【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
37 / 92
2. と、暮らす

37 呪われた庭

しおりを挟む


「家の中は、普通……」

 ここ使って、と、案内された部屋は、俺の住んでいたフラットの部屋よりも、ずっとずっと広い部屋だった。
 ベッドも机も椅子も備え付けてあって、ありがたいなと思う。今までは、俺の荷物は、ほぼ、鍵だけだったが、今回は、また作るの面倒でしょ?と言われて、ネルが枕木も運んできてくれたので、特に設置しなくてはいけないこともなく、ぼうっと庭の外を眺めていた。
 貴族のように、豪邸というわけではなく、裕福な平民の家族が、四、五人で住んでちょうどいいほどの大きさの家。大型犬が喜びそうな広い庭。こんなところに一人で住んでいるのか、と、驚く。
 ネルが一体いくら給料をもらっているのかは知らないが、二十六、七歳に見えるネルが、一人で住むには随分贅沢な場所のように思うので、もしかしたら、昔からの持ち家かもしれないなあ、と思う。だが、───。

(………ただ、庭。庭がやばい…)


 冬蔦だらけの門をくぐった辺りから、すでに異変は察知していた。庭に伸び放題になった雑草の中に、何かがぽつり、ぽつり、と設置されているのだ。そのひとつの石像のようなものを目が合い、びくっと全身を震わせてしまった。よくよく目を凝らしてみれば、木の根、雑草の影、門の横、様々な場所に、様々な種類の石像や置物がいた。そう、、という表現があっているような、そんな感覚。
 平たい顔の石像や、顔が重なった木彫の像、白目を剥いた髭の中年男性のような赤く丸い物、髑髏を象った物、獅子のようなもの、険しい顔をしたもの、大小様々な置き物が配置されていたのだ。ぎりぎりと胃が痛むことをまるっと無視して、無理矢理にでも、よく言おうとする言うならば、異国情緒のある庭と言えなくもない。だが、これは…もはや…

(呪われた神々の最果ての地…とか、呪物置き場……とか…魔女の庭)

 何がどうなって、こんなことになっているのかは知らないが、もはや、自分が鍵だらけの壁を見せたことを恥ずかしがっていたことすらも、綺麗さっぱり忘れてもいいだろう、という謎の許可が頭の中で下された。そして、恐る恐るネルの様子を見れば、───。

「え、何??」

 全く以て、なんとも思ってませんみたいな顔で振り返られた。
 鍵を見られて恥ずかしいと思っていた自分との、深い溝を感じた。俺は、常々、ネルという人間がわけのわからない奴だと思っていたが、今日、ここに来て、その謎はさらに深さを一段と増した。通常、訳のわからない奴だとしても、家とか住む場所を見れば、それなりに、掴み所のようなものがわかるのではないかと思うのだ。だが、目の前のこれは一体なんだ。

(え…なんなんだ。ネルこそが、黒百合教とか何か、なのでは…?)

 そんな、わけのわからない思考が頭に浮かぶほど、俺は怯えていた。ネルとも、この家とも、全く仲良くできる気はしなかった。尋ねていいのかということさえ、躊躇する。雑草の合間から覗く視線に、びくびくしながら、家の扉に辿り着いた。


 窓の外に広がる荒れ放題の庭。おそらくは、本来そうでないはずの場所にまで木が生えてしまっているし、蔦は窓に絡まり、部屋の中を翳らせていた。
 あの石像や呪物の数々はともあれ、本来なら、美しい庭なんじゃないかっていうそんな気がした。南東の角部屋であるこの部屋も、本当はもっと明るい部屋であるはずだった。
 ふと、庭の隅の方へ目をやれば、その庭を囲むように、やたらと生えている低木。まっ赤に紅葉してしまっていてわかりづらいけど、あのギザギザの葉は、ヒメウツギじゃないかと思うのだ。別に、庭木に詳しいというわけではない。でも、一時期、姉さんが、うちの庭に白い花を植えたいとか言い出して、うちにも植えてあったことを思い出しただけだった。

(でもあれ…冬には、枯れ枝だけの寂しい様相になるから、この庭、冬は寂しいだろうな…)

 せっかくの庭、広い部屋。だと言うのに、こんなところに住んでいたら、なんだか心が細くなって行ってしまうのではないかと思うような、寂しい秋を感じさせる部屋だった。あるいは呪われるか。それにしたって、秋には秋の彩りのある庭にすればいいのに、と思う。
 でも、南東の角部屋だ。おそらく、一番いいと思われる部屋を貸してくれるなんて、太っ腹だなあ、と思う。

(大嫌いな奴に、よくこんな対応を…)

 本当にネルは、訳のわからない奴だなと再度思った。
 ネルの話したところによれば、週に一度、掃除する者が来るらしい。この広い邸宅を週に一度の掃除で賄っているのだから、庭まで手入れが行き届かないのは、当たり前のことだった。
 開けっ放しにしていた扉を、コンコンと叩いて、ネルがひょこっと顔を出した。

「荷解き、手伝う?」
「………」
「え、なにその顔」
「……お前、ほんと、なんなの?嫌いな奴のことなんて、ほっとけよ」

 本当に意味がわからない奴だと思うのだ。
 だって、あんなに突っかかってくるのに、手を貸すようなことするだろうか。確かに、これから共同生活をする相手だ。物事が円滑に進むに越したことはない。だが、ネルと俺の間の物事は、一度だって円滑に進んだことなどないのだ。俺は、別にもう、この生活に何も期待なんてしていなかった。ただ、同じ家に住んでいるというだけで、関わらなくていいとすら、思っていたのだ。
 あれだけ口では嫌なことばかり言ってくるくせに、ネルは、俺のフラットから出る時も、しっかり引っ越しの荷造りを手伝っていた。俺の鍵を一つ一つ紙に包む作業だって、普通に考えれば、わけがわからないと一蹴すべき作業だった。でも、無言で手伝っていたのだ。
 俺はその様子を見て、静かに「え!」と驚愕していたのだ。
 ネルは「ふうん」と、目を細めて、それから言った。

「───じゃあ、ほっとくけど。今日は休み貰ってるんだ。僕が何にも手伝わなかったって、思われたらやだから、近くの商店くらいは案内するよ」

 そう言って、ネルは部屋からいなくなった。
 だけど、そっと立ち上がり、その廊下を歩く姿を、階下へと降りていく姿を、こそっと後ろから覗いてみたのだ。ネルは、俺みたいに、ドスドスと怒りに任せて大股で歩くような、そんな真似はしない。
 でも少しくらい、嫌だなと思っている兆候があって然るべきだった。たとえ課長に命令されたからと言って、商店の案内だなんて、そんなのしなくたって、俺が言わなければバレない。なんでここまで世話を焼いてくれるんだろうと不思議に思いながら、ネルの後ろ姿を見ていたら、───。

(えー……鼻歌って。……ほんと、謎)

 心なしか、足音が弾んでいるようにさえ思える。いや、これは流石に気のせいだとは思う。
 もしかしたら、それこそ本当に、俺のことを囮に、ベスィなり、吸血鬼なりに、引導を渡せると、喜び勇んでいるのだろうか、と思う。だとしたら、ネルにとって、俺はエサでしかないのだ。喜ぶほどの。

「撒き餌……?」


しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
↓↓更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ↓↓
感想 6

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...