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1-1 異世界での目覚め
03 外界を覗いてみた
しおりを挟む「ちんこでかくなれ~」
俺は自分のペニスをなでながら謎の魔法をつぶやいてみるという、実験をしていた。
「あはは、ウケる。でけぇ」
そして、すぐ戻す。別に自分のペニスの大きさに不満はなかった。こんな魔法が日本で使えれば、俺は大儲けできただろうなと思ったら、おかしくなってしまった。
しばらく集中して本を読んでいたが、腹も空かなければ、疲れることもなく、眠くなることもなかった。どうりでベッドが置いてないはずだ。これ幸いと、ひたすら本を読みこみながら、メモを取ったり、これからのダンジョン建設を考えていた。
どうやら、この場所にいる間は時間という概念から切り離されているようなのだ。つまり、ここにいる間だけが、俺の安全が確保された状態で考えをまとめることのできる、唯一の時間というわけだ。
神様も王様も出てこなくてなんの説明もなかった俺は、ただひたすら自分で『生体改造』を試しまくった。
さすがに初っぱなから、自分のペニスに危害が及ぶような実験はしていない。具体的には、髪や爪を伸ばして元に戻す……なんていう簡単なやつから始め、指を増やしてみたり、視力向上など五感の感度を調節してみたり、怪我を治すなんてのも含め、考えつくものはなんでもやった。魔力の消費量とか面倒なことまで小まめにすべて調べた。
怖かったのは、腐敗や毒みたいな状態異常はどういう位置づけになるのかっていう実験だったけど……それも想像以上の成果だった。
大事だったのは「戻す」ということができるのかどうか。
まあ、結果は知っての通り。俺のペニスはちゃんと通常のサイズに戻ってる。
机や椅子など、無機物でも試してみたが変化はなかった。
ただ、――〝 土壁〟は変化をした。
なにをもって『生物』と定義しているのかは不明だが、ダンジョンコアが生物であると定義すれば、この土壁はダンジョンの一部だという仮説が立つ。俺の固有魔法は、ダンジョンの内部をいじるためのものである可能性が高かった。
そして今日も今日とて、俺の実験は続く。
「おっぱいでかくなれー いでよ巨乳ー!」
ボイィンという効果音でも聞こえそうなほど、立派な乳房が俺の胸に現れた。ついでに乳首の『感度』もあげてみる。
俺は男が悔しそうに許しを請うのを見るのが好きだが、特に女に興味がないわけではない。ぷよんぷよんの胸を揉みながら乳首をつまんでみると、あん! とAV女優みたいな声が出た。自分から。
「ぶっ! あははは! ウケる。俺の魔法、最高すぎんだろ」
ぽよんぽよんと揉みしだいていたが、遊ぶのをやめ涙を指でぬぐいながら、晴れやかな気持ちでダンジョンコアに向かって叫んだ。
「読み終わったよ! もうオッケー!」
一体どれくらいの時間が経ったのかはわからないが、この部屋でできる限りの実験を一通り終えた。
あとは――実践。
とにかく自分以外の『実験体』が必要な段階だった。
外の世界がどうなっているのかはわからない。だけど、自分の人生の中ではじめて、少しだけわくわくするような気持ちを感じていることに気がついた。なにかが始まるような、誰かが……待っているような不思議な感覚だった。
「あ……」
俺の言葉に反応して、なにもなかった土壁の向こうに扉が現れた。俺はゆっくり立ち上がると、脱いでいたスーツのジャケットを羽織り、コキコキと首と肩をまわしてから、扉に手をかけた。
扉の向こうにはモンスターがうようよいるらしいが、『ダンジョンコア』は守るべき対象であり攻撃はされないと本に書いてあった。彼らは俺の心臓を守るための、大事な手足なわけである。
扉の外に出てみると、そこはさっきまでの部屋と同じような土壁が続いている通路だった。なんかの資料で見た、洞穴を改造した住居に似ているなと思う。
「一応、扉消しといてー」
俺が宝石に一言声をかけてから扉を閉めると、そこには元からなにもなかったかのように、スーッと扉は消えた。
扉の中の灯りが消え、あたりが真っ暗になる。
俺は自分の目を暗闇対応に生体改造してから、ゆっくりと歩き始めた。土壁の通路には人の頭くらいの大きさの蜘蛛が巣を作っていたが、あれもモンスターだろうか。壁にはスライムが這っているのが見える。足元にも、よくわからない虫のようなものが蠢いている。
遠くでなにかが動いた気配がして、顔を向けると、あ――……
「あ、ゴブリンだ。ほんとに襲って来ないのかな……って、うわ。棒持ってる。流石にちょっと怖いな」
俺はちらりと扉のあった土壁を確認し、いつでも部屋に戻れる体勢のまま、ゴブリンの様子を伺う。
すると――
「ゴブ、ゴブゴブゴー」
会釈ッ!!!
