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2. と、暮らす
59 オカシナ夢
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ネルの家の、俺の部屋。夜中、ベッドの前で、立ち尽くす。
今日も今日とて、レンツェルの動向を調べたり、競馬場周辺の調査をして、くたくたになって帰ってきた後だ。温かな風呂に入ってほかほかになる、だなんていう贅沢な暮らしをしているというのに、ベッドに入ることを、躊躇しているのには、訳がある。
あの日、──ネルと寝てしまったらしい夜から、俺は変な夢を見るようになっていた。
理由はわからない。ただ、俺は『ソーマ』と呼ばれているのに、全く違う人間なようで、それでいて、何故か、その夢には今と全く見た目の変わらない『ネル』と呼ばれるネルが出てくるのだ。だけどそれは、今の俺たちの関係とは全く違う。
二人は、──恋人同士なのである。
いや、恋人同士になる前…の夢の時もある。別に、時間順に夢が並んでいるわけではないのだ。だがどちらにしろ、どことなく、甘さを含んだ夢なのだ。そういうわけで、俺は今、ぐうっと奥歯を噛みしめたまま、ベッドを睨んで立ち尽くしている。
別に今日もその夢を見るとは限らない。だが、夢は願望だと、どこかで聞いたことがある。毎日毎日、朝から晩まで顔をつき合わせているというのに、夢にまで出てこられては、敵わない。麗しい乙女が恋しい男性を夢見るのなら、可愛げもある。だが、見てるのは俺で、相手はネルだ。眉間に深い皺が寄る。そして、素直な感想が思わず漏れる。
「きもちわる……」
そんなに夜に眠気を感じる方ではない。だけど、それでも寝なければ、明日の体力が持たないことは明白だ。いや、眠らなかったことがあまりないので、持たないかどうかってことはわからないが。ぐうっと再度奥歯を噛みしめる。だけど、思い切って布団をバッとめくり、その中に飛び込んだ。そして願う。
「夢を見ませんように。夢を見ませんように。夢を見ませんように」
目を閉じ、必死で考えないようにするが、どうして、考えたくないことほど、頭に浮かぶのだろうか。不思議である。
頭に浮かぶのは、あの、ネルの笑顔。腹を抱えて大笑いしていた姿が、どうも引っかかっていた。
似たような誰かが古い友人の中にいただろうかと考えても、いないような気がする。あの時の既視感は一体なんだったんだ?と、ずっと不思議に思っている。あの笑顔を思い出すと、なんだか、胸の奥がむずむずするような、訳のわからない感覚になるのだ。
(こうやって……寝る前に考えるのが、余計だめなループな気がする……)
そうは思うのだが、本当に、俺の毎日はネルとべったりで、帰ってくれば顔もそんなに合わさないけど、また朝になればネルと一緒に行動をするのだ。思わず、はーっと、ため息が漏れる。
別に、前ほど嫌いというわけではない。不可解ではあるけど。その自分の心の変化はわかるのだ。
(だけど……だからって、こんな夢見るなんて終わってる)
キスとかそれ以上とか、なんだかんだでしてしまっていることが原因なのだ。きっと。「あー!」と頭を抱えるけど、本当に頭痛が嘘のようになくなるのは、すごいと思う。あの頭痛は、大概が、一晩中続くほどの激痛だ。冷静な頭で天秤にかけてみても、ほんの少し、本当にちょっとだけだけど、キスした方がいい……という結論に至る。それほどの、効果がある。
でも、この前は、――。
(キスだけでは収まらないほどの事態だったのか……っていう)
ネルが、ベスィの未練が原因なんじゃないかって言ってたことを思い出す。それが正しいことなのかはわからないけど、だとすれば、また夜勤の日があれば、同じ状態になることが考えられる。レイナの時は、頭痛だけじゃなかったんだ。それは、未練が大きかったからだ。俺は気を失うほどの状態で、もしかすると、他にも症状があったのかもしれない。
キスではなく、性交を天秤にかけるとなると、流石に気まずい……しょ、正直、それは無理だった。だと言うのに、俺はなんていう馬鹿なことを口走ってしまったんだろう……と、後悔する。
(でもきっと、やっぱりやだって謝れば、大丈夫か……)
なんの症状があって、そんなことになったのか、聞き忘れたなあ、と思う。
寝る前に、こうしてネルのことばかり考えてしまうのが、いけない。そう思ってたのに結局、俺は眠りに落ちるまで、ネルのことばっかり考えてしまったのだった。
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