引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
17 / 119
1-2 騎士団員フェルト

17 フェルト・前

しおりを挟む

「――――……ん?」


 俺は今、自室で、ダンジョンの入り口が映されたスクリーンを、食い入るように見つめていた。
 青い騎士の制服に身を包んだ男が3人。ダンジョンの入り口で楽しそうに話をしているところだった。

『えッ……お前、女と付き合ったことないの? そのツラで?』

 20代後半に見える、クレメンスと呼ばれていたこげ茶髪の男が、童顔のふんわりとした雰囲気の男に言った。
 オリバーが「この国、ザイーグ王国の騎士団ですよ」と教えてくれた。確認した人数は、全部で5人。今、ほかの2人は少し離れたところにいて、俺のスクリーンでは目視できない。
 ――まだ朝9時。
 彼らの後ろには、爽やかな風が感じられそうな、森の美しい緑が広がっているのが見える。3人は洞窟の岩肌に腰を下し、他の2人を待っているようだ。

『なんですかそのツラって。普通ですよ!』

 さきほどの、童顔の男がちょっとむっとした様子で言い返す。
 年は俺よりも少し上だろうか。瞳が、ベラとはまた違う葉っぱの緑のような色をしており、ふわっとした猫っ毛の薄茶色の髪が、その優しげな彼の印象を惹き立てている。

『こんな人畜無害な顔しといて、飛びぬけて強い騎士様、将来有望』

 彼の反対側に座っていた、ジョーと呼ばれていた茶色の短髪の兄貴っぽい雰囲気の男が、肩をあげながらおどけるように言った。
 たしかに、顔はきれいに整っているし、目鼻立ちもはっきりしていて、キラキラ系の爽やかな男前だが『かっこいい』と敬遠されるタイプではなく、大らかな雰囲気だ。
 俺みたいに冷たい印象とか、近寄りがたいとか、そんなことを言われる顔立ちとはまったく違う。
 人好きのする顔だと思う。

『フェルトは年上とかにかわいがられてそうだよなー』
『あー確かに、女たちがかわいいかわいいってよく言ってんな。でも、フェルトちゃんはいつか白馬の馬車に乗って、理想のお姫様が現れるのを夢みてんだよ』
『ちょっと! ジョー先輩! 俺、別にそんなの待ってませんからね!』

 童顔の男、――『フェルト』は少し耳を赤くしながら、拗ねたような口調だ。
 そういう反応をしてしまうのが相手を図に乗らせるんだよなと、俺は思う。

『だいたい、女の子と付き合ってる時間なんて、ほんとにないんですよ。忙しくて』
『お前ほんとに、騎士団バカだもんな。鍛錬ばっかして、団長の雑用やって』
『結果、俺らよりこいつのほうが先に昇進とか。くそー! フェルトのくせにー!』
『ちょ! 先輩やめてってばー! わあああ』

 ジョーが、フェルトの柔らかそうな髪の毛を、わしゃわしゃとかきまぜ、フェルトは慌てていた。
「鍛錬ばっかりかー真面目なんだなあ」と俺は独り言を言った。
『フェルトちゃん』なんて言われてからかわれてはいるが、決して少女のような容貌なわけではない。身長だって180くらいありそうだ。体つきだって細身ではあるが、しっかり筋肉がついているのが服の上からでも見てとれる。そもそも騎士で、ひょろひょろということはないだろ。

「おーいー。お前らふざけてないで、ラムレイのやつどうにかしてくれよーまじで」

 少し先の茂みのほうから、青い髪の男が声をかけながら、気だるそうな様子でこちらに向かってやってきた。がっしりとした体躯、騎士というよりは、パワーファイターのようなかんじだ。
 はあ……とため息を吐く。その眉間には深い皺が刻まれていた。

『ブライアン先輩。ふ、ふざけてませんよ! ふざけてるのはジョー先輩だけですから』

 フェルトを見てちょっと落ち着いたのか、青髪――ブライアンは、ふっと表情を和らげる。「お前どうしたの? 頭」と問われると、むすっとしながらフェルトは髪の毛を撫でつけた。

『おーブライアン、終わったのか。それでラムレイがなに? 方針決まったの?』
『ラムレイのやつ、『私がいるのです! 平民は黙ってついて来ればいい』って聞く耳もたねーよ』
『あいつが……これがただの『調査』であって『討伐』じゃないって、ちゃんと理解してればいいんだけど』
『まじかよー 俺ら死ぬかな』
『まあ、まだ瘴気が漏れだしてから日が経ってないから、大丈夫だとは思いたいけど。このダンジョンがやばかったら、そりゃ、やばいだろうな』
『冒険者たちもかなり失踪してるみたいだしなー』

 フェルトはおろおろとした様子で話を聞いていたが、『先輩』と呼ばれていた奴らのテンションが目に見えて落ちていく。今スクリーンに映っていないもう1人の男は、どうやら協調性のない厄介な奴のようだ。
 そんなやつ、1人で好きにさせとけばいいと思うのだが、そうもいかないらしい。

『あーあ、お守りなんてついてねー。あいつが死んだら、俺らも責任とらされんだろーなー』
『はー あいつが怪我しただけでも、罪人扱いされそうだ』
『おいフェルト、昇進の前に残念だったな!』
『昇進よりあれだろ、おいフェルト! 童貞のまま死ぬなんてことになったら、死んでも死に切れないぞ?』
『だ、大丈夫ですよ! 先輩たちのことは、俺が……ま、守りますから!』
『『『ぶっっっ』』』
『ホントいい子だよな~フェルト。バカっていうか、バカっていうか』
『バカだろ。女に言え』
『えー!』
『あ~ まじ、みんなで帰りたいなー』

 あははと笑いあう彼らは、本当に仲がよさそうだ。
 先輩たちと肩を寄せ合い、少し照れたように、嬉しそうに笑っていた。その顔を見たら――
 

 きゅううううううん

 
 ――と、俺の胸がおかしな動作をした。胸に異常なまでの不整脈を感じた。


しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ!
感想 31

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい

パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け ★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

処理中です...