引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-2 騎士団員フェルト

17 フェルト・前

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「――――……ん?」


 俺は今、自室で、ダンジョンの入り口が映されたスクリーンを、食い入るように見つめていた。
 青い騎士の制服に身を包んだ男が3人。ダンジョンの入り口で楽しそうに話をしているところだった。

『えッ……お前、女と付き合ったことないの? そのツラで?』

 20代後半に見える、クレメンスと呼ばれていたこげ茶髪の男が、童顔のふんわりとした雰囲気の男に言った。
 オリバーが「この国、ザイーグ王国の騎士団ですよ」と教えてくれた。確認した人数は、全部で5人。今、ほかの2人は少し離れたところにいて、俺のスクリーンでは目視できない。
 ――まだ朝9時。
 彼らの後ろには、爽やかな風が感じられそうな、森の美しい緑が広がっているのが見える。3人は洞窟の岩肌に腰を下し、他の2人を待っているようだ。

『なんですかそのツラって。普通ですよ!』

 さきほどの、童顔の男がちょっとむっとした様子で言い返す。
 年は俺よりも少し上だろうか。瞳が、ベラとはまた違う葉っぱの緑のような色をしており、ふわっとした猫っ毛の薄茶色の髪が、その優しげな彼の印象を惹き立てている。

『こんな人畜無害な顔しといて、飛びぬけて強い騎士様、将来有望』

 彼の反対側に座っていた、ジョーと呼ばれていた茶色の短髪の兄貴っぽい雰囲気の男が、肩をあげながらおどけるように言った。
 たしかに、顔はきれいに整っているし、目鼻立ちもはっきりしていて、キラキラ系の爽やかな男前だが『かっこいい』と敬遠されるタイプではなく、大らかな雰囲気だ。
 俺みたいに冷たい印象とか、近寄りがたいとか、そんなことを言われる顔立ちとはまったく違う。
 人好きのする顔だと思う。

『フェルトは年上とかにかわいがられてそうだよなー』
『あー確かに、女たちがかわいいかわいいってよく言ってんな。でも、フェルトちゃんはいつか白馬の馬車に乗って、理想のお姫様が現れるのを夢みてんだよ』
『ちょっと! ジョー先輩! 俺、別にそんなの待ってませんからね!』

 童顔の男、――『フェルト』は少し耳を赤くしながら、拗ねたような口調だ。
 そういう反応をしてしまうのが相手を図に乗らせるんだよなと、俺は思う。

『だいたい、女の子と付き合ってる時間なんて、ほんとにないんですよ。忙しくて』
『お前ほんとに、騎士団バカだもんな。鍛錬ばっかして、団長の雑用やって』
『結果、俺らよりこいつのほうが先に昇進とか。くそー! フェルトのくせにー!』
『ちょ! 先輩やめてってばー! わあああ』

 ジョーが、フェルトの柔らかそうな髪の毛を、わしゃわしゃとかきまぜ、フェルトは慌てていた。
「鍛錬ばっかりかー真面目なんだなあ」と俺は独り言を言った。
『フェルトちゃん』なんて言われてからかわれてはいるが、決して少女のような容貌なわけではない。身長だって180くらいありそうだ。体つきだって細身ではあるが、しっかり筋肉がついているのが服の上からでも見てとれる。そもそも騎士で、ひょろひょろということはないだろ。

「おーいー。お前らふざけてないで、ラムレイのやつどうにかしてくれよーまじで」

 少し先の茂みのほうから、青い髪の男が声をかけながら、気だるそうな様子でこちらに向かってやってきた。がっしりとした体躯、騎士というよりは、パワーファイターのようなかんじだ。
 はあ……とため息を吐く。その眉間には深い皺が刻まれていた。

『ブライアン先輩。ふ、ふざけてませんよ! ふざけてるのはジョー先輩だけですから』

 フェルトを見てちょっと落ち着いたのか、青髪――ブライアンは、ふっと表情を和らげる。「お前どうしたの? 頭」と問われると、むすっとしながらフェルトは髪の毛を撫でつけた。

『おーブライアン、終わったのか。それでラムレイがなに? 方針決まったの?』
『ラムレイのやつ、『私がいるのです! 平民は黙ってついて来ればいい』って聞く耳もたねーよ』
『あいつが……これがただの『調査』であって『討伐』じゃないって、ちゃんと理解してればいいんだけど』
『まじかよー 俺ら死ぬかな』
『まあ、まだ瘴気が漏れだしてから日が経ってないから、大丈夫だとは思いたいけど。このダンジョンがやばかったら、そりゃ、やばいだろうな』
『冒険者たちもかなり失踪してるみたいだしなー』

 フェルトはおろおろとした様子で話を聞いていたが、『先輩』と呼ばれていた奴らのテンションが目に見えて落ちていく。今スクリーンに映っていないもう1人の男は、どうやら協調性のない厄介な奴のようだ。
 そんなやつ、1人で好きにさせとけばいいと思うのだが、そうもいかないらしい。

『あーあ、お守りなんてついてねー。あいつが死んだら、俺らも責任とらされんだろーなー』
『はー あいつが怪我しただけでも、罪人扱いされそうだ』
『おいフェルト、昇進の前に残念だったな!』
『昇進よりあれだろ、おいフェルト! 童貞のまま死ぬなんてことになったら、死んでも死に切れないぞ?』
『だ、大丈夫ですよ! 先輩たちのことは、俺が……ま、守りますから!』
『『『ぶっっっ』』』
『ホントいい子だよな~フェルト。バカっていうか、バカっていうか』
『バカだろ。女に言え』
『えー!』
『あ~ まじ、みんなで帰りたいなー』

 あははと笑いあう彼らは、本当に仲がよさそうだ。
 先輩たちと肩を寄せ合い、少し照れたように、嬉しそうに笑っていた。その顔を見たら――
 

 きゅううううううん

 
 ――と、俺の胸がおかしな動作をした。胸に異常なまでの不整脈を感じた。


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