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第二章 NOAH

13 泉のなかみ

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「お、おい!こんなとこで…!」
「大丈夫大丈夫。みんな自分の恋人しか見てないから」

 ぎょっとした顔で、驚いているミュエリーの前で、僕は、シャツを脱ぎ、デニムを脱ぎ捨てた。果たして、異世界で、これがどれほどの意味があるのかはわからないが、持参していた水着を、下に履いていたのだ。そして、異空間収納袋から、水中メガネを取り出して、すちゃっと装着した。

「………なんだそれ」

 恋人たちが、うっとりした顔で、その恋人を見つめている中、僕は、唖然とするミュエリーに、「じゃ」と、手で合図をすると、そのまま、映像水晶片手に、ドボンと水の中に飛び込んだ。
 魔法泉は、飲んで大丈夫なのだから、飛びこんだって問題ないはずだった。到着してからずっと、周りを確認しながら来たけど、飛び込み禁止とか、遊泳禁止、の標識も見当たらなかったのだ。なので、多分、大丈夫だと踏んだ。
 慌てたミュエリーの声が、聞こえたような気もしたけど、僕は、魔法泉の中の、水がぼこぼこ湧き出ているところを目掛けて、そのまま突き進んだ。

 魔法泉の水の中は、淡水だというのに、珊瑚礁のような、あるいは、鍾乳洞のような、不思議な造形が広がっていて、色とりどりの魚が泳ぎ、それはそれは美しかった。
 この魔法泉が一体どうして、そんな効能を持っているのかは、わからない。でも何かしらの魔法がかかっていなければ、こんなことにはならないと思うのだ。泉はそんなに深くないから、探していればわかるかもしれなかった。
 潜っていると、すぐに泉が湧き出ているところは見つかった。鍾乳洞のような、つるっとした不可思議な岩肌に守られるように、まるで宝物を隠すかのように、うねっとした造形の中から、ふつふつと、泡とともに、水が吹き出ていた。

(泡も一緒に出てる…どうしてだろう…)

 そして、息が続かなくて、僕は一度、水上に顔を出した。ぷはっと顔を出せば、すぐ前に、ミュエリーの乗ったボートがあった。心配して、泉の湧き出ているところまで、漕いできてくれていたのだろう。正直、すごく助かった。呆れを通り越して、逆に心配したような顔になったミュエリーが尋ねてきた。

「大丈夫なのか?」
「うん。泳ぐのは、得意なんだ。ミュエリーちょっと待ってて」

 ミュエリーは、この状況で、ボートに一人取り残さないでくれ、と言いたそうだったが、仕方ない。僕はもう一度、下へ下へと潜って行った。
 潜りながら、少し考える。
 魔法泉のことが書かれた本をいくつか見つけた。けど、どうして魔法泉が、そんな効能を持つのか、ということを書かれた本はなかったのだ。確かに、日本にいるときも、この温泉は皮膚炎に効くらしい、と聞いても、「へー皮膚炎に効くんだ」くらいにしか思ってなかったな、と思う。何故、皮膚炎に効くのか、どうしてなのか、証拠はあるのか、みたいなことを真面目に考えたこともない。
 魔法のある国では、効能だってその程度のものなのかもしれない。だから、もしかしたら、こうして探してみたところで、理由という理由も、ないのかもしれない。もしかすると、それこそ「魔法の世界だから」ということで片付けられることなのかも。

 モフーン王国の時もそうだけど、なぜ、そんな不思議なことが起きるのか、ということに関して、確かに不思議に思わなかった。なぜか「魔法の世界だから」という理由で、それが当たり前のように受け入れてしまったけれど、もしかしたら、あの王家のダンジョンにだって、何か仕掛けがあったのかもしれないなあ、と思う。
 でもユクレシアの泉では、シルヴァンが太古の精霊石があるから、瘴気が浄化されている、と、言っていたし、何かしらのそういうマジックアイテムでもあるのかもしれない。

(ま、とにかく…調べてみなければ、わからないから)

 ぶくぶくと、潜りながら、水の湧き出ているところを探る。ただ単純に、この恋人だらけの天国な雰囲気の泉を、調べようという研究者がいないだけかもしれないし、と、思いながら。
 そして、数度潜った後、僕は一度、ボートの上で、休憩を取ることにした。異空間収納袋からタオルを出して、それに包まりながら、「あ」と気がついて、ミュエリーにも大きめのバスタオルと、日本で買っておいたペットボトルの水を出した。日陰の全くない場所なのに、7月の炎天下の中、ミュエリーを恋人たちの天国のどまん中に置き去りにしてしまったのだ。「ごめん」と、謝ったら、ミュエリーがタオルを頭からかぶりながら、虚ろな目で僕に尋ねた。

「……魔法陣があるって決まったわけではないだろ」
「ミュエリーは、どうしてここの魔法泉が、そんな効能があると思う?」

 ミュエリーは、少し考えて、それから言った。

「まあ、魔法陣というよりは、何かしらのアーティファクトが埋まっている方が現実的だろうな。夢で会える、というのだから、おそらくは、淫魔関係の何かか、もしくは、精神干渉系の魔道具か…まあ…夢の中の意識を、想う相手に転送する、という可能性も…なくは、ないか」
「………」
「夢は、神託だとか、魂の交流だとか、言われている時もあったからな。古代の魔道具が埋まっているのなら、もしかしたら、そういうこともあるかもな」
「そっか。ありがとう、ミュエリー」

 僕は、少し、思うところがあったけど、とりあえず、映像水晶をミュエリーに見せてみることにした。普通に、綺麗な景色だったから、見せてあげたかったのもあったけど。

「へえ。中はこんな風になってるのか…」
「きれいだよ。ミュエリーも一緒に潜る?」
「いや、いい。ん…?ノア、ここ、なんだか造形がおかしいような気がする。なんでここだけ、盛り上がってるんだ」

 ミュエリーが指さしたところは、泉が湧き出ているところから、5.6メートル離れた場所だった。見てみると、確かに、少し他の場所とは違うかもしれないな、と、思う。さっき、湧水と一緒に、たまに泡がぽこぽこ出ていたことを思い出した。

(もしかして中に空洞でもあるのかな…)

 僕はもう一度、潜ってみようと思って、肩にかけていたタオルを置いた。頭からバスタオルを被ったミュエリーが、ちらっと顔をあげて、僕を見た。

「どうしてそんなに一生懸命なんだ」
「え?」
「なんのためにやってるのかは知らないけど、こんなに必死になる必要はあるのか?」

 ミュエリーは、理解できないと言った様子で、僕のことを見た。
 確かに、ミュエリーの立場からしてみれば、よくわからないことに付き合わされて、炎天下の中、恋人たちに囲まれて、天国みたいなところで一人ボートに乗り、待機だ。確かに、嫌な気持ちにもなるだろうな、と、僕は思った。なのできちんと説明する責任があった。

「実は、僕は、他の世界にも行ったことがあるんだ。他の世界で出会った人たちと、通話したいんだ。色んな人たちと出会ったけど、その中でも、一番に、話したい人がいる。本当のところはわからないけど、その人もずっと、がんばってくれてる…ぽくて、それで、一人でがんばりすぎちゃう人だから、僕も、諦めたくないんだ」
「そいつが、がんばってるんだったら、そいつにがんばらせておけばいいだろ」
「………」

 僕は、流石に、ため息をつきながら、ミュエリーを見た。
 それから、プライドが高くて、意地っ張りで、潔癖症で、神経質、根暗で、天邪鬼で、すごく面倒くさい、ーーー僕の大好きな、誰かに言い聞かせるように、僕は言った。

「それじゃあ、いつまで経っても、僕に頼ってくれないじゃん」

 ミュエリーは、相変わらず、わけがわからないという顔をしていた。僕は、困ったように笑うと、続けた。

「その人に……家族になりたいって、言ってもらったことがあるんだ」

 そのときは、あんまり重要なことのように感じなかった。ただの、世間話みたいな、軽い話だとばかり、思ってしまった。
 だって、僕にとっては、家族というものは、当たり前のようにいて、当たり前のようにお互いを思いやり、色んな感情を共有する人たちだったから。みんながみんな、必ずしも、僕の家族のように、優しい家族がいるわけではない、ということは、事実としては知っているのだ。だけど、僕にとっての家族は、僕が知っている家族は、羽里で、母さんで、父さんで、あの、優しい彼らのことだった。

 でも、ーーーヒューにとっては。

 きっと、今までいい思い出がなかったはずの家族に、僕と、その家族になりたい、という言葉はきっと、もっと、重い意味を持っていたような気がした。家族というものを、本当に理解していなくても、多分それは、きっともっと重い意味だったはずだった。

「わからないけど、多分、家族っていうものを、ちゃんと知らないんじゃないかと、思ってて。いや、友達でもいいんだ。仲間でも。なんでも。それは、自分の荷を増やす物じゃなくて、自分の荷をも、たまに持ってくれる人たちなんだよって。安心していいんだよって、伝えたい」

 ミュエリーは、ぽかんとした顔で、僕のことを見ていた。
 そう。ヒューは、対外的には、完璧だった。天才魔術師だった。本人もおそらく、周りの期待に応えるために、血の滲むような努力をしてきたのだろう。小さい頃から、親兄弟に怯えられながらも、唯一、自分が認められることを。
 だから、そう。なんでもできてしまうヒューだからこそ、ーーー。

「なんでもできる人だから、なんでも自分で解決してきたんだと思う。周りの人たちは、きっと、その人を頼りにするか、まあ、妬まれる、とかも、あったかもしれないけど、多分、本人は、誰かに頼ったことが、ないんじゃないかと思うんだ」

 だから、僕が諦めるわけには行かないのだ。
 天才魔術師に比べて、僕にできることなんて、本当に微々たるものだ。でも違うのだ。僕が何をできるとか、できないとか、誰が何ができるとか、できないとか、そうじゃない。

  そういうことで評価しなくちゃいけない『家族』や『友達』なんて、いないはずだった。

 でもそれが、ヒューは、きっとわかってない。
 だから、他人の意味をわかってない、あのへそ曲がりを納得させるには、一度は、僕を頼らせる必要があると、思うのだ。きっと、あのプライドの高さを考えれば、僕に頼る、という事態は、頭をぶん殴られるぐらいの衝撃的な事態だとは思う。
 ミュエリーは、相変わらず、どこか腑に落ちないような顔をしていた。

「だから、それが、少しでも伝わるといいなあと思ってる」

 僕は、ドボンと水の中に飛び込んだ。
 そして、もう一度、潜っていく。ミュエリーが指摘してた、盛り上がった場所は、確かに気になる。僕は、ぶくぶくとまた下に潜りながら、その盛り上がった場所の、反対側へ回り込んだ。すごくわかりづらい、が、その部分の下方に、穴が空いていることに気がついた。
 覗いてみると、その穴は、水底の下へと続いているようだった。僕は、魔法で、右手に光源を出しながら、その穴を照らした。
 どうやら、その穴の先に、魔法泉を濃くしたような、虹色の光が小さく見えた。
 僕は一度、水上に戻って、ミュエリーにそのことを伝えると、その穴の先に潜って行った。そんなに深い穴ではない。数メートルほどの距離だったけど、水の中の、しかも穴の中に入るというのは、少し怖かった。でも、やっぱり、思った通り、穴の先には、ぽっかりと、空洞が広がっていた。顔を出す前に、手を伸ばし、空気が毒性を含んでいないかを魔法で確かめる。こういう魔法は、危険な場所の多かったユクレシアで、ヒューに教えてもらっておいて、本当に良かったな、と、思う。目だけ出して確認したら、風が吹いているのもわかった。

(大丈夫そう…)

 おそらく、空気も問題なさそうだと踏んで、僕は顔を出した。息も大丈夫そうだ。
 そして、僕はその空洞の中、泉に溶けるように変形してしまった、古い魔道具のようなものを見つけた。多分、長く戻らないと、ミュエリーが心配するだろうと思って、一度、ボートに戻って、泉の中に、安全な空洞があったことを伝えてから、再度、戻ってきた。

「これは…香炉だな…」

 空洞の中は、おそらく、どこかに繋がっているようで、風が吹いている。空気の循環があるようで、空気も全く澱んだ気配はなかった。浅瀬になっており、横幅が数メートル程度の平らな岩肌の上、ちょうど水に浸るか浸らないかという辺りに、それはあった。
 古いものに見える。それに、ずっと水に晒されていたものだ。手を触れて、崩れてしまったら大変なので、僕は、できるだけ近くで映像水晶に映しながら、じっくりと観察をした。

(多分、香炉の成分が溶け出してるんだ。夢…確かに、眠る時に、この香炉を炊いたら、その夢が見れる…というのは、理にかなってる)

 でもその場合は、香炉で炊く『香』の成分なのか、あるいはこの、香炉自体に仕掛けがあるのか、ということはよくわからないな、と思う。香炉の蓋を開けたら、崩れてしまうかもしれない。鉄製の、編み込まれた美しい花の模様の間から、ぎりぎりまで映像水晶を近づけ、右手に光を灯した。

(あ!魔法陣描いてある!これ、香炉の性能だ…)

 おそらく、この泉の水全てに、この魔法陣の影響が出ているということだ。よく考えてみれば、香炉の『香』の成分であった場合、流石に何年も、何十年も、その効能が水に溶け出し続けるなんていうことは、ありえないような気がした。

(どんなエレメントが入ってるんだろう…)

 目を凝らして見てみれば、少しだけ見える。でも、その上は水に浸っているし、砂が乗っていて、全部は見ることが出来なさそうだった。揺らしたりして、この恋人たちの楽園を、僕が壊してしまうわけには行かない。そっと映像水晶を見返してみたら、一応、見える部分は記録できたようだったので、そのまま一度ボートに戻ることにした。

 ぷはっと水面から顔を出すと、心配そうな顔をしたミュエリーと目が合った。僕は安心させるように微笑んで、「今日はもうここまでにする」と言った。ミュエリーは、ちょっと、不貞腐れたような顔になって、「長い」と、一言文句を言った。

 僕はバスタオルで水気を拭き取ると、上だけシャツを着て、ミュエリーが漕いでくれているボートの揺れに、身を任せた。ちょっと濡れてしまうけど、岸に着くまでには、デニムを履かないといけないな、と、思う。僕が水着だけになっても、ミュエリーが何も言わなかったところを見ると、一応、海水浴のような文化はあるっぽい、ということは、確認できた。
 ゲーム内でも、夏休みのイベントで、海に行くというものがあったから、多分大丈夫だろうとは思っていたのだ。ただ、ここは海ではないから、多分、ボート屋さんに戻るときに、膝から下を丸出しにしているのは、多分、変な目で見られるだろうな、と、思った。

 ふと向かい合ったミュエリーに目を向けた。陽に透けたミュエリーの髪の毛は、キラキラ輝いて、銀色のみたいに見えた。雪の上で見た、ユノさんの毛みたいできれいだなあ、と、思いながら、ぼうっと見ていたら、ミュエリーが、ぽつりと尋ねた。

「泉の水は、試してみるのか?」
「え、うん。後で映像水晶見せるけど、それ、分析してからかなー」
「夢に見たい奴は、さっき話してたやつなのか?」
「うーん、多分、違う人」

 ミュエリーはびっくりした様子で、目を丸くして、一瞬固まった。それを見て、ふふっと笑ったら、ミュエリーは、ぷいっと横を向いてしまった。口をむっと閉じて、眉間に深い皺が寄っていた。

(こんな恋人たちの楽園で、この顔……)

 と、考えながら、周りを見渡せば、本当に、お互いしか目に入ってないような人たちばっかりだった。僕たち以外は恋人同士なんだろうな、と思いながら、ヒューは絶対に来ないだろうな、と、思った。


 ←↓←↑→↓←↑→↓←↑→


「え?!へ、部屋が空いてないんですか??」
「いやあ、すまないね。今は、ハイシーズンなもので、うちの系列は満室かなあ」
「ど、どうしよう…どこか泊まれそうなところ、ご存知ないですか?」

