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1-1 異世界での目覚め
02 はじまりの部屋
しおりを挟む「あー これは、知らない天井だな」
目を開けた俺は、しばし天井を見つめ……大分見つめてから、そう呟いた。
天井っつーか茶色い土だった。体を起こしてみれば、寝ていた場所も、壁も、全部土だった。
なんで俺はこんなところで寝てんだ。
立ち上がりながら、式典用の黒いスーツをはたくと、なんか湿っていて気持ち悪い。
5メートル四方の小さな部屋のまんなかに、両腕で抱えられるかどうかという大きさのキラキラした宝石が浮いていた。その不思議な石は見る角度によっていろんな色に煌めき、オーロラのような奇妙なゆらぎを映している。
壁側に申し分け程度の木の机と木の椅子、扉はない。
「日本じゃないのかもなー」
なんというか感覚的にだけど、浮いてる宝石とか扉がない土壁とか、魔法感ある。
日本にいるときは周りに人はたくさんいたけど、家族には恵まれてなかったし、特に未練はなかった。ここがもし、ゲームみたいに魔法が使える異世界だって言うんなら、こっちでなんとかやってみるのもいいかもしれない。
机の上には分厚い本が置いてあった。そのずしんとした重厚な印象とは裏腹に、そんなに古いものには見えないのが不思議だ。
しかたがないので、このなんにもない部屋で唯一、暇を潰せそうなものに手を伸ばす。パラパラとめくってみると、まったく知らない文字の羅列だったが読むことができる。
(……すげーな)
俺は今までやったゲームを思い出しながら、この場所を『ファンタジーの世界』なんだと認識した。知らない文字が読めたからな。これは多分、魔法だ魔法。
『異世界』っていうやつだ。
しっかし、普通、異世界に来ましたってときは、王様とか神様とかなにかしらの偉い人が出てきて、状況説明してくれんじゃないのかよ。女神も妖精もうんともすんとも言わねーし。てっきりチート能力とかくれるのかと思った。
俺だけ土壁の部屋ん中に放置かよ。
「しっかり読んでよ」と言わんばかりの状況で置かれている本を、俺は渋々読み始める。
本はゲームでいうところのチュートリアルというか、簡単にいうと、ぷかぷか浮いている宝石の大まかな取説だった。
この場所は『ダンジョン』であり、浮いている宝石は『ダンジョンコア』と呼ばれる魔石なんだそうだ。
それで――……えーと?
「ステータス」
お決まりの言葉を呟くと、ブォンと小さく音がして、俺の前に光る半透明のスクリーンが浮かび上がった。本に書いてある通りの現象に「へえ」と驚きながら、書かれた内容を目でなぞる。
ゲームのように表示されたそれが、今の俺の状態説明らしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
{名前} レイ
{種族} ダンジョンコア
{レベル} 1
{魔法} 生活魔法全般
{HP} 15/15
{MP} 30000/30000
{固有魔法} 生体改造
人体を含む、この世界の生物のありとあらゆる器官を改造し、手を加えることができる
{特殊スキル} 勘
なんとなく思いついたことが、結構当たる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……おい。なんだこの勘って! 説明そのままじゃねーか」
勘はいいほうだと思ってたけど、異世界だと〝 特殊スキル〟と認識されるレベルだったのか。一瞬もっと違うのよこせと思ったけど、それはある意味すげえな、と思い直した。すげー勘がいいんだな、俺。
「ま、とにかく。種族がダンジョンコアっつーことは、このキラキラ宝石が俺の心臓か」
HPが15である以上、これをぶん殴れば俺は死ぬってことになる。
それに対して、この膨大なMP値を鑑みるに、俺はこの心臓を守るために魔法でダンジョン作って自衛しろと、そういうことだな?
それにしても、この固有魔法――……『生体改造』ね。
自分の口元がにやっと緩んでいるのがわかる。
一体どんな生き物がいるのか知らないけど、すげえ固有魔法だ。神がかってる。『ダンジョン』という、生き物だかどうかも怪しい種族だからこそのものかもしれないけど。
やりたい放題だろこれ。
「さてと」
俺は椅子に座って、分厚い本を開いた。
ゲームだとめんどくさくて説明書は読まないけど、人生かかってるならそうはいかない。
情報は――力だ。
このなんにもない部屋でなにができるのかわからないけど、なんとかしなければ朽ち果てるんだろう。俺は大雑把だが、自分の目的達成のために戦略を練るのは好きだ。
この場合は、失敗は〝 死〟。
俺は、この世界で生き残るための準備を始めた。
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