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第一章 HUE
25 尻がはさまった ※
しおりを挟む「ま…まずい…」
リビィさんの工房で働くのにも、だいぶ慣れてきた頃だった。
リビィさんの工房の裏、ちょっと森に入ったところに、大きなかしの木があって、その下に、小さなが穴がある、という話だったのだ。小さな穴は、リビィさんの素材保管庫で、そこからいくつかとってきて欲しいと、リストを渡された。この森は、入るのに許可証がいるらしく、リビィさんや、一部の騎士しか入れないらしい。
説明上手なリビィさんのおかげで、かしの木は、すぐに見つかった。その小さな穴には、小さな扉がついていて、不思議の国のアリスみたいだな、とか思いながら、渡された鍵をあけた。ちょっと覗いてみれば、小さな棚に、所狭しと、薬草や色んな素材が並べられていた。ちょうど、獣化したリビィさんが入れるくらいの幅で、奥まで続いていたのだ。
どうやら、僕が獣化して、猫になり、そして取ってくる、ということを想定して、このおつかいを頼まれたということに気がついた。が、残念ながら、僕に、猫になるという機能がついていないため、僕はそのままの状態で挑むことになった。
のだが、---。
腰につけていた、ベルト状の工具セットが入り口に引っかかってしまったようで、前にも後ろにも進めず、木の下の兎穴から、尻をつき出した状態で抜けなくなってしまったのだ。
工具セットを外そうにも、両手は穴の中に入っていて、届かない。かなり奥行きが広いし、どこからかそよっと風が吹いているので、空気の心配はなさそうなので、そこは一応安心できるが…穴から尻を突き出しているのは、いかがなものか。
向きを変えようとしたり、息を吸いこんでみたり、色んなことをしてみるのだが、抜ける気配がない。これは本格的に、まずかった。
しばらくしても帰ってこなければ、リビィさんが迎えにきてくれるだろうが、それまでどうしよう…と、頭を抱えていた。
が、その時。後ろに何かの気配がした。僕は、ぱああっと顔を明るくした。
「り、リビィさんですか?すみません、工具セットが引っかかってしまって。引っ張ってもらえませんか?」
そう言ってみたものの、返事がない。もしかすると、通りすがりの人かもしれないと思い、もう一度口にする。
「すみません。どなたか分かりませんが、その、ちょっと引っかかってしまって、引っ張ってもらえませんか?」
言い直してみたものの、やはり返事がない。僕は、壁で見えないことはわかっていたが、後ろを振り返ってみた。が、なんの返事もない。気のせいだったかな、と思い、また、尻を拗らせてみたり、腰を捻ろうとしてみたり、色々やっていたら、ぺたっと、尻を触られた気がした。
「…へ?」
やっぱりそこには誰かいるらしい。が、返事がない。僕は、これほどまでに返事をしない人に、一人だけ心当たりがあった。そして、一応、その名前も呼んでみた。
「ユノさん?」
尻に置かれた手がピクッと揺れた気がした。が、なぜかもう片方の手も添えられ、尻を両手で挟まれているような状態になった。そして、その手が、僕の工具セットのベルト…ではなく、明らかに、ただのデニムの方を下着ごと引き下げると、ぷるんと僕の尻が外気に晒された。
「え?!」
そして、ぺたぺたと、尻を撫で回され、流石の僕も思った。
(え!!!これ、まずくない?!すごくまずい奴じゃない?!)
全年齢版の『もふもふ♂パラダイス』では、もちろん描写はないのだ。聖なる木が、子供を授けてくれるはずであった。が、しかし、尻を丸出しにさせられて、これから僕は一体何をさせられるんだろうか、と、考えた時、羽里に汚染されている僕の脳には、まずい展開しか思い浮かばなかった。
いや、たとえ汚染されていなかったとしても、尻丸出しはまずい。なんだろう。マーカーで尻に顔でも描かれるんだろうか。想像できうる未来の中で、それは比較的、平和な未来であったが、どうだろうか。
と、僕が頭を悩ませている間に、スッと手を伸ばされ、僕の力ないペニスに添えられた。そう、ペニスに手を添えられたのだ。それは僕の想定した未来の中で、やっぱり、一番まずいやつであった。
僕は悲鳴を上げた。
「ひっ」
そして、その大きな手は、ふわっと僕のペニスを包み、そして、むにむにと刺激をはじめたのだ。本格的にまずい状況である。僕はなんとか身を捩って、逃げようと試みるが、しっかり腰を押さえつけられていて、うまくいかない。
(やばいやばいやばい!)
僕はものすごく焦っているというのに、そのうち、自分のペニスが、おかしな反応をはじめていることに気がついた。僕はなんて快楽に弱い生き物なんだろう。恐怖のあまり縮こまって然るべきタイミングである。
羽里にバレたら、完全に「流され受」か「ヘタレ攻め」にカテゴライズされてしまう、と僕は焦った。
が、僕のペニスは、僕の意識とは裏腹に、どんどん元気よくなってしまう。よく考えてみたら、僕はしばらく自分のペニスを触っていなかった。最後に触ったのはいつだったっけ?と考えて、ついうっかり、エミル様に、精液を採取されたときのことを思い出してしまい、穴の中でぶんぶんと頭を振った。
あのときの、エミル様の指づかいが、なぜか僕のいいところを全部知ってるみたいに動いてきて、最速で達してしまったのだった。が、どうしてだろう。この得体の知れない人の、手の動きも、なぜか、僕の弱いところを把握しているかのようだ。どうしてこんなに、僕の気持ちいいところが、手にとるようにわかるのか。
(僕の弱いところは、もしかして、すごく平均的なのかな…)
とんでもない状況だというのに、僕は、自分の弱い場所を刺激され続けて、よくわからなくなってきていた。ぷくっとした先っぽをなぶられ、竿を優しくしごかれ、「はあっ」と熱い息が口から漏れた。
こんなときに思い出すのも、本当にどうかと思うのだが、僕は思ってしまった。
(…ヒューみたい)
そんなはずはなかった。でも、こうして何も見えない状態で、感覚だけ追ってしまえば、どうしてか、ヒューのことばかり思い出された。
そう思いはじめたら、もう止まらなかった。
あの、えっちなヒューの顔で、頭がいっぱいになってしまったのだ。薄く開かれた唇から漏れる、熱い息。いつだって冷静に冴えわたる鋭利な瞳が、僕の目の前で、とろっとチョコレートみたいに溶けていく様子。だけど、そのとろけた瞳の奥にある、情欲の色。ヒューの指先がそうしていたように、裏筋をつーっと撫でられた。
多分、反対の手で、きっと透明な液体が滴っているであろう二つのふくらみをやわく揉まれ、それでいて、竿の部分は激しく手を上下されていて、頭がおかしくなりそうだった。
(まずい、イく、イッちゃう…)
そして、頭がおかしくなった僕は、一番馴れ親しんでいる名前を、思わず呼んでしまった。
「あっ ひゅうっ」
言ってしまってから、ハッと身を固くした。
もはや、絶頂するときに、その名前を呼んでしまうのは、刷り込みのようなものなのかも知れなかった。それでも、僕は、その人としか、したことのないことなのだ。あ、いや、エミル様の採取の一度をのぞいて。とにかく、ヒューの名前をうっかり呼んでしまったことで、僕は自分の声に驚いて、射精の機会を逃した。
すると、何故か誰かの手は止まり、そしてカチャカチャと金属の音がして、さっきとは比べ物にならないほどの、熱くて固い、何かが尻にあてられたのを感じた。
「へ?!う、うそ!ちょっ!ま、待って!!」
慌てて、僕は尻を動かしてみたけど、どうにもならない。もしかすると、向こうから見たら、尻を振っておねだりをしているように見えるかもしれない、と思い赤くなる。でも、一体どうすればいいんだろう。攻撃的な属性魔法は使えないのだ。尻で何か攻撃ができれば、と考えたけど、そんな突然のヒップアタックは思いつかなかった。
「あの、お願い!や、やめて」
僕は流石に、怖くなって、がたがたと震え出した。
が、すると、僕のペニスをいじっていた手がそっと背中に下ろされ、優しくさすられた。だけど、僕の尻の上に置かれた、熱い質量はそのままで、僕は完全に混乱の極みにあった。その優しい手を信じたい。でも、相手のペニスの勃起具合がすごい。
尻だけしか見えていないというのに、その尻を見て、こんなにも股間を大きくできる変態だ。きっと、もうしばらくそういうことに縁のなかった、独り身のおじさんに違いない。尻ならなんでもいいと思っているに違いないのだから。だが、手は優しい。そして、すごく気持ちがいい。が、流されているわけにもいかないのだ。
よくはわからない。
よくはわからないけど、僕はとにかく、縋るような気持ちで、言った。
「あ、あの、お願いです。こ、こここ怖いです」
その震える声は、すごく惨めな声だったと思う。それでも、僕はその優しい手のほうを信じて、どうにかなってくれ、と願った。しばらく手は止まっていた。
が、ずるっとその熱い質量が動かされたかと思うと、それは、僕の尻の穴を通りすぎ、そして、股まで降りて行った。そして、僕の足の間に、その熱くて、硬いものが挟まったと思うと、ぎゅっと両脚を横から抑えられ、そして、パンッと打ちつけられた。
「ひあんっ や、な、何?」
そのまま、がつがつと腰を振られ、僕は、目を白黒させた。
熱い棒が、僕の股についている膨らみから、僕のペニスを擦り上げる。さっきまでの快感で、ぬるぬるになってしまっていた、僕のはしたない陰部は、更なる刺激に歓喜していた。
「あっ やっ ふっ」
今の今まで、恐ろしくて震えていたというのに、僕の体はなんて現金なんだろう。もしかして入れないでいてくれるのかも、と期待した僕は、もはや、怖さよりも、気持ちいい、という感覚で頭がいっぱいだった。
(え…え…これって、素股っていうやつ??)
