけど)のは、シルフィの小さな森がある一面だけで、あとは家の壁のような白い漆喰になっている。
一体どういう仕組みなのかわかんないけど、俺の部屋は、白と目に優しい緑、あと木で統一されていてかなり過ごしやすい。
俺のことを「ちょろい」だの「お人好し」だのぎゃーぎゃー言うわりに、シルフィだってすっかり懐柔されている。
レイはそういうとこがすごい。
ま、とにかく、そんなこんなで……俺はレイの護衛になったわけだ。
今後のことはまだわからない。
でも、しばらくはレイのことを知ってみようと思ってる。
95
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ!
お気に入りに追加
816
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい
パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け
★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion
更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です
X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる