引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️4/30新刊

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1-1 異世界での目覚め

04 第1村人とオリバー

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「おお、侵入者だ」


 ついに、俺のダンジョンも〝 ダンジョンデビュー〟を果たす日がきたようだ。
 あれからモンスターの生態実験および品種改良も進み、レベル1のダンジョンにしてはかなり作りこまれたんじゃなかろうか。俺の予想通り、ダンジョンはやっぱり『生物』であり、壁を『改造』しながら、迷路のような道やトラップを作るのは簡単だった。
 だからこその俺の『固有魔法』だったのかと合点がいった。俺は違うことに使う気持ちでいっぱいだけど。

 ちなみに、俺がいた土壁の部屋は存在自体がかなりチートだった。
 時間の概念がないみたいだと思ってはいたが、俺が外に出たら終わりだと勝手に解釈していた。なんていうか、チュートリアル特典みたいな位置づけだと思ってた。だけど、あの部屋は基本的に『時間』という摂理から切り離されていて、扉を閉めてしまえば時間が経たない。

 なんで気づいたかというと、扉を閉じたときに後ろにいたゴブリンたちが、次に扉を開けたときに、まったく同じ場所で同じポーズをしていたからだ。あと、似たような部屋をアニメで見たことがあったからだ。で、結局、強敵が現れたけど時間がないよ! どうしよう! なときに、修行をするために用意された特別な部屋だという見解に至った。

 本だけ用意して放置かよ、とか言ったことを宝石さんに謝った。以後、敬意を払い、宝石と呼ぶようにしている。本来は魔石だが、宝石みたいなので、そう呼んでいる。宝石さんとは運命共同体であり、ある意味、自分の内臓に敬意を払っているようなもので、ちょっと飴に『ちゃん』をつけるおばさんみたいなかんじもするが、まあ……気持ちの問題だ。

 ということで、ひたすらあの部屋でモンスターたちの生体実験と、ダンジョン改造に勤しんでいたわけだった。
 ただ、生体改造の魔法で隣に新しく部屋を作り、でかいベッドを設置した。
 宝石さんの部屋にいれば寝る必要もないが、俺も元は人間である。いくら疲れないからといって、気分的に横になりたいときもあるし、昼寝したいような気がするときもある。
 実は宝石さんの部屋以外では『時間の経たない』効力はないらしく、ほかの部屋では時が流れる。
 なので、休みたいときこそ宝石さんの部屋で寝れば時間が経たないとも思うのだが、モンスターたちの様子も知りたいし、作業に集中していないときくらいはこの世界の時間の中にありたいなと思ったのだった。

 そのときも、作業を中断し、昼寝でもしようかと宝石さんの部屋を出て、ベッドに転がった瞬間だった。


 ピンポーン


 という、どうも機械的な音がして、ステータスを表示させたときのように、ブォンと目の前にスクリーンが現れた。どうやら宝石さんが気をきかせて、侵入者を教えてくれたらしい。心臓部の防衛本能ようなものなんだろうか。ありがたい、――が。

「玄関のチャイムかよ」

 それにしても……どういうわけだか今回は宝石さんのおかげで助かったが、重大なミスを犯していたことに気がついた。今まで誰も来なかったし、そもそも宝石さんの部屋にいたからうっかりしてたけど、今後はダンジョンの壁に目の機能をつけて、あとで監視カメラ代わりにしようとメモを取る。

 ベッドの部屋にでかい机と座り心地の良さそうな椅子を生成した。
 元の素材は土壁だが、改造して好みのものに変えることができるのだ。自分の体内ダンジョンを改造しているだけだが、1番チートなのはこの土壁かもしれないと思っている。なので、宝石さん同様に、なんとなく……土壁と呼んでいる。

 スクリーンには、村人っぽいかんじの人間が映し出されていた。

「おおー。普通に……人間だな。人間いるんだ。よかった」

 男はなぜか不思議そうな顔をして、おそるおそる洞窟の中に足を踏み入れた。
 後ろに映っている森では、どうやら雨が降っているようだった。

(雨宿りか……森にはなにしに来たんだろ)

 男は持っていた荷物をドスンと下し、自分もその隣に座った。これはダンジョンに侵入したというカウントになるんだろうか。よく……わからないなと思いながら、じっと様子を見つめる。

 男は外の雨を眺めながら竹筒のようなものを取り出し、中にある液体と思しきものを口に流し込んだ。ペットボトルでも魔法瓶でもない。文化レベルは低そうだ。いわゆる、勇者が魔王を倒す系の時代背景なんだろうか。着ている服も、見たかんじガサガサの布っぽいし、荷物を入れている袋も麻袋ってかんじだ。