その存在を聞いたとき、股に挟むだけで、気持ちいいわけがない、と思ってたけど、ぬるぬるのペニスの裏側を擦り上げられて、気持ち良くないわけがなかった。「あっあっ」と、僕の口から、嬌声があがる。ぴくんぴくんと体が震え、ゆらゆらと腰も揺れてしまう。
(気持ちい…)
真っ昼間から、しかも、リビィさんの倉庫に顔をつっこみながら、誰だか知らない人にペニスを擦られているというのに、事もあろうに、僕は、すごく気持ち良くなってしまった。
生理的な涙が溢れた。快感に明けっぱなしになった口から、よだれが垂れた。ぎゅっと両手を握りしめた。
「あっ あんっ」
パンッパンッと腰を激しく打ちつける音がする。そして、こんな状況だというのに、ちょっと「あれ?」と思った。
獣人は、愛する人の前では人型を取れる。だけど、通常は、ふさふさの毛に覆われているはずなのだ。なんでこんな、肌と肌がぶつかるみたいな、音がするんだろう。
そもそも、よく考えて見たら、僕は、つるっとした肌をさらしてしまっているわけだけど、相手の人は不思議に思わないんだろうか、と思った。
でも、そんな僕の思考は、快感の波にすぐに攫われて、どこかへ流されて消えた。そしてそれは、結局、僕が絶頂に達し、誰かの熱い飛沫が尻にかけられるまで続いた。
僕はくったりと、しばらく穴の中で呆然としてしまった。だけど、いつの間にか僕の工具セットが抜き取られていたようで、僕は、穴から這い出すことができた。尻はいつの間にか拭われて、きれいにされていた。僕は、やっぱりそこで、へたりと座りこみ、しばらく呆然とした。
(なんだったんだろう…でも、被害は…一応なかった、ってことでいいのか?)
今更、怖さが襲ってきて、僕は少し涙ぐんだ。でも、ヒューみたいだったから流されちゃった、とか言ったら、ヒューはものすごく怒るだろうな、と思ったら、少しだけ、元気がでた。そして、ヒューが怒るだろうなと思ったら元気が出た、と伝えたら、きっともっと怒るだろうな、と思ったら、もう少し元気になった。
僕は、土だらけで、尻に、おそらく精子…をかけられ、心身ともにもボロボロになって、リビィさんの工房に戻った。目は虚ろで、もう何も考えられなかったけれども、僕が戻らなければ、リビィさんは、きっと心配するはずであった。
戻ってきた僕を見て、リビィさんは目を丸くした。
「………え。ノアくん…その匂い……」
(…え!匂い?!)
僕は焦った。そして思い出した。彼らは獣人なのだ。犬と同じに考えるのは、失礼なのかもしれないけど、犬だって、散歩しながら、おしっこをかけて縄張りを誇示するのだ。いくら拭おうとも、そう言った体液の匂いは、筒抜けなのかもしれなかった。
僕は焦ったまま、だけど、正直に話すことにした。
「へ?!ご、ごめんなさい!リビィさん。さっき、誰かわからないんですけど、後ろから襲われて、その、でも、最後までされたわけじゃ、ない、から…えっと」
「え。誰だかわからないって、その匂いは…」
「え??」
リビィさんに言われて、僕は首を傾げた。
その様子を見て、リビィさんも首を傾げていた。「もしかして、鼻弱いの?」と、聞かれ、僕はようやく、どうやら僕の体からは、犯人の匂いがしているらしいことがわかった。僕にはさっぱりわからないが、獣人ならばすぐにわかるのかも知れなかった。
そして「あ、えっと、び、鼻炎なんです。あとマスクしてるからかな?」と、苦し紛れに嘘をついたら、リビィさんも納得したようだった。もしかしたら、リビィさんは、犯人を知っているのかも知れない、と思ったけれども、僕は怖くて聞けなかった。
多分、独り身のおじさんだと思う。
僕はぼーっとしていて、「とにかく今日は帰りなよ」と、まだ働き出して一ヶ月くらいだというのに、今日も早めに帰されることになってしまった。このまま解雇になったらどうしよう、と思いながら、僕はとぼとぼと帰路についた。その後ろで、リビィさんがつぶやいていた言葉は、もちろん、僕には聞こえなかった。
「浄化なしって…独占欲やばすぎない…?ユノ」
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