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第二章 NOAH
38 閑話:とある妹の目覚め
しおりを挟むさいきん、お兄ちゃんのまわりに、お兄ちゃんの友だちが、よく、いっしょにいるようになった。
私のクラスの山田くんの、お兄ちゃんだ。
べつになにが気になるのかって。きかれても、よく、わかんない。でも、なんか、気になる。どうも、お兄ちゃんを見る目が、あやしい。
私にはわかる。
(お兄ちゃん…ねらわれてる気がする)
私は、小さい頃から、かおが、『はで』らしい。
お人形さんみたい、げーのー人みたい、なんて、まわりの大人の人たちに、言われてきたけど、私のことをよくない風に言う人は『はで』だと思ってるらしい。
でも、このかおのせいで、ゆうかいされそうになったことも、ある。でも、私はかしこいので、ぼうはんブザーを持っているから、大丈夫。
それに、私をねらってくる人は、なんか、わかりやすい。げへへ、みたいな、かんじの、おじさん。そういう人は、目を合わさないように、ちらちら見てくるので、もう、私は、先にブザー押しちゃう。そうすると、すぐにげてく。
やっぱり、『やましい』ことがあると、ブザーの音、こわいみたい。
うちのお兄ちゃんは、私みたいに『はで』なかおではない。
でも、見ていると、ふわっと、いい気もちになるような、そんな、やさしいかおだと、思ってる。それに、中みも、やさしい。
お兄ちゃんは、私とちがって、わかりやすい『へんたい』には、好かれない。
でも、私にはわかる。
(お兄ちゃんを見てるのは、みんな。ぼうはんブザーを押しても、「大丈夫?」って、さわやかに笑いかけてくるようなやつ…)
お兄ちゃんは、『にぶい』。
そういう人に近よられても、ふわっと笑って、「ありがとうございます」してしまう、たいぷ。そういう人の、目が笑ってないことに、気がつかない。
だけど、───
山田くんのお兄ちゃんは、ぜんぶ、気がついているみたいで、学校からかえってるお兄ちゃんたちを見かけると、山田くんのお兄ちゃんは、まわりをすごくよく見てる。それで、私があやしいと思ってたやつらが、どういうわけだか、お兄ちゃんのつうがくろから、いなくなっていった。
もしかして、山田くんのお兄ちゃんが、やっつけたんだろうか。
そして、私は思った。
(あいつ……やるな!)
でも、ふと、見かけたのだ。
いつもあんまり笑わない山田くんのお兄ちゃんが、なんだか、大好きなものを見るみたいに、やさしいやさしい目で、お兄ちゃんのことを見て、うれしそうにしていたところを。
それで、私は気づいた。
(あれ。もしかして、あいつがいちばんやばいんじゃない!?)
それからは、山田くんのお兄ちゃんは、『ようちゅういじんぶつ』として、私は、けいかいしている。
それで、今日、───三年生が、私に『ちょっかい』をかけてきたのを見て、お兄ちゃんと、山田くんのお兄ちゃんが、それを止めようとして、ちょっともめた。三年生は「男のくせに女みたいなかおしやがって」とか、お兄ちゃんに言ってて、さいてーなやつだなと、思った。
でも、もんだいは、その後の、ことだった。
私は、山田くんのお兄ちゃんと、お兄ちゃんが歩いている後を、歩いてた。でも、公園の前まできたとき、お兄ちゃんたちは、公園ではなしがあるから、先にかえってて、と、言われた。
家は、もうすぐそこだから、もちろんかえれる。私は、「うん」と言って、それで、かえるふりをして、さっとしげみにかくれた。
山田くんのお兄ちゃんは、どうやら、ひっこししてしまうことを、お兄ちゃんにつたえたみたいだった。お兄ちゃんは、泣きそうなかおで、ぴたっと止まってしまって、うごかない。
でもそのとき、山田くんのお兄ちゃんは、そんなお兄ちゃんを見て、よくわかんないことを、言って、とつぜんおこり出した。
「お前、いつになったら、前髪伸ばすんだよ!」
「え???」
「前髪!伸ばせよ!」
お兄ちゃんは、泣きそうなかおのまま、だけど、そのいみがわからなくて、えっえっと、目になみだをためて、こんらんしていた。とつぜん、なかよしの友だちがおこりだして、どういうこと?と、また泣きそうになってるのがわかる。
それを見て、私も思った。
(───え。どういうこと)
「え、、前がみ、の、のばした方がいいかな??なんか、変だった?」
「…………………チッ。そういうことかよ」
「えっえっ??」
「あーくそ…………だから!そばかすが!変だから、隠しとけって言ってんだよ!!」
山田くんのお兄ちゃんは、大きな声で、叫んだ。
ぼろっとお兄ちゃんの目から、涙があふれるのを見て、私はあわてた。てっきり、お兄ちゃんのことがすきだと思ってたのに、なにがおきてるんだ?と、ポケットのハンカチを探しながら、ちらっと山田くんのお兄ちゃんのかおを見たら、───
(わ……すごい、まっか……………あっ…そっか、そういうことか……)
ひっこしで、近くにいられなくなるから、それでか、と、私は思った。やっぱり、山田くんのお兄ちゃんは、お兄ちゃんのことがだいすきなんだなあ。
だけど、うちのお兄ちゃんは、そんなの言葉のまま、うけとっちゃうと、思った。見てたら、やっぱり、ぼろぼろ泣いてて、少しだけ、山田くんのお兄ちゃんが、『ふびん』だと思った。でも、───
「泣くなよ。でも、隠しとけって」
「へっへんって……み、みんなにはないなって、おも、思ってた、けど…」
お兄ちゃんは多分、山田くんのお兄ちゃんがひっこしていなくなっちゃうのと、ちょっと気になってたそばかすのこと言われて、すごいびっくり!ていうかんじ、なんだろうな、と思う。ぽろぽろ涙をこぼしているお兄ちゃんを見て、山田くんのお兄ちゃんは、困ったような、『ふくざつ』そうなかおで、もう一度言った。
「変だから、───だから乃有。俺が戻ってくるまで、そばかす、隠しとけよ」
「うっうっふぇえ」
全くつたわってないっていうのは、私に、すごいつたわってきた。
お兄ちゃんは、そういうの、わからない、たいぷ。
でも、───
さらにはげしく泣くお兄ちゃんのほっぺを、両手でつつんだ山田くんのおにいちゃんは、すごくこまったかおで、「だからそんな泣くなよ」ってもう一かい言った。
それから、かおをあげたお兄ちゃんに、見たこともないような、やさしい、やさしいかおで、わらった。
なんでかはわかんないけど、心ぞうが、どきどきしはじめていた。
山田くんのお兄ちゃんが、お兄ちゃんのことを好きなことは、知ってたけど、それって、もしかして、ぱぱと、ままみたいな、好き……なの?
私は、まっかになりながら、お兄ちゃんと、山田くんのお兄ちゃんを、すごい見てた。
そしたら、山田くんのお兄ちゃんが、───言ったのだ。
「 」
思わず、小さく「えっ!」と、びっくりした声をあげてしまった。
お兄ちゃんは、なんのことだかわかんなかったみたいで、目をぱちぱちさせていた。
(え?え?お兄ちゃん、おとこの子なのに!おとこの子、どうしなのに?!え?え?)
私は、その日、人生ではじめて、はなぢを出した。
それで、しばらく、どきどきして、ねむれないよるを、すごすことになった。
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