ゴブリンに会釈をされた。しかも脳内的には「あ、どうも、おつかれさまっすー」ていうかんじだった。
(……意外! ゴブリン意外と礼儀正しい!)
俺は異世界に来てから、今1番の感動をこの胸に感じていた。ゴブリンに会釈をされる日が来るとは思わなかった。数多の物語の中で、ゴツゴツした緑色の頭の悪い存在として描かれるゴブリンに、俺は心の中で謝った。俺は、あいつらには必ず優しくしてやろうと決める。
「あ! おい! あのさー、外まで行きたいんだけど、結構遠い?」
「ゴブ? ゴブブン」
なんて言ってるかは……よくわからなかった。だけど、ゴブリンは首を振ったので、俺の言葉は通じてるみたいだ。じゃあ、ちょうどよかった。
「悪いんだけど、外まで送ってくれない? 道わかんなくて」
「ゴブ」
親切! ゴブリン親切!! なに言ってるのかはわからないが、こくりと力強く頷いてくれた。
こいつらには優しくしてやろうと、俺は心に決めた(2回目)
俺はゴブリンに連れられて、ダンジョンの中を出口に向かって進んで行った。ほかにもいろんなモンスターに出くわしたけど、そのどれもが俺に襲いかかることはなかった。
吹いていた風が強くなってきて、外界が近くなっていくのを感じる。ゴブリンがピタリと足を止め、前方を指差して、また力強くこくりと頷いた。辺りは、内側の土壁とは違い、岩肌が剥き出しになった洞穴のような印象に変わっていた。
前方に月の明かりのような青白い光が差しているのが見えて、俺はそのまま真っ直ぐと歩いて行く。
草木の新緑の葉の匂いがする。はじめて見た外は――夜の森だった。
「ありがとう!」
俺が後ろを振り返り、お礼を言って手を振ると、ゴブリンも片手をあげてからまた会釈をした。礼儀が正しい。
真っ暗で「森だな」という感想しか出てこないが、地球の森と同じように見える。遠くのほうから、フクロウが鳴いているような声が聞こえてきた。
俺がレベル1なことを考えると、ダンジョン自体もレベル1ということなんだろう。出会ったモンスターはそんなに強そうには見えなかったし、ダンジョン自体もただの洞窟に毛が生えたようなものだった。
モンスターたちを頭の中でリスト化し、対策を考える。
ダンジョン内のモンスターは襲ってこないけど、森の中にいるモンスターは襲ってくるのだろうか。
森の中のところどころから、カサカサと草が擦れる音がして、うにょうにょとスライムが蠢いているのが見えた。
本当にスライムが生きているのか……と、胸がほわっと熱くなる。今は夜みたいだし、外のモンスターの様子も正確にはわからない。とりあえずなにをするにしても、ダンジョンコアからはまだ遠く離れるべきではないだろう。
「お前、うちの子になるなら入ってこいよ。改造してやるよ?」
近くにいたスライムたちに声をかけ、俺は元の部屋へと踵を返した。
本の知識によると、レベルが上がると階層が増える。今はレベル1だから1階層しかないわけだ。
だが、今、体感した広さを考えると、通路などを作り込めば、難解な構造にすることは可能だろう。俺はこれからのことを考えながら歩いていたので、後ろから、ぞろぞろとスライムたちが列をなしてついてきていることには気がつかなかった。
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