 ミネルヴァは観光スポットだから、宿は山ほどあるだろうと思ってたのが仇になってしまった。いざとなったら、野宿かな、とも思ったけど、流石に乗合馬車とはレベルが違う。子爵のご令息を、野山で寝かせるわけには行かないかもしれない。
 宿屋のおばさんは、うーん、と首を傾げ、パラパラと帳簿のようなものをめくり、もう一度、うーん、と、唸った。

「もしかすると、泉が見えない部屋でよかったら、一つ空きがあるかもしれないけど、確認してみるかい?」
「あ、泉。全然見えなくていいです。泊まれるならどこでも」
「え……あ、そうなの?」

 おばさんは、ちらっと僕の後ろのミュエリーを見て、若干、憐れむような表情を浮かべたような気がした。僕が不思議に思っていると、しばらくして、従業員っぽい男の人が「あそこ空いてました~」と、言いながらかけてきた。
 僕は、おばさんにお礼を言ってから、教えてもらった場所へと足を向けた。おばさんは、何故かミュエリーに向かって、親指を立て、グッと合図を送っていたけど、僕はよく意味がわからなくて、首を傾げた。
 とにかく、辿り着いたそこは、二階建ての平屋で、ほぼ全ての部屋が泉を一望できるようになっている中、一部屋だけ、一階の入り口の横の部屋が空いている、とのことだった。何故か、店員さんがすりガラスの下から、そっと鍵を渡してきて、僕は再度「ん??」と首を傾げた。もらった鍵の部屋の前まで歩き、ゆっくりと扉を開けながら、僕はミュエリーに話しかけた。

「よかったなー。同じ部屋になっちゃうけど、一晩くらい、いいよね?」
「………お前……ここがどこだかわかってんのか」

 ミュエリーが、信じられないみたいな驚愕の表情を浮かべていて、「え??」と、僕は首を傾げた。だけど、開いた扉の、その先の光景を見て、僕は固まった。

「へ?」

 目の前に広がる部屋。
 そのどまんなかに置かれた大きなベッド。というか、ベッドしかないと言っても過言ではないほどの、大きなベッド。その上に、薔薇の花びらが散っていた。それから、ガラス張りのシャワーブース。それから、隣に浴槽。何故か窓はなく、その代わりに、窓があるべきところには、大きな鏡があって、ベッドのヘッドボードにも、何やらいろんなものが置いてあった。

(なんだろう…なんか…変?な部屋だなあ…)

 そう思って、ふと、ミュエリーの方を見て、僕は、凍りついた。
 そこには、右手で顔を覆って、首までまっ赤になってるミュエリーがいて、僕は、ミュエリーの顔と、部屋を、交互に見比べて、だんだん、徐々に、状況を、理解して、きた。多分。

「あ、え???へ???」
「ここがミネルヴァだって、ちゃんとわかってないだろ、お前」

 僕は、高校生である。精神年齢はさておき、高校生である。
 いや、わからない。この宿が、というか、この街が、この世界で、一体、どういう位置づけの、何なのかは、僕には、よくわからない。多分、普通の宿ではあるのだ。だけど、この街の客層が恋人同士ばっかりだから、ちょっと、部屋がおかしい、ということ、で、あってるとは、思う。だけど、よく、わからないが、僕は、もしかすると、日本でもこんな雰囲気の宿…、宿?が、存在することを、もしかすると、知っていなくもない、かも、しれない。
 もちろん、行ったことは、ない。
 なので、の雰囲気なのかは、僕には判断がつかない。
 が、ミュエリーの反応を見ている限り、その想像は、正しいような気がした。

「え………?」

 いや、待って、待って、と、僕も、とりあえず手で顔を隠した。片手じゃ足りなくて、両手で隠した。そして、そっと目を閉じる。そして、できるだけ冷静に、冷静に、考えてみた。

 冷静になれるわけなかった。

(え……何、この漫画みたいな展開!!!)

 パタン、と、扉が閉じた、音がした。
 そして、僕たち二人は、まっ赤なまま、お互い顔を押さえたまま、しばらく、扉の前でたちすくんでいた。






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