【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊

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1. と、出会う

30 目隠しの男

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 俺は、パニック状態にあった。
 もしも、───もしも本当に、レンツェル・フリティラリアが帰還したのだとすれば、俺とチェルシーにできることは、もはや、息を潜める、それだけだった。どくんっと心臓が跳ね、汗がぶわっと吹き出した。どっどっどっと重低音を響かせている心臓を感じながら、ばっちり目の前に空けられた小さな穴から、恐る恐る、前を覗く。
 そこには、───。

 黒い長衣に身を包んだ男。美しい、白く長い髪を、ゆるく後ろで一つに束ねている。そして、目には、───

(目隠し……?)

 装飾の施された紫色の布で、目の部分だけを隠しているのだ。どんな顔をしてるのかは、わからない。でも、目の部分が隠れていても、その整った顔の造形は明らかだった。あれがレンツェルなんだろうか、と、息を潜める。
 その後には、執事のような格好をした、浅黒い肌に黒髪の男が一人、続いた。ちらっと横を見れば、チェルシーは真剣に穴を覗いていて、俺は、おそらくは、あの目隠しの男が、レンツェルなんじゃないかと、思った。

 目隠しの男が、寝台に腰をかけた。そして、その浅黒い肌の男は、床へと跪いた。
 その、瞬間、───

 ガッと鈍い音がして、その浅黒い肌の男は、顎の下を思い切り蹴飛ばされて、「う"っ」と低くうめいて、床に倒れたのだ。一人の男が、宙に浮くほどの力で蹴られたのかと思い、思わずハッと息を呑みそうになって、必死に堪える。吸血鬼のなんたるかは、わからないが、今、バレてしまえば、チェルシーも、俺も、終わりなことは確かだった。
 ゲホッガハッと咳き込む男を見ながら、目隠しの男は、おかしそうに言った。

「こんなの、痛くないもんね?」
「……あ"…はい」

 遠目に見ても、涙を浮かべているように見えたが、浅黒い肌の男は、再び、忠誠を誓う騎士のように、目隠しの男の前に跪いた。そして、今週の予定らしきことを、苦しそうなまま、伝えはじめた。
 目隠しの男は、つまらなそうに、その様子を見ていたが、しばらくして、「それで?」と、低い声で言った。
 驚いてしまって、観察を怠っていたけど、目隠しの男の声は、結構若い男のそれのような気がした。

「い、い"え、私からは、これで…」
「へえ?じゃあ、それは?何?お前の汚いものが、僕の方を向いている気がするんだけど」
「…………す、すみません」

 俺は、その会話の意味がわからなくて、ん??と首を傾げた。ただ、跪いている男の顔が、少し、赤くなって、恥ずかしそうな表情になったような、そんな気がした。

「僕の体液が欲しいなら、そう言えばいいだろ」
「!い、いえ…ほ、本当に申し訳…」
「お前はよく働いてくれているから、僕だって、本当は、優しくしてあげたいって思ってるんだよ」
「………れ、レン様…」

 た、体液?!と、俺は、驚愕した。え?え?と混乱した頭で、チェルシーの方を見るけど、でも、チェルシーは未だ真剣な表情のまま、微動だにしない。それどころか、気配を感じないほど、無だった。その様子を見て、俺もどうにかしないとまずいと思い、必死で気配を殺す。
 でも、───…ということは、やっぱりあの目隠しの男が、レンツェル・フリティラリアなのだ。

(た、体液って…どういう…あれ??吸血鬼は、呪われてて、噛まれるだけで死んでしまうし、魂も、呪われてしまうんだよな??)

 体液なんてもらったら、あの人は死んでしまうのに…と焦る。でも、様子を見ている限りだと、どうも、嬉しそうなのだ。浅黒い肌の男の頬は、今や、紅潮して、はあっと艶かしい息を吐き出している。その様子を見て、うっ、と、自分もなんとなく気まずさに固まる。つい最近、大嫌いな男に、体液で、頭痛を緩和してもらったことを思い出したのだ。
 が、その体液の譲渡の仕方を思い出してしまいそうな自分の頭を、気合いでなかったことにして、一体どういうことなんだろうと、目の前の光景を焼き付ける。

(まさか…キス…とかじゃないよな……)

 もはや、この考えは、既に、昨日の出来事に汚染されていたが、もう、そこは気がつかないことにして、ただ、じっと二人の男を見た。が、現実は、想像したよりも、ひどいものだった。
 目隠しの男は、───レンツェルは、その浅黒い肌の男のタイをぐいっと引っ張ると、顔を近づけた。そして、その浅黒い肌の男は、うっとりとした顔で、舌を差し出したのだ。やっぱりキスを??と、少しだけ、ドキッと跳ねる心臓を感じていたら、プッとまるで、道端に吐き捨てるかのように、下品に、唾を吐きかけたのだった。
 俺は、その人を人とも思わない所業に、目を見開いた。だけど、───その浅黒い肌の男は、ぴくぴくと震えて、恍惚とした表情で固まっていたのだ。舌を天に突き出し、震えている異常な様子を見ながら、俺はその男の全体を観察していたら、俺は気がついた。

(───え?!あれって………)

 男の下穿きの股間の部分が、どうも、少し盛り上がっているような、そんな気がしたのだ。先ほどのレンツェルの、「汚いものが僕の方を向いている」という言葉が思い起こされた。まさかあれは、このことを言っていたんだろうか、と思い、ビクッと体が震えた。
 チェルシーのように、気配を絶てている気がしなかった。でも、ぎゅっと唇を噛みしめ、息を押し殺す。
 レンツェルは言った。

「僕は、とっても優しいね」
「……はいっ。レン様は、お優しいです」

 レンツェルは、目隠しをしているから、顔はよくわからないが、にこっと、口元を緩めてそう言った。
 その言葉に、ハッと意識を取り戻したらしい、その浅黒い肌の男は、まるで惚れた男でも見るような顔をして、そう言うと、「レン様の、湯浴みの準備をして参ります」と言って、浴室へと消えた。
 そして、───

「………本当に、哀れだな…」

 そう呟くレンツェルの言葉だけが、広い寝室に響いたのだった。
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