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4. と、俺。
88 閑話:数刻前
しおりを挟む「全面、戦争じゃああああ」
ドゴーンと言う、大きな爆発音と共に、チェルシーが両手に持ったバズーカを、空に向かってぶっ放した。
ぶわっと彼女の真紅のドレスが爆風に靡き、金色のツインテールが飛ぶように空に立ち上った。
俺は新しく渡された銃を構えて、そのまま、夜の帳の中を、一気に駆け抜けた。体に様々な花をつけたベスィの心臓辺りにズキューンと銃を放てば、夜空に、色とりどりの花びらが舞った。隣では、ネルの剣みたいに、青白く光る鞭を振り回す、特殊警務課の人がいて、その鞭に絡め取られて、体勢を崩したベスィたちを片っぱしから、心臓を撃ち抜いていく。
夜空に吸い込まれるように消える花びらを、霊送の光を追えば、向こうの方では、四階建てのフラットくらいの高さのピエロに向かって、数人が大きく跳ぶのが見えた。
普段は買い物客で賑わっている、リージェンシーストリートは、今は警務官によって閉鎖され、今や、妖怪大戦争の真っ最中だった。
あの後、――実家で呆然としている僕を、警務官の人が、呼びに来たのだ。そして、集められたのはリージェンシーストリートだった。突然の展開に、え? え? と、首を傾げていたら、僕を見つけたチェルシーに言われた。
「ソーマ。タイミングが来たわ。ネルがフリティラリアに捕まった」
「え、えええ! た、大変だ。お、俺が、……そうだ、俺が置いてったから!」
「いや、それはもういい。ちょっとタイミングが早まっただけよ。とにかくあなたと私は、建物の中のことがわかってるから、外のことは任せて、中に進むわよ!」
「え? ……どういう?」
ネルが捕まったと聞いて、臓腑が凍りついた。もう俺は、色んなことを思い出していた。あんなに暗いネルのことだ。しかも、俺が傷つけた。放っておいたら、何回だって死のうとするに違いなかった。
(そんなの、だめだ! 早く、早く助けに行かないと!)
――そして、チェルシーは、バズーカをぶっ放したのだ。
一体、建物の中がどうなっているのかは、わからない。だけど、チェルシーが何かのタイミングだと言うのだから、特殊警務課は何かしらの作戦を考えていたに違いないのだ。今朝は、早くからみんな競馬場でベスィを見張っていたというのに、信じられないほど俊敏な動きで、皆が一様にベスィと戦い、そして、建物の中を目指していた。
暗い夜空に、多分、ザカリーさんが操っている通蝶が舞い、そして、霊送されたベスィの光が空に立ち上っていた。その中で、蒼白いお札のようなものを何枚も加えたカラスが、――スパロウ課長が、何か呪文をぶつぶつと唱え、そして、「急急如律令!」と、聞いたこともない言葉で、大きく叫んだ。人の形に変化した札は、禿のように踊り回っているように見えたベスィ数人に貼りつき、一気に地面へと這いつくばらせた。
それぞれのベスィには、星型の奇妙なマークが炎で刻印され、いつの間にか、そのベスィたちは消えて霊送されていった。
(す、すごい……みんな、すごい……)
ドガーンと再びバズーカの音が響き渡り、一体どうやったのか、大きな門の上に跳んだチェルシーがガンッと門を蹴り飛ばし、門が、外れた。門が、――外れた。蹴り飛ばしただけで。思わず、ビクウッと体を震わせてしまったが、すぐさま呼ばれて、ハッと我に帰り、俺も走り出した。
「こっちよ! ソーマ!」
走り出す、チェルシーとその周りにいた警務官らしき人たち、それに続く僕の後ろ、空を飛ぶ課長から「三階だ!」と言う声が聞こえた。
ベスィは大方、外に出払っているのか、ベスィたちのいない建物の中を走り抜け、三階までの階段を駆け上る。このだだっ広い建物の中は、本当に迷路のようで、潜入していなければ、きっと、わからなかったと思うのだ。
チェルシーと僕は、迷わず最短ルートを選び、三階へと辿り着く。
きっと、あの時、イーライが曲がってきた角、あの辺りのどこかの部屋に違いない。そう思ったその瞬間、――。
とある一つの扉から、蒼白い光が漏れていることに気がついた。
「まずい! チェルシーあの光は、なんかの実験かもしれない……!」
「大丈夫。大丈夫よ、ソーマ。課長に聞いたのよ。あなたのお姉様を信じなさい。しっかり、私たちはしっかり間に合うわ!」
走りながら、キラキラとした瞳でそう言うチェルシーの、言葉の意味は、全く意味がわからなかった。
それでも、姉さんを信じろと言うのなら、それだけは、任せてくれ、と力強く頷くことができる。俺の自慢の姉さんだ。姉さんが考えた何かに、チェルシーたちが乗っかっているのだと言うのなら、俺はそれを完全に信じることができる。そう、思った。
部屋の中から、嬉しそうな声が聞こえた。
「ネル~! ようやくだね! ようやく、長年の夢が叶うよ! 見てて!」
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