【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
78 / 92
3. と、はぐれる

78 ソフィア・オルディスの日記01

しおりを挟む


 ソーマ! よく見つけたわね?! あなたがこれを読んでるってことは、色々なんかあったんだろうけど、まあ、気負わずに、姉の日記をよく読んで、元気に『恋愛』に生きてちょうだい。はじまりは、――父さんと母さんが死んでから、少し経った後の、夜だった、――

「だ、大丈夫? ソーマ。眠れないのね」
「……ごめん、姉さん。起こしちゃった?」

 両親が死んでから、ソーマは、夜中にうなされて起きてしまうようで、日に日に憔悴していった。私に、迷惑をかけちゃいけないって思ってるみたいで、必死に、大丈夫だって言う健気な姿に、私は、ものすごく萌えていた。だけど、当たり前だけど、心配だった。
 父さんと母さんのことは、もちろん、私も悲しかったし、辛かった。それに、これから幼い弟を育てて行かないといけないっていうプレッシャーも、もちろんあった。でも、それでも、もう職もあった自分は、恵まれていた。
 両親の人望もあって、助けてくれる人はたくさんいたし、家もあったし、遺産もまあまあ、あったから。ソーマが心配しなくちゃいけないほどの心配は、何もなかった。
 だけど、その日、――眠れない弟が、ふらふらと夜中に徘徊しているのを見て、つい、先日読んだ本に書いてあったことを、試してしまったのだ。それが、――私とソーマの運命の転換点だった。

「あなたは~だんだん~眠く~なる~」
「あははっ 姉さん、何それ。声裏返ってんだけど」

 私は、母さんの形見の指輪に、細い紐をつけて、弟の前でゆらゆらと振っていた。自分でも何やってるんだろ、と、正直思ったけど、弟のかわいい笑い声に癒された。そう、両親がいなくなってしまったことは不幸だった。だけど、残されたソーマまで不幸になってはいけないのだと、私は思っていた。
 昔から、年の離れた弟のことを、天使だと思っていた。
 もちろんだんだん男の子っぽくなってく姿に、天使ではなくて、いつか大天使になるのかな、くらいの心境の変化はあったが、とにかく、弟の幸せは、私の中で、一番の優先事項だった。その弟が、眠れないのだから、やれることは、試すのだ。

「ほら、よく見て。ソーマ。だんだん~ねむーくなる~なんだろ、私が寝そうだな」
「ふふっ……ふっ……」
「え? あれ!? 嘘! ソーマ? 嘘、寝た? やるじゃないの! この本」

 そして、そこで止めておけばよかったのかもしれないが、私はそのまま、続けてしまった。弟が、幸せな夢を見られたらいいと、思ったのだ。パラパラと本をめくりながら、目当ての項目を開いた。

「あなたが~一番~幸せな時を~思い出してください~ あたたかな時を~~」

 ソーマが、夢の中でくらいは、父と母に会えるといいなと、願ってしまったのだ。優しい父と優しい母だった。二人とも研究職だから、どこかこだわりが強いところはあったけど、それでも、あたたかな家庭だった。まだ弟は幼いのだ。夢の中だけでも、安心して、それで、朝までゆっくり眠ってくれたらと、思った。
 私が見つけた本には、素人はやらないで下さいと大きく注意書きが書かれていたが、正直、なら売るな、とツッコミを入れて、私は迷わず、やった。
 ふわっと、眠ってしまったソーマが、幸せそうに笑って、私はそれを見て、幸せいっぱいだった。
 本当は、夢を見ている人には話しかけてはいけないのだ。それでも、幸せそうな弟を見て、つい、話しかけてしまった。
 だけど、――

「父さんと、母さんに、会えた?」
「ううん。ネルに、――ネルに会えたよ」
「………………え、誰」
「好きな人。俺が、一番、……好きな人」

 その言葉を聞いて、私は動きを止めた。
 私が知らない間に、どこのどいつか知らないが、うちの天使に手をかけた奴がいるのか? と、静かな怒りに震えた。ネル……というのは誰だろう。弟から、一度だってそんな名前を聞いたことはない。そもそも、一番幸せな時の中にいるはずの弟の夢に、何故「姉さん」が出てこないのか! と、憤る。でも、今は、それどころではない。
 明らかに男の名前であるそれに、少し焦る。せめて、学校の同級生であれば、すぐに誰だかわかるのだ。私はさらに質問を続けた。

「ネルくんは、学校の同級生?」
「ううん。大きなお屋敷に住んでる貴族。いつも一人で、木陰で本を読んでる」

 私は愕然とした。
 平民であるうちの家族が、貴族に関わることはほぼない。いつも一人で、木陰で本を読んでいる、貴族……そいつと一緒にいる時が、弟の幸せだと言うのだろうか。内臓が凍ってしまったかのように、ぎゅっと縮こまった。
 私は、理解した。

「――――――変質者だ」

しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
↓↓更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ↓↓
感想 6

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

処理中です...