【BL】異世界転移をしたい腐女子の妹は、その妄想のすべてに陰キャの兄が巻きこまれていることを知らない

ばつ森⚡️4/30新刊

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第一章 HUE

06 <ユクレシアの記憶01>

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※※物語の構造上、ユクレシアの話は回想形式で続いていきます。わかりづらかった場合は、目次から<ユクレシアの記憶>を繋いで下さい※※

ーーーーーーーーーーーーーーー



「し、信じられない。本当に?」
「これって、さっき中知さんが言ってたやつなんですか?」

僕と山田くんは、地球上で最後にそうしたように、再び顔を見合わせた。が、その瞬間、山田くんが僕の顔を見て、一瞬びっくりした顔をした。なんだろう、と、思ったけれど、それよりも、僕は周りを確認するのに忙しかった。

白い光が引いたと思ったとたん、僕たちの目の前には、まるで城の玉座の間のような場所が現れたのだ。いや、おそらく現れたのは、僕と山田くんだったのかもしれない。
玉座へと続く、えんじ色の絨毯、そして、白亜の壁、金で設られた数々の装飾に、見たこともないほど大きなシャンデリア。目の前の深紅の重厚なカーテンのドレープの中央に、王様と思わしき、人物が堂々と座していた。
そして、その王様が信じられないことを口にした。

「おお、その赤いペンダントはまさしく、勇者の証。ようこそ、ユクレシアへ、異世界の勇者殿。驚かないで聞いて欲しい。どうか、この世界を救ってはくれないだろうか」

僕は思わず、山田くんの持っているペンダントを二度見してしまった。
まさか本当にあのペンダントが勇者召喚に関わっているだなんて、思わなかったのだ。いよいよこれは本当にまずかった。羽里が本物の呪物に遭遇しはじめている。僕がこうして、本当に異世界に来てしまっている間に、彼女がどこか他の異世界に召喚されてしまうかもしれない。

僕は焦った。

だが、現状、僕は山田くんと一緒に異世界にきてしまっていて、羽里のことを守ることはできそうになかった。僕は、この状況を作り出したのが妹だということも忘れ、どうしようと、目の前が真っ暗になった。

僕がそうして何も考えられなくなっていた間に、王様と山田くんの話は進み、どうやら優しい山田くんは、この世界、ユクレシアを救うを約束したようだった。
その頃ようやく意識が戻ってきた僕は、ふと、王様の前に並んでいる人たちが目に入った。魔法使いのような黒いローブを来た青年、そして、戦士職かなと思わしきたくましい青年、そして、僧侶のような白いローブを着た青年が並んでいたのだ。おそらく、これは勇者パーティとして、王様が集めた人たちなのかもしれない、という予測は簡単にたった。そして、ここに、山田くんが加わるのか…と思ったとき、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。そんな、まさか、ありえない。まさか、山田くん…

(ハーレムパーティ…だと…)

妹に汚染され、腐りきった僕の頭は、カシャンカシャンカシャンチーンと、昔のレジのような音を出し、一瞬で『総受け』という恐ろしい答えを叩き出した。僕の頭の中に、おそろしい絵面が浮かびかけたが、ぼやっとモザイクをかけて、なんとか踏みとどまった。僕は未成年なのだ。

いや、待て、ちゃんと考えてみよう。

そうだ。僕たちは未成年だ。総受けなんていう恐ろしく危険な状態にはならないはずだ。あって、ほのぼのとした総愛され、な、はずだ。若干、苦し紛れの、ただの僕の希望ではあった。R18の小説に、平気で高校生が出てくるという事実を、僕はなかったことにした。
僕は、ほっと胸を撫で下ろした。
そして、冷静になった僕は、同じような状況から始まる、昨日の妹のやっていたゲームを思い出して、再び恐ろしい事実に気がついた。

(待て。ユクレシアだって?!『煌星の勇者ーユクレシア物語ー』の?)

僕は改めて、そのパーティメンバーと思わしき人物を見返して見たのだ。そして、長い銀髪に水色の瞳の僧侶に目を止める。羽里が、言っていたのを思い出したのだ。

ーーー私は断然、僧侶派だなあーーー

そして、僕は目を丸くして、山田くんを見た。
そして、無意識に、不躾にも山田くんの尻も確認してしまった。腕の筋肉のつき方から、スポーツでもやっているのだろうと予測される、山田くんの引き締まった男らしい尻が、制服のパンツの下にあるのは明白だった。いや、当たり前だ。尻はある。そこにあるのだ。僕にもある。いや、違う。尻の話ではなかった。
羽里と一緒にやっていたのは、もちろん全年齢版であった。しかし、R18版も出ているゲームなのである。

(山田尻の危機!)

僕は異世界に来てしまったという驚愕の事実よりも、山田くんの尻が心配で震えた。
いや、だから、尻の話ではなかった。僧侶だ。僧侶のビジュアルを思い出し、ゲームの二次元の姿とそっくりの美しい顔を見とめ、今度こそ、本当に震えた。いや、僕は、山田くんの尻が心配なときも本気で震えていた。
よくよく見れば僧侶だけではないのだ。戦士も魔術師もビジュアルがそっくりだ。
嫌な汗がつーっと頬をつたった。

本当に、本当にここがユクレシア物語の舞台であるというのなら、このまま行くと、山田くんは、僧侶に大人の色気で迫られるか、戦士に優しく迫られるか、魔術師にツンデレ気味に迫られるか、後から出てくるシークに悪い感じで迫られるか、なんかして、その恐ろしい四択の後、ハッピーエンドを迎えてしまう。

全年齢版ではもちろん描写はない、だが、R18版では、ーーーと、そこまで考えて、僕はあまりの恐ろしさに、山田くんの顔が見れなくなった。だけど、心配すぎて、山田くんの方を向くのはやめられず。王様が話しているというのに、ただただそこにある、男らしい尻を凝視してしまった。

(この尻の危機!)

が、僕が震えている間に、その僧侶を含む、パーティーメンバーと思わしき人物たちが近づいてきた。どうやら、王様の話は終わり、実際に交流の段階になってしまったようだった。
そのとき、尻のことしか考えていなかった僕は、重大な事実に気がついた。いや、もちろん、尻も重大であるのだが、もっと根本的なことだった。そもそも、ーーー

(あれ、…どうなるんだ??)


←↓←↑→↓←↑→↓←↑→


「魔術師は、俺がいるからいらないって言っているんだ!」

とりあえず王城の一室に集められた僕たちの目の前で、薄茶色の髪に、薄紫の瞳の、魔術師の男が叫んだ。黙っていれば王子様のように見える彼が、今は、猫目をつり上げて怒っている。
あの後、ステータスを確認したところ、山田くんのステータスには、本当に『勇者』と表示されていて、僕は驚いてしまった。そして山田くんは、その薄紫の瞳の男、ーーー魔術師のヒューに、負けじと言い返した。

「魔王を倒す旅に出るのはいいけど、絶対に乃有さんも一緒じゃないとだめだ!」

山田くんはなんていい奴なんだろう、と、僕は思った。
僕は自分のステータスを見てみたのだ。そこには『巻き込まれた一般人』と書かれていたのだ。羽里がよく読んでいるBL小説やラノベでよくあるステータスに愕然とし、一緒にやっていたユクレシア物語のゲームを思い出し、これから本当に魔王を倒しに行くのかと、その奇想天外すぎる状況に、僕は、くらっと倒れそうになった。
そんな僕にも一応、よくある固有魔法みたいなものも、あるにはあったのだ。だが、全く使えそうにない魔法で、僕がもし勇者パーティを構成するんだとしたら、ペッと真っ先に置いていく人材だった。

それが今の僕の状態である。

そう、本来だったら、町にでもペッと置いて行ってもらったほうが、安心だとは思うのだ。
だが、このゲームのラストシーンで、バッドエンドを迎えた勇者が、地球に帰るという選択肢があったかもしれない、と思い出したのだ。ただ、それは羽里がそう言っているのを聞いただけで、僕は確認していない。
それでも、僕はその場にいて、もしも帰るという選択肢があるのなら、そうしたいと思うのだ。
なぜなら、一刻も早く、地球に戻り、妹の安否を確認しなければならないからだ。それに、正直、一緒に来た年長者として、山田くんの安否も気になる。なんの安否かは言うまい。いや、全て含めてである。山田くんの安否だ。

しかし、魔王討伐の旅である。僕が足手まといになる可能性は高かった。

ただ、魔法適性があるようで、練習すれば使えそうな感じなのだ。それに、もしもこの異世界が、羽里が読んでいるラノベのように、ゲームの世界観と酷似していることがあるのだとすれば、僕の知識は役に立つかもしれない。魔王の弱点だって知っているのだ。様々な事象の真偽は、旅の途中に確認しながら進まないといけないということは、重々承知の上だが。
だから魔術師として同行するのはどうかと、思ったのだ。

だが、勇者パーティとして、僕たちを召喚した王国が準備していたメンバー、先ほどの魔術師のヒューの大反対を受けている。僧侶のシルヴァンと、戦士のオーランドは、困った顔で笑っているだけだ。本来ゲームなら、このパーティに、途中からシーフのクレイが加わるのだが、それはまだわからない。

とにかく、今はヒューである。

先ほどから、山田くんとものすごい勢いで言い合っているが、一向に折れてくれる気配がない。このままでは、勇者パーティが出発することもできないのだ。僕はおろおろしながら、どうしようと思っていると、僕のことをキッと睨みながら、ヒューが言った。

「お前のことだぞ!なんか言ったらどうなんだ。」

僕の体がビクッと震えた。
もとより、友達がほぼゼロな、コミュ障である。家族と以外、ろくに話したこともない僕は、人の悪意に正直弱い。前髪を伸ばしているのだって、昔、そばかすを笑われたことがあるからなのだ。
たかがそばかすと思うかもしれない。だが、それがあるものにとっては、されどそばかすなのだ。大体その『そばかす』という言われようを考えて欲しい。蕎麦のカスである。せめて何故、『蕎麦殻』と言うのではいけないのか。一応、枕にだってできる。想像してみて欲しい。カスを顔に散りばめている人の気持ちを。
いや、今は僕の気持ちを語っている場合ではなかった。
そう、とにかく僕は、そのせいで、顔の半分ほどを前髪で隠すほどのコミュ障なのだ。いつもなら、尻尾をくるくるくるっと勢いよく巻いて、とっとと逃げ出してしまいたいところだ。しかし、僕も今回ばかりは、譲れなかった。

僕は覚悟を決めた。

そして、ヒューに近づいていく。ヒューが「なんだよ」と、若干焦ったような声を出したが、構わず近づく。そして、耳元でこっそり囁いた。

「女の子とドーナツ」

ヒューは目を見開いて、バッと僕を振り返った。僕はできるだけ、余裕があるように見えるといいな、と思いながら、ふふんと笑ってみせたのだ。どうやら、ゲームのキャラクターとプロフィールは同じだと、思ってもいいかもしれない。

ヒューは、勇者パーティーの中で、一番、勇者と歳が近い、ーーーと考えて、あ、僕と同じ歳だ、と気がついた。シルヴァンは二十一歳、オーランドは十九歳だったはずなのだ。他の二人に比べても、若干顔立ちに、幼なさが残っている。

魔術師一家に生まれ、幼い頃から天才魔術師の名前を恣にしてきた。そのせいで、小さい頃から、女の子にキャーキャー囲まれていたせいで、女の子が苦手なのだ。
そして、ドーナツを見ると、燃やしてしまうほど、大嫌いという設定だった。

ドーナツを見ると、何故穴が空いているんだということを、小一時間考え、最終的に恐怖するらしい。どういう思考回路なのかは、甚だ疑問だ。だとすると、ちくわも嫌いなんじゃないかと僕は思う。おそらく、異世界には、ちくわはないんだろう。
プライドが高く、いじっぱりで、気が強いため、その弱点は誰にもバレないように、ふるまっている。
だから、僕の一言は効いたはずだった。ぱちぱちと、気の強そうな瞳をまあるくして瞬かせているヒューに、僕は、尋ねずに、断言した。

「僕も、一緒に行くからね」

こうして、怒りにぷるぷる震えているヒューをなんとか丸めこみ、山田くんと僕たちの旅は始まることになったのだった。

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