【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
57 / 92
2. と、暮らす

57 ザカリーさん

しおりを挟む


「こんにちは、ザカリーです」
「え?」

 どこからともなく、静かな男の人の声が聞こえた。そして、振り返って見るが、誰もいない。
 俺たちはもうロイヤルリヴリー競馬場に到着していた。普段はレースをしている競馬場も、これから二週間はエリザベス杯の準備で、休場している。ほぼ誰もいない競馬場で、クラークさんと別れ、ネルと一緒に会場調査をしているときだった。俺は首を傾げながら、ちらっとネルの方を見たら、ネルは苦笑いだった。
 ということは、今の声は別に幻聴ではないのかな?と、きょろきょろと辺りを見回す。すると、──

「当日は通蝶で、ベスィの場所を連絡します」
「え?」

 また違う方向から声が聞こえて振り返る。だが、誰もいない。ネルは苦笑い。そして、──

「ベスィの上に通蝶を飛ばして位置を特定しますので、とにかく素早く斬りかかって下さい」
「え!」
「大きな声は出さないで下さい」

 また違う方向から声が聞こえて振り返るが、やっぱり誰もいない。ネルは苦笑いのままだ。だけど、伝えられている内容は、とても大事なことで、一体どうなってるんだ?と頭の中に疑問符を浮かべた。ベスィの位置を特定できるというのなら、当日大勢の人間がいる中でも、とても心強いことだと思った。

「そもそも、襲撃予告の有無に関わらず、私たちは出動せざるを得ませんから」
「あ、あのっ一体どこに?」
「ザカリーさん一人で、この競馬場全体をカバーするんですか?」

 見えないというのに、そのまま会話をはじめたネルを、思わず二度見する。というか、ザカリーさんって経理してくれてる人なはずじゃ…と思いつつ、でも、特殊警務課で働いてるくらいなんだから、やっぱりベスィに対して、何かしらの能力を持っているのか…とも思った。
 基本的には、チェルシーもそうだけど、多分、特殊警務課の人たちは、霊力のようなものが強くて、ベスィが視える。ネルの能力も変だけど、ザカリーさんはベスィを特定して、通蝶をつけることができるということだ。それもすごい能力だなあ…と思う。ふと、カラスになってしまった課長もかなりやばいな、と思い出したが、今は関係ないことだから、頭の中からカラスを追い出した。また、後ろから声が聞こえる。

「こんな時しか、役に立ちませんので」
「そんなことありませんよ。うちの課にザカリーさんがいなかったら、成り立ちませんからね」
「す、すごい!ハミルトンさんに、そ、そんなことを言われる日が来るなんて。信じられない。このソーマという男は、一体何者なんです?よっぽど大切な…んがっ」
「え??」

 捲し立てるようなすごい早口が聞こえたと思って、振り返った次の瞬間、ネルに足を踏まれた男の人がそこにいた。肩まで伸びっぱなしの灰色の髪に、銀縁のメガネをかけた猫背の人。年頃はネルよりは上な気がした。目の下にひどい隈があって、頬がこけていて、マッドサイエンティストってこんな感じじゃないかな、と、思うような、雰囲気。でも、コートも髪もグレーで、下に着ているセーターもグレーで、なんというか…

(ちょっと…石みたいだ…)

 そんな失礼なことを考えていたら、ザカリーさんが、踏まれた足を何事もなかったかのようにそっとネルの足の下から退けながら、こほんと咳をして、俺に向かって言った。

「失礼、取り乱しました。領収書の滞納以外でこんなに感情が制御不能になるだなんて、私としたことが。初めまして、謎の新人・ソーマくん。ザカリーです。少々人見知りなもので、君のキラキラした瞳に晒されるのが怖くて、避けておりました。が、もう大丈夫です。足が痛いですが、もう大丈夫です。足は痛いですがね。後、領収書の滞納には気をつけて下さい。月末締めで提出していただけないと、私、我を忘れてしまうのですよ」
「へ、あ…はい。はじめまして、ソーマです」
「ええ。そうでしょうね、君がソーマくんなことは重々承知しておりますよ。以前も、石膏の際に、近くで見ておりました。自ら石膏の腕の中に入り実演する姿、とても愛らしく思っておりました」
「えっ」

 愛らしく??と首を傾げるが、ネルは嫌そうな顔をしたままだ。よくわからないが、とにかく、この人がザカリーさんなのか…と、ようやく会えた他の特殊警務課の人に、ほっと安堵の息が漏れた。そしてちょっと、クラークさんの嫌そうな顔も思い出して、ちょっとだけ、笑ってしまった。

(変な奴ばっかりだし…って)

 ザカリーさんが、通蝶で知らせてくれるのであれば、俺たちが当日することは、かなりわかりやすかった。とにかく、あの光る蝶が舞っている人物を、ベスィを、手当たり次第に、瞬時に掃討すること。1つでも、被害を出してはいけないのだ。

 これは、わかりやすい、スピード勝負ということだった。

しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
↓↓更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ↓↓
感想 6

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...