27 / 92
1. と、出会う
27 吸血鬼の気持ち
しおりを挟む日向智樹は何と言うか、感覚派な奴だった。
見かけ真面目なくせに、中身は大雑把というか、なんというか……
フットサルの動きもそんな感じ。「なんであんな動きしたの?」と聞くと、返ってくる答えは大体「何となく」だった。
勿論それが良い結果に結びつく事もあるけれど、いずれにしても自分を省みる事をしないから、結果が次に活きる事は無かった。
まあ趣味のようなサークルだし、そこまでは……と言えばそれまでなのだけれど、じゃあ何のための練習なんだとか。負けっぱなしじゃやる気出ないとか、そう言う話にもなるもので。
結果、なんて言うか……俺は日向に好かれていないようだった。
(努力の方向性が違うんだよなあ)
俺から見るとそうなんだけど、本人にとっちゃ精一杯頑張っている。じゃあお前はどうなんだと結果を引き合いに出されると、やっぱ考え方が違うんだよなと思う。
過程の方が大事じゃね?
結果に結び付かなくても、努力の方向性が分からないままがむしゃらに走っても、何が良かったのか、悪かったのかを自分で把握出来ないなら意味がない、と思う。
まあ日向は、そんな風にぐちぐちと言いたくなるような、俺にとっては相性の悪い相手。
だからそいつの彼女がサークