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3. と、はぐれる

71 庭師と坊ちゃん ※

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 ふわふわと、俺の頭を撫でているのは、誰の手だろう。
 ずっと知っているような、ずっと好きだった人なような、そんな気がするのだから、これはきっと『ネル』の手で、これはまた『俺』の夢なんだろうな、と、思う。さらさらと、髪を撫でている手を感じながら、俺の前にある温もりに、抱きついた。
 知っている爽やかな匂いが、広がる。好きな人の、匂い。『ネル』の、匂い。
 ゆっくりと瞼を上げながら、尋ねる。

「俺、寝てた?」
「うん。ぐっすり寝てたよ。どうしたの?」
「ああ、さっき――や、奴らが出て、そうだ。奴らが出て……」

 そうだった、と思い出した。奴らが出て、必死で戦って、それで、疲れて芝生の上で昼寝しようと思っていたのだ。先代のご当主様が愛していらっしゃった薔薇園。今、住んでいる人たちは茶会でもない限り、庭のこんな奥まったところまで来る奴なんて、いない。誰にも見つからない、俺の休息の場所。だけど、あっさりとネルには見つかったみたいだった。
 隣で横になって、俺のことを抱きしめているネルは、くすくすと笑いながら、言った。

「奴らって、また? あはは、庭師なんてしてるくせに、本当に変なの」
「違う! 庭師をしてるから、奴らが嫌いなだけだ」
「今日はどんな虫と戦ってたの?」
「キラガ…………思い出したくもない」

 ネルは呑気な声を出しながら、「ガね。あれか、幼虫が群れてるの見ると、燃やしたくなるって言ってたやつ」と言って、それを聞いただけで、ぞわぞわっと背筋を悪寒が走った。どうして奴らは群れるのだろうか。せめて一匹ずつで行動をしてくれていれば、もう少し、気持ち悪さも半減すると言うのに。だが、庭師的見地から考えてみるのならば、一枚の葉に群がってくれている方が、確かに駆除は楽ではある。
 だけど、そのビジュアルがどうしても受け入れられないのだ。
 オイルムシは群れてるのを見ても、イラッとするだけなのに、キラガの幼虫はだめだ。他にもいろんな理由で、嫌いな虫がたくさんいる。ぐうっと眉間に皺を寄せ、思い出してしまった映像を振り切るように、『ネル』の胸に頭を擦りつけた。

「あははっ くすぐったいから、やめてよ」
「お前が思い出させたんだから、お前も害虫と同罪だ」
「ひどい言われようだな」

 出会った時は、ぼろぼろの服を着てばかりいたネルも、いまや二十代も半ばになって、本当に美しい青年になっていた。
 相変わらず、髪は雑に束ねられたままだったけど、それでも、着ている服は、それなりに、貴族の部屋着のように見える。俺とは、違う。貴族の、美しい青年だ。ご令嬢からも、引く手数多だろうに……と、思う。

(何が楽しくて、俺みたいな、小汚い庭師と一緒にいるんだろう……とか)

 そんなことを考えてしまう時もあるけど、ネルの顔を見れば、いつだって安心してしまう。大切に、してくれている。すごく、すごく、愛してくれている。平民だと言うのに、そんな自信が持ててしまうほど、ネルは、俺のことを大切にしてくれている。
 ネルも休憩なんだろうか、いつものように、片手に難しい本が傍らに置いてあるのがわかった。だけど、何だかいつもよりも、ピリピリしているような、そんな、気がした。

「なんかあった?」
「…………すごいな。すぐに、バレちゃうね」
「何」
「なんか屋敷の連中の動きがおかしい。この家に資金が集まりすぎてる。それに……」

 ネルの住んでいるこの家は、ハミルトン家という家は、由緒正しい侯爵家だ。ネルはそこの息子で、だけど、親も、他の奴らも、みんな頭がおかしい。ネルに雑用とか領地経営は丸投げで、毎晩、怪しい儀式をしていて、人が集まってきている。
 生まれた時から、こんな頭のおかしい家に住んでいるのだから、当然ネルも頭がおかしいのだと、当初、思っていた。だけど、ネルは、幼い頃から家のことを管理していたせいか、それとも、よく本を読んでいるからなのか、何かがオカシイということは、常に思っていたみたいだった。
 そのネルがさらに「おかしい」と言うのだから、それはきっと、よくないことだ。
 何かよくないことが、起きているのだ。

「なんか、うちの地下に…………たくさんの人の気配がする」
「え……何それ。すごい怖いんだけど」
「でもどこだかわからないんだ。僕の知らない部屋が、あるのかもしれない」
「え……何それ。すごい怖いんだけどッ!」

 その恐ろしい事態を聞いて、もうこの家で働くのをやめたい! と、胃がギリギリと、痛んだ。
 よくよく見てみれば、ネルの瞳の下に、ひどい隈ができていることに気がついた。肌もかさついているし、心なしか頬もげっそりしているような、そんな、気がする。もしかしたら、俺が思う以上にまずい状況なのかもしれなかった。
 でも、――俺には、平民で、ただ庭の小屋に住んで、庭師をしているだけの俺には、――ネルのことを助ける術は、何一つ、なかった。
 どうしよう、と思いながら、でも、何も思いつかなくて、ただ、目の前の温もりと離れたくなくて、ぺたっとネルの心臓に頬を寄せた。

「大丈夫だよ。君のことは、僕がどうにかするから」

 頭をポンポンと叩かれ、いつものように、優しげな笑顔を向けられた。
 俺は、ネルの、このこぼれてしまったみたいな、優しい笑い方が、好きだった。自分が何もできないことが、歯痒い。いつも、守られる立場なことが、辛い。俺にできることは、何があるだろうか。そう考えても、学もない、庭のことしか知らない、俺には何も、できることがないのだ。
 そう言ってくれるネルの言葉は、とても頼りになる。だけど、同時に、頼りにならない自分の無力さを、思う。
 だけど、――今日のネルは。

「逃げちゃおっか」
「え?」
「もう、どこか、すごい――遠くまで……」

 なんだか、様子がおかしいってことは、わかっていた。
 俺には言わないけど、儚いような、消えてしまいそうな、そんな雰囲気があった。もしかしたら、隈の原因なのかもしれない。
 俺の背中にまわされた手が、ぎゅうっと離したくないみたいに、俺のことを掻き抱いた。俯いたネルの表情は見えなくて、どんな顔をしているのか、わからなかった。それでも、幸せな顔をしていないことは、明らかだった。
 抱きしめられている隙間から、手をこそっと伸ばして、指先で、薄茶色の髪を退けた。

「また、目隠し。ネルは俯くと、すぐに、目が隠れちゃうな。結んだのに」
「……うん」

 覗いたのは、不安気に揺れる空色。バレたくなかったのか、ネルは、すぐに、目線を逸らした。
 どうしようかな、と思って、小さい頃、いつも親父が言ってくれていた言葉を、ネルにも教えてあげることにした。ただの気休めでしかないけど、そんな言葉が、欲しい時だって、ある。……いや、わからない。俺は、そう思うってだけで。

「ネル。目を開けたらさ、怖いことがあるかもしれない」
「…………」
「それでも、───側には、俺がずっといるよ。目を開けないと、何も見えないから」

 ネルの瞳が、慈しむように俺に向けられて、自分で言った言葉なのに、すごく恥ずかしくなった。だけど、ぎゅうっとまた強く抱きしめられて、顔が隠れてほっとした。でも、なんだか、切なげな、苦しげな、ネルの言葉が降ってきて、やっぱり今日は変だと思う。

「僕は、君がいなくなっちゃったら、きっと、だめだ」
「なんか、そんな感じだな」

 そう返すと、ネルが「えー」と、不満げな声を出した。なんて答えて欲しかったのかは知らないけど、ネルは本当に、そんな感じだ。なんでかはわからないけど、この貴族の坊ちゃんは、出会ってしばらくした時からずっと、俺のことが好きなのだ。俺の何が、そんなに良かったのかは、よく、わからない。母さん似で、ちょっと女っぽい、そこそこ小綺麗な顔をしているのは知ってるが、ネルみたいな、芸術品みたいな顔をしてるってわけではない。
 性格だって、大雑把だし、怖がりだし、そんなに、いいとこがあるとも思えないけど、ネルは俺のことが好きなのだ。
 それは最近、少し、大きくなりすぎているような、そんな気がしないこともない。

「キス、したい」
「えー?」
「……抱いても、いい?」
「今?? ここで? って、んっ」

 本当に、今日はどうしたって言うんだろう。疑問を言い終わるかどうかといううちに、唇を塞がれる。珍しく、かさついた感触が触れて、体調も悪いんじゃないかと思うのだ。心配だけど、でも、そのまま、口内を貪られて、体は、すぐに反応してしまった。
 ネルの、キス。
 ゆっくり、れろっと舌を絡められる。賢くて、なんでもすぐに学んでしまうこの坊ちゃんは、俺の弱いところなんて、もう出会った頃から、知り尽くしている。それに、こんなことをするような関係になって、さらに、もっと気持ちいい場所がたくさんあるってことを知った。

「んっはあ」

 昼下がりの、庭の、木陰の下に、淫靡な雰囲気が、広がっていく。俺の口から漏れた艶かしい吐息は、木々のざわめく音と、小鳥の囀りの中に消える。舌と、舌が、触れ合う。呼吸器官を相手に委ねている感覚は、普段さらけ出している部分でこんなにも深く繋がる感覚は、いつだって、淫らな気分にさせるのだ。

(……好き……ネルのキス)

 ちゅ、ちゅ、と濡れた音が響く。
 それが、俺と、ネルの唾液が、混ざり合ってる音だなんて、滾る。深く交わりながら、指を絡められ、体を起こされた。ネルも、体を起こして、それから座ると、キスの合間に、にこっと笑いながら、俺に言った。

「背中、痛くなっちゃうでしょ。乗って」
「……うん」

 俺は、どんな顔をしてるだろう。まさか、昼間の庭で、こんなことをするなんて、はじめてで、それは、本当は、やめた方がいいことだった、はずだった。俺は庭師で、ネルは貴族の坊ちゃんで。今までだって、細心の注意を払って、逢瀬を重ねていたのだ。俺は、屋敷の中になんて、入ったこともない。ネルと会うのは、いつも、誰もが寝静まった夜だ。
 昼間に会う時は、いつだって、ただ、庭師を少し会話をしてたんだな、と思えるほどの距離で、仕事をしながらだったり、絶対に見つからなさそうな場所でこっそり、だったり。
 だけど、頭のどこかで、警告音が鳴っていたような気もするのに、だけど、愛しい人を前に、その人が、なんだか元気がない様子を見ていたら、行為を止める理性は、どこかへ行ってしまったのだ。言い訳かもしれない。ただ、ネルのことが好きで、繋がりたかっただけかも。

(俺は、育ちも悪い。それから……別に性格だって、いいわけでもない)

 じんわりと、心の中に広がる、優越感。
 それは、貴族の男が自分なんかに夢中になってくれているっていう、厭らしく、愚かな、醜い考え。
 それから、背徳感。
 バレちゃうかもって思いながら、昼間から、こんな行為に及ぶのは、快感を増幅させているような、そんな、気がした。

 そろりと、ネルの股の上に乗れば、ネルの綺麗な手が、背中から入り込んできた。俺の手とは違う、滑らかな、滑らかな、お貴族様の、手なのだ。こんな浅ましい俺のことを知ったら、ネルは、俺のことを嫌いになってしまうんじゃないかと、思う。
 でも、止まらない。
 ネルの頬を両手で掴んで、上を向かせ、自ら、舌を絡める。熱い舌が触れて、深く、もっと、深く。自分の腰をネルの腹に押し付けるように動かして、誘ってみる。ネルが困ったように笑って、「えっち」と言った。そう、俺は、気持ちいいこと、すごく好きだ。
 ネルのしてくれること、全部、好きだよって、いつも思ってる。
 そっと布越しに、ネルの手が触れ、ゆっくりと擦られる。もう、元気いっぱいになってしまっている俺のペニスの、形がすぐに浮かび上がってしまう。ネルの手が動くのに合わせて、腰をゆっくり動かす。尻に硬いものが当たっていて、それも、俺のことをすごく、すごく、興奮させた。いつの間にか、ネルの手に擦りつけて、ガクガクと腰を揺らしていた。

「気持ちいいっ ネル」
「……もう、本当に、……困る」
「あ、あんっ なんで、? 好き、だろ?」
「好きだから、困る」

 その、本当に困ったみたいに笑うネルの笑顔も、好き。優しく触る手も、その空色の瞳に浮かぶ欲情も、全部、大好きだった。
 いつの間に外されたのか、はらりとシャツの前が開いて、ツンと主張している胸の尖りを舐められる。そのまま、舌で転がされ、押しつぶされ、ちゅぷ、ちゅぷと、やらしい音がした。体が、震える。全身が性器にでも、なってしまった、みたい。

 俺も、ネルの服のボタンを外して、体を触りながら、カチャカチャと、ネルのベルトを外した。中から、ぶるんと、勢いよく出た、ネルの昂りを見て、思わず、にやっと笑ってしまう。自分のガサガサの指先で触るのは気が引けて、指の外側で、そっと撫で上げた。
 ぴくっと震えたネルの眉間に、皺が寄る。その、切なげな表情に、ドキッとする。

「欲しい。早く、入れて」
「……っっ、もう、ほんと、困るから。慣らさないと」

 いつの間にか、ベルトが外されていたのか、後ろからネルの指先が滑り込んできた。もう、何度も、何度もしている俺の尻は、女みたいに、少しだけ濡れる。それは、ネルのことを受け入れたくて仕方ない、俺のはしたない体の、仕様。
 でも、ネルは絶対に乱暴なことはしない。ポケットから小さな香油の瓶を取り出して、手に塗りつけられる。そして、つぷつぷと、解されていく。

「ネルこそ。こんなの持ち歩いて、……えっちだ」
「だって、今日なんか、したかったから」
「あっ んんっ」

 別に、俺だって、最初からこんなに、求めていたわけじゃないのだ。
 でも、ネルのことを好きになったら、大好きになってしまったら、この関係が、いつまで続くのかわからなくて、その不安で、どうしても、体で繋がると、安心するようになった。愛されているってわかる行為に、溺れて行った。
 しばらく、ネルに抱き着いたまま、体を震わせていた。気持ちいいところを、最高に気持ちいようにかき回されて、ネルの肩口に、涎が染みていった。下穿きを全部取られて、「入れるよ」と、小さく耳元で囁かれて、こくこくと頷いた。

「ああああっ はあっ ね、ネル」
「んー? あー、気持ちい。はあ、ずっと、こうしてたい」
「ん、俺も、す、あっ 好き、んー」

 よくはわからないけど、多分、ネルにだって、背徳感みたいなのは、あるはずだった。
 小汚い庭師と交わってる自分に、酔う時だってあったんじゃないかと、思う。だって、こんな隠れて、二人だけの秘密みたいな、濃密な、いかがわしい情事、溺れちゃうよね、と、俺は思う。
 ネルの硬いペニスが、浅いところから、一番奥の、奥まで、舐めるように撫で上げた。手で腰を支えられて、俺も、自分で腰を振って、俺のペニスから垂れた透明な液が、ネルのお腹を濡らしていく。

「ああんっ ね、ネル」
「声、もう少し、押さえないと」
「んっ あ、ふ、塞いでて。出ちゃう、からっ」
「うん」

 ネルの唇が俺の唇を塞ぎ、俺の快感すらも、全部、飲み込まれていく。口の中で、堰止まったその快感を、舌でかき混ぜられて、また、倍になって戻ってくる。上からも、下からも、侵されて、興奮して、ガクガクと体が震えた。

(気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい)

 頭がおかしくなる。好きで、好きで、好きな人と繋がっている自分が嬉しくて、大好きで、大好きで、目の前にいる愛しい存在と、もっと、もっと絡まりたくて、仕方がなかった。頭はバカになったみたいに、ただ、好きということしか考えられなくて、手を繋いで、それで抱きしめて、内壁は、きゅんきゅんネルのペニスを締めつけた。
 そっと、前に回ったネルの指がペニスに絡みついた。そんなことされて、俺の体が持つわけはなかった。

「んんんーーっ!」

 体が反り返りそうになるところを、どうにかネルとキスしたまま、絶頂に達した。でも、達したばかりのペニスをぐりぐりと虐められて、
「ひっ」と悲鳴を上げた。「あ、あ、あ、あ、」と、断続的に声が漏れる。ぎゅううっと締めつけた拍子に、自分の中にあるネルの存在を感じてしまい、ビクッと体が跳ねた。そして、――俺のペニスから、ぷしゅっと何かが吹き出したのがわかった。その吹き出す、透明な液体に、羞恥よりも先に、過ぎた快感に支配されて、目を見開く。涙がぽろっと溢れた。
 背中を支えているネルの手に、全部の体重をかけて、反り返り、ビクッビクッと、大きく痙攣したまま、固まった。
 体の中に、じんわりと、広がっていくネルの熱を感じて、ふわっと優しい気持ちにも、なった。
 でも、意地悪なことを尋ねられて、むっとする。

「気持ちよかった?」
「…………」
「外、好きなんだね」

 そんな言い方しなくてもいいと思った。ネルだって、自分だって、いつもより興奮してたくせに、と、思う。気持ちよくて、気持ちよくて、気持ちよかった。ぐったりと、ネルの肩口に頬を乗せ、しばらく、ぴくっぴくっと敏感な体が震えていた。
 でも、少しだけ、落ち着いて、息が整ったら、ネルに、尋ねてみたのだ。

「逃げたいの?」

 ネルは、何も、言わなかった。無力な俺には、言えないのかな、と、少しだけ、胸が痛んだ。でも、――俺は無力でも、ネルがして欲しいことは、してあげられる存在でいたいと、思うのだ。

「いいよ、逃げよう。俺は手に職もあるし、お前も、いろんな知識があるし、どうにかなるよ」
「…………」
「どうにか、しよう! な?」
「………………うん。そうだね、うん。ありがとう」

 覗いたネルの顔は、ちょっとだけ、泣きそうな感じだった。それで、やっぱり、何かが限界だったんだって、そう思った。体を拭って、俺は、自分の生活している小屋に戻る。それから、ネルは、執務室へと戻って行くことになった。

「じゃあ、ここに。今夜、20時に」
「わかった」

 親父と過ごしてきた小屋に戻り、思う。これから先は、多分、大変な人生になるんだろう。俺は、貴族の坊ちゃんを唆した平民の淫売だ。見つかれば、俺はただじゃ済まないだろうな、と思う。最低限なものを鞄に入れ、親父の遺した物の中から、銃を取り出して、それも詰めた。
 少し、顔を洗って考えようと思って、流しの方へ歩いて行く。バシャバシャと勢いよく顔を洗い、そして、鏡に映った俺を、見た。
 次の瞬間、――。
 後ろから、頭に、すごい衝撃を感じた。ぐらっと体が傾き、意識がどこかへ飛ばされてしまったかのような、感覚。そして、床に倒れ込む。倒れたところから、誰かが立っているのが、――薄茶色の髪に、空色の瞳が、見えた。

(…………え? …………ネル?)

 そう、思いながら、俺の意識は、途切れた。

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