【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊

文字の大きさ
上 下
35 / 92
2. と、暮らす

35 昨晩のはなし

しおりを挟む


「…………」
「…………」

 ネルが用意してくれた馬車に荷物を詰め込み、今、馬車で揺られている最中だった。
 本当ならば、反論したいところだったし、ネルと一緒に住むなんて、絶対に、絶対に嫌だと思っていた。でも、ネルの説明を聞いて、理解はできなかったが、状況を把握した結果だった。

 あの後、ひとしきり、わけのわからない問答をし終えた俺たちは、しばらく、二人で頭を抱えていた。だが、その後、「引っ越し??」と、驚く俺に、ネルは諦めたように、口にした。

「チェルシーが、盗聴するための魔導具を仕掛けたんだ」
「えっあ、あのクローゼットに?」
「そ。気づかれるのは時間の問題だとは思うんだよ。でも、昨晩の盗聴分が問題だった」

 あんなに切迫した状況だったというのに、流石だな、と思ったのも束の間、ネルはコートのポケットから、録音用の魔導具と見られる、小さな水晶のようなものを取り出し、そして再生した。何やら、チェルシーと俺が見た、あのベスィとレンツェルの会話らしい。ベスィの声を録音することができるのだから、この水晶は、不思議な魔導具であることは間違いなかった。しばらくは、どうでもいい会話が続いていたように思ったが、その後の一言が、『問題』だったことは、すぐにわかった。

 ──「ねえ。ここで働いてる、ソフィアって呼ばれてたメイドの子。捕まえて、連れてきて」──

 だけど、内容は、すぐに理解できずにいた。
 ソフィアと呼ばれていたメイドの子…は、俺であることに間違いはなかった。確かに、俺は、昨日、レンツェルと接触をした。そして、それは、わけのわからない接触であったことにも、間違いはなかった。だが、捕まえて、連れてきて?と、言われるほどの、粗相をしたとは思えなかった。
 俺は、メイド長に、部屋の掃除とベッドメイキングを頼まれて、それを行っていただけなのだから。確かに、覗いてしまったことは、まずかった。でも、チェルシーはわざわざ穴も、塞いでいたし、なんの痕跡もなく立ち去ったはずだし、吸血鬼が、俺が覗いていたという確証を得られたとは思えなかったのだ。

「は???俺???」
「……吸血鬼に、捕まえられたらさ、ソフィアちゃんはどうすんの?」
「どうって…そんなの…」

 捕まったらまずいから、逃げるしかないわけだけど、家まで見つかるほどの大事件なんだろうか。案外、呼ばれて、掃除が不十分だとか、そんな文句を言われるだけ、なんていうことだったりして、と思ったが、そんなわけないか、と思い直した。いくら人間みたいだったとは言え、そんな普通の文句を言うとは思えなかった。
 そして、さっきのネルの言葉を思い出した。「一体どうしたらこんなことになんの?」という叫びは、確かに、納得のできる糾弾であるような気がした。俺も思った。

(一体なんで、こんなことになったんだ??)

 頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。特殊警務課に関わるようになってから、俺はいつだって、え?とか、あ?とか言ってばかりなのだ。そうか、それで、ネルの家に引っ越し?と思うが、それはスパロウ課長の家とかでは、だめなんだろうか。それも、一緒にチームを組んでいるから、ネルの方が都合がいいっていう、そういうことなんだろうか。
 でも、別に俺だって、遭遇したくてレンツェルに遭遇したわけではない。それに、そこまで目立つ真似をしたつもりもないのだ。一言くらい、文句を言わせてほしい。

「でも…嫌だ。一緒に住むなんて、やだ」

 ぼそっと呟いた俺の言葉は、もはや、ただの悪態でしかなかった。それでも、俺のことを大嫌いだと言う、俺の大嫌いな男と、一緒に住むなんて、苦行以外の何者でもなかったのだ。拳銃だってある。もしかしたら、自分の身くらいは、自分で守れるかもしれないとも思うのだ。

「あ、そ。じゃあ、捕まって、食べられちゃえばいいんじゃない?そうしたら、ソーマもすぐにベスィになって、永遠に、レンに飼われるんだよ。チェルシーと一緒に見たんじゃないの?体液欲しさに、ひれ伏して、蹴飛ばされて悦んじゃうような変態の仲間入りだよ。おめでとう。ソーマがそんなことされたい変態だなんて知らなかった。ああ、そうだった。そうだった。自分で色目使って、キスされそうだったんだもんね。願ったり、叶ったりか」

 ネルの言いようは、ひどいものだった。俺は、腹の中がマグマのようにぐつぐつぐらぐらと、煮えたっているのを感じた。なんでこんな言われ方をしなくてはいけない。そんなことした覚えも、そんなことを望んだ覚えもないのだ。もう少し、何か言い方はないんだろうかと、ギッとネルのことを睨んだ。
 でも、ひとつだけ、気になることがあって、眉間に皺を寄せたまま、尋ねた。

「───レンって?」
「ああ。レンツェルって言ってんの、最近だから。吸血鬼の呼び方なんて、どうでもいいけど」

 そうなのか、と思う。吸血鬼が一体何年生きているのかはわからないけど、最近の呼び方なのだと知る。
 ネルは攻撃的な口調で、続けた。

「あいつに、変態みたいに躾けられたいわけ?」
「そ、そんなわけないだろ!」
「じゃあ、文句とか言ってないで、早く荷物まとめてよ。それが、特殊警務課の総意」
「そっ」

(……そう言われてしまえば……従う他、ないわけだけど…)

しおりを挟む
ばつ森です。
いつも読んでいただき、本当に本当にありがとうございます!
↓↓更新状況はTwitterで報告してます。よかったらぜひ↓↓
感想 6

あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕

hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。 それは容姿にも性格にも表れていた。 なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。 一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。 僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか? ★BL&R18です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

処理中です...