引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-2 騎士団員フェルト

23 得体の知れないもの(フェルト視点)・前 ※

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※※フェルト視点です(別にそういうシーンがいつも受け視点なわけではないです)




「あれ?」

 ――と、口にしてから、俺はハッと身を固くした。
 目隠しをされているのか……視界がなにかに遮られている。状況がわからない。
 ひやりとした感覚から、自分が全裸であることがわかる。後ろ手に金属の枷を嵌められ、床に膝立ちのような状態で拘束されているようだ。足をそろりと動かしてみると、足にもなにか金属の感触がした。
 
 ――目の前に何者かの気配。
 
 人間……ではない? ような雰囲気がある。

 魔力を右手に溜めようとしてみると、スンッと力が抜けてしまう。いつもは周りにまとわりついてくる精霊の気配も……今は感じられない。
 相手が何者かわからない以上、こちらから精霊に話しかけるわけにもいかない。

(やばい、困った……)

 恐ろしく強いゴブリンの個体と戦ったあと、意識が途切れた。
 先輩たちは無事だろうか。怪我は悪化していないだろうか。
 まだまだ道半ばとは思ってたけど……まさか俺がダンジョンの第一階層で負けるなんて信じられない。

(はあー、未熟だ……)

 あのダンジョンに一歩足を踏み入れたときから、何者かの手のひらの上で転がされているような嫌な予感がした。妙に手応えのあるゴブリンが出てきて、徐々に息があがってきたとき、その予感が確信に変わった。
 それが天然のものなのか……あるいはなにかの作為が働いているのかはわからないが、このダンジョンはまるで狡猾な軍師でも相手にしているかのようだった。

 しかし、これはどういう状況だ?
 生きているのがいいことなのか悪いことなのかも、区別がつかない。

 あれだけゴブリンのいたダンジョンだ。
 もしかしたら、また得体のしれないゴブリンが目の前にいるのかもしれない。だけど、俺は女ではないから繁殖には使えないだろう。
 だが、このやたら手のこんだ拘束はなんだ?? ゴブリンが目隠しをするなんて聞いたことない。
 これから拷問でもされるのだろうか。

(――……でも、なんのために?)

 魔力や精霊が感じられたら、どうにでもできると思っていたが、正直……怖い。
 今まで慣れ親しんだ感覚がないというのは、こんなにも心細いものなんだな。

 俺はただ身を固くして、相手の出方を窺うしかないのだが……一向に、相手が動く気配はない。
 どうも全身を舐めまわすように見られているような、そんな変な感覚だけがある。
 俺は意を決して、言葉をかけてみることにした。

「誰かわかんないけど、えーと……俺はどうしたらいい?」

 一瞬だけ、空気が震えたような気配。
 だが、返答はない。
 その代わりに、頬を撫でるような感覚があった。それから……ちゅ、と濡れた音が耳元に落とされた。ふわりと優しい匂いがした。
 そのまま熱い舌が首筋を這うように、ゆっくりとなぞり、俺の鎖骨までたどり着くと、再度、まるでキスをするような濡れた音が響いた。
 得体の知れない者からの接触に、体がヒクッと震えた。

 熱い――体温。
 モンスターに体温なんてあるんだろうか。今まで考えたこともなかった。
 
(一体なにが俺の前にいるっていうんだ……!)

 俺の体に触れている手は、先程までの濡れた感覚とは反対に、ひやりと冷たかった。
 あまり大きな手なかんじがしない。
 騎士団の連中みたいにガサガサとして固い手とは違い、まるで女の子の手のようにたおやかだ。両手が俺の頭にまわり、ふわりと撫でまわされた。
 
(はあ?? ……まじで、一体なんだっていうんだ)

 その手が俺の両頬に重なり、なにか温かい物ががゆっくりと近づいてくる。俺の全身から血の気が引いていく。
 
(えッ待って! ……いや、まさか! 頭から食い殺される?! なんか吸い取られるのか?! こ、こええええッ!)
 
 頼む、せめて普通に斬り殺してほしい……!
 俺は目隠しの下でぎゅうッと目をつぶりながら、藁に縋るような気持ちで言うだけ言ってみる。

「ちょっと待ってッ!」

 ビクッと目の前にいた何者かが動きを止める。
 
(え! 止まった! 止まってくれた!? こ、言葉通じてる……??)

 頭の中はパニックだ。もう、なにがなんだかわからない。怖くて、怖くて仕方なくてとにかくなにかを伝えなくてはと、涙目のまま震える声を絞り出した。

「な、なにがいるのかわかんないけど……頼む! 食うなら殺してからにしてもらえない? それか一気に、だと、う、嬉しい……」

 ――沈黙。
 相手は俺と会話する気はないのか、答えない。
 俺の胸がドクドクとすごい速さで血液を送り出す。どうなんだ、殺されるのか、なんなんだ! と怯えきっていた次の瞬間、とんでもないところに刺激を感じた。


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