 そのとき――、男の後ろからゴブリンが近づいているのが映し出された。男が、気がつく素振りはない。
 雨の音で足音がかき消されているのかもしれない。まったく警戒していない様子からも、このダンジョンが元からここにあったものではなく、彼はただの洞窟として認識していることも窺えた。

 男の後ろで、ゴブリンがゴツゴツとした大きな木の棒――こん棒を振り下ろした。


「あ」


 …………あっけない幕切れだった。
 彼をどうするつもりなのかはよくわからないが、ゴブリンはそのまま男をずるずると引きずって、ダンジョンの中へと帰っていった。
 俺は自分のステータスを確認してみる。変化はない。流石に村人1人で、ダンジョンのレベルは上がらないようだ。――が、エネルギー……というのだろうか『経験値』的ななにかが体に流れてくるような、不思議な感覚があった。
 人がダンジョン内で死亡すると経験値が入る、ということだろうか。もしもそうだとするならば、もう1つ実験しないといけないことがあるなと、俺はそれもメモをした。

「ふーん。なるほどねー」

 とにかく、次に人が来たらどうにかして捕まえて、実験させてもらおう。
 そう思いながら、俺はまたごろりとベッドに寝転んだ。転がる場所があればいいやと思って、この部屋には今作った机とベッド、もとから宝石さんの部屋にあったライトしかない。剥き出しの土壁を見上げながら、思う。

(そうか……人が来ないと)

 人が来なければ、俺のレベルは上がらない。
 そして、いくらダンジョンを迷路のように改造して作り込んだところで、ちゃんとレベルを上げていなければ、いずれ通りかかったすげえ強い人間にあっけなく殺されるかもしれないということだ。今のうちに少しずつ弱い人間を誘い込み、レベルを上げ、ダンジョンをもっと難解なものにしておく必要がある。

(呼び込みって……どうやって?)

 さっきは村人のようだったが、そもそもダンジョンに行く人間というのはゲームのように『冒険者』ということなんだろうか。ゲームであれば、冒険者はモンスターを倒してレベルを上げたり、宝箱のドロップが目的だと考えられるけど……この世界の知識が少なすぎだった。
 そういう仕組みも書いておいてくれよ……と、恨めしい気持ちで本に目をやってしまう。なんていうか、本当にダンジョンの取説ってかんじで、基本的な構造や仕組みはわかったけど、より良い使い方とかは書かれていないのだ。
 電子レンジの取説にレシピが載っていないっていう状態。

(……うーん。とりあえず仮説を立てて、やってみるしかないか)
 
 そういうときのために宝石さんの部屋があるのかもしれない。考える時間がたっぷりあるのは、ありがたいことだ。
 とにかく、商品を作った後は宣伝ということでいいと思う。だけど、それってさじ加減を間違えるとまずい。意外と難しいぞ……と思いながら、むむっと唇を噛みしめた。
 なんにせよ、次に人間が入ってきた場合は捕縛。いろいろと情報を得る必要もある。

 まずは土壁さんに『目』をつけることからはじめる。
 できるだけ死角がないように計算して目を設置し、ついでに『口』も設置した。これはダンジョン内のモンスターたちと情報を共有するための措置だ。俺はモンスターの言葉はわからないけど、モンスターたちは理解している。
 俺がいなくても彼らは死なないが、彼らがいなければ俺は成り立たない。ならばできるだけ、成功率を上げる必要がある。そのために情報共有は必要だろう。
 しばらくそのまま寝転んで作業に没頭していると――

 ピンポーン

「は? また??」

 俺がスクリーンを見ると、1人の男が映し出されていた。
 背景はもう夕方になったようで、雨もあがっている。こんなに長い時間この部屋にいたことがなかったから、普通に時間が流れていることを不思議に思う。

(…………村、人か? これ)

 見たかんじ、冒険者ってかんじでもない。
 どっちかっていうと普通に町にいそうなかんじだ。服がきれいだから農民や木こりっていうかんじもしない。ひょろっとしていて、力もあまり強くは見えない。なんでこんなとこまで来たんだろう。
 ただし、ここは、魔法……というものがある世界だ。油断は禁物である。
 俺は、コホンと咳払いをすると、さっき設置したばかりの『口』を使って声を上げた。

「みなさんー。人間が1人ダンジョンの近くをうろついていますが、捕まえたいので殺さないでくださいー」

 さっそく『口』が役に立った。
 念のため、品種改良した中で今のところ1番強いであろうモンスターを呼んで、一緒についてきてもらう。
 例のでっかい蜘蛛を改造したモンスターで、今やでかいどころか5メートルくらいある。改造していくうちに、なぜか足が、紫と黒のしましま模様になって、なんだかおしゃれなかんじにまとまっている。意外にも毛並みがよく、ふさふさとしているので、撫でると気持ちがいいのだ。


 ———そして、俺はオリバーげぼくに出会った。


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