【BL】異世界転移をしたい腐女子の妹は、その妄想のすべてに陰キャの兄が巻きこまれていることを知らない

ばつ森⚡️4/30新刊

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第二章 NOAH

22 契約

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※すみません、大したエピソードでもないのですが、前章・08話と09話の間にもう1つだけエピソードを追加しました。はじめの帰還の繋ぎがちょっと気になってて。通知が行ってしまったら、すみません!
──────────────────



 
「………アオイくん……そっか。良かった」

 気がつけば、僕は、アオイくんと出会った、コンビニの前だった。
 住宅街の夜闇の中で、一際明るいコンビニの灯りに、ジジと音を立てながら、羽虫が群がっていた。その様子を見て、その日本の夏の夜を感じて、まだ理解が追いついていない僕の頭は、まず、僕にそんなことを呟かせた。

(そっか……)

 アオイくんは、クズ攻めになることなく、無事にエヴァンス騎士団長と、結ばれたんだ。まず、そのことに、ほっとした。
 それから、次に、突然の別れに、さよならの一言もみんなに言えなかった、と思った。
 ミシェル先輩達に、お礼の一言も、言えなかった。僕の頭は、最後に、ミュエリーに、ヒューに言いたいことでいっぱいで、しかも結局、文句を言って、それで帰ってきてしまった。
 よく考えてみたら、長い間がんばってきてたのに、僕に文句を言われて、もしかしたらヒューは、すごく嫌な気持ちになったかもしれなかった。
 でも、───

「そうだ。血……」

 それでもヒューは、最後に、僕にヒントをくれた。
 僕は文句を言ってしまったのに、多分、合理的なヒューは、一番、自分に繋がる可能性のある未来を、僕に託した。

(流石だ……流石の合理性…)

 感情で、全てを吐き出してしまった僕とは、完全に真逆の対応だった。
 と、そこまで考えて、僕はようやく、辺りが夜で、そう、まだ夜で、僕はコンビニの前に立っている、と、再度、現実として、認識したのだ。
 ハッとして僕は、コンビニに駆け込んだ。そして、店員の人に慌てて尋ねた。

「す、すみません!今、何時ですか?!」
「え?あ、はい。今は9時15分ですよ」
「あっありがとうございます」

 どうして、今回だけ、僕はコンビニに戻ってきたんだろう、と、思いながら、とりあえず、店内を歩く。なぜなら、今が夜の9時15分だと言うのなら、それは、───

(信じられない……まだ、10分しか経ってない)

 もしかしたら二十年コースなんじゃないかと思っていた世界が、二ヶ月弱で決着がついたのだ。それは確かに、今までの中でもかなり短い期間ではあったが、それが、地球では、たった10分だったのだ。
 それならば、僕は、羽里の好きなアイスを、買って帰らなくてはいけない。そして、ふと、スイーツコーナーに目をやったとき、僕は、どうして今回だけコンビニの前に戻ってきたのかが、わかったような気がした。

(チェリーぱふぇノワール………)

 いつもは完売していることが多いと言うのに、なぜか、3個も残っている。だが、僕は邪神に、これを支払う義理はないんじゃないだろうか。確かに、少しだけ、転移の時間を伸ばしてもらったような、気がしなくもない。だが、それは、対価を払ったとしても、420円が限度だった。
 どういう原理で邪神のその『結末のタイミング』が来るのかは、分からない。だが、待ってくれるというのなら、僕は、みんなにもお別れを言う時間が欲しかったのだから。

「買っておいた方がいいぞ。前払いでもいいんだ」

 僕の耳元で、悪魔の囁きのような、いや、普通に、邪神の囁きが聞こえた。そして、僕は首を傾げる。前払い?これから何か他にも、僕が対価を払わなくてはいけないことが起きるのだろうか。
 そして、それを聞いたとき、僕は、そういえば…と思い、邪神に尋ねた。

「なあ、次もまた、どこか異世界に飛ばされるんだよな…」

 次の世界でもまた、ヒューに会えるのかもしれない、と、僕は少しだけ期待した。異世界に転移するのは、もう懲り懲りだった。それでも、ヒューに会えるのなら、と、思う。
 だが、そんな僕のことを、おそらくは分かっている癖に、邪神は、言った。

「それはわからんな。だが、───もう、お前との契約はここで終わりだ」
「え?」
「それはそうだろう。お前は、我輩との契約を破った。『邪神』と、我輩の存在を人前で暴露し、そして、あの魔術師は、それを認識した。契約違反だ」

 頭の理解が、追いついていなかった。僕は、スイーツコーナーに並んだ、チェリーぱふぇノワールの前で、固まったまま、目を瞬かせた。

 ─────────え?


 ←↓←↑→↓←↑→↓←↑→


「ど、どういうことだよ!」
「お前こそどういうことだ!チェリーぱふぇノワールを一つしか買わずに!!」

 あの後、───。
 驚いた僕は、羽里に頼まれたものと、自分用の飲み物と、チェリーぱふぇノワールを一つ買って、僕は、こっそりとルクスを使って、光の速さで帰宅した。地球で魔法が使えたことにも、ものすごく驚いたが、とにかく、今は、邪神に尋ねなければならないことがあった。
 怒った様子の邪神は、僕に言った。

「もう終わりだ。この先は、お前の力でどうにかしろ」
「どういうこと?!もう異世界には行かないってこと?!」
「それは教えることはできない。契約外だ。だが、お前の心の闇は美味しいし、一応、貢物ももらったからな。もう少しだけ、契約終了を保留にしてやってもいい。でもとりあえず、保留にするだけだ。もう我輩の存在が、あの魔術師にバレた以上、基本的には、お前に関わることはできない」

 僕はそう言い残すと、僕のクローゼットの中に入っていった。
 突然の宣言に、頭が追いついていない僕は、呆然とその様子を見ているしかなかったが、手に持っていたコンビニの袋の中から、ちゃっかり、チェリーぱふぇノワールと、プラスチックスプーンがなくなっていることに気がつき、少し、冷静になった。

(契約が終わったって言いつつ、なんで僕のクローゼットでパフェ食べてんだよ…ていうか、契約保留って言いながら、僕の心の闇食べる気でいて、異世界から帰還はさせてくれない…のか?それ、ずるいだろ)

 三個買えば、教えてくれたんだろうか、と、少し考え、だけど、心の闇が大好きな邪神のことを思えば、教えてくれないに決まっていた。
 僕はコンビニの袋から、飲み物だけを取り出すと、リビングの羽里にアイスを渡しに行った。そして、自分の部屋に戻り、バックパックの中から、いつものノートを取り出した。よくわからないが、考え事をするときは、これを見ていると安心するのだ。
 そして、ころんとベッドに横になりながら、考える。

「もう、───異世界に、行けないかもしれない?」

 あんなにも、毎回嫌がっていた異世界転移だったのに。本来ならば、大手を振って、喜ぶべき事態だというのに、僕の心に広がったのは、ただの不安と焦燥だった。
 口に出して見えば、その現実は、冷たく恐ろしいものだった。なぜなら、───

(僕が異世界に行けなければ、転生したヒューがいくらがんばったとしたって、会うことすらできなくなる…)

 見つけ出すと言ったのに。どんな世界で出会っても、きっと、ヒューを探して見せると思ったのに。そもそもの前提が覆ってしまった。
 もう会うことができない、そんな状況、想定してなかった───と、考えて、思い至った。

(いや、違うよ…)

 いつだって、僕は想定していた。
 ヒューと出会い、ヒューと別れ、エミル様と出会い、エミル様と別れ、ユノさんと出会い、ユノさんと別れ、フィリと出会い、フィリとも別れた。他のみんなとだって、いつだって、僕は、いずれ来る『別れの時』に、ずっと、ずっと怯えていた。
 想定してなかったなんてことはなかった。
 ミュエリーの時が異常だったのだ。また会える、形が変わったとしてもまた会える、と、僕は期待してしまったのだ。また会えるものなんだと思い、ろくな別れも告げずに、僕は文句を言って、戻ってきてしまった。

(もし、───もしも、もう二度と、出会うことができなかったら…)

 どうしてあれが最後の別れじゃないと、思ってしまったんだろう。僕はぐっと唇を噛みしめ、その不安を追いやる。

「違う。どっちも諦めない。僕は羽里の兄なんだ。僕が諦めてどうする。ヒューなんてずっとずっとがんばってくれてるんだ」

 そうだ、と思い直す。自分に言い聞かせるように、そう呟く。
 邪神は「わからない」と言っただけだ。今までの、邪神のシステムを考えれば、そうやって濁すことで、僕の心の闇を増幅させようっていう魂胆だろうと思う。
 羽里が異世界をあきらめない以上、きっとまた何らかの呪物にぶち当たるはずだ。だがその後もまた、問題だった。

(あのヒューが、何年かかっても来ることのできないでいる地球に、どうやって戻ることができるのかってことも…)

 考えることは山積みだった。だというのに、明日は学校なのだ。
 もう僕は自分が何歳なのかも、よくわからなくなっていた。久しぶりに学校へ行く気でいるが、あの濃密な2ヶ月間は、この世界では10分だったのだ。

(通信具に、勇者召喚魔法陣に、次の異世界、それから戻り方も、、ああ…考えることばっかり…)

 あの大立ち回りを終えて、帰ってきた僕の体に、どっと疲れがのしかかって来た。僕は、重い体を引きずって、なんとかシャワーだけ浴びると、うとうとしているうちに、そのまま、眠りについてしまったのだった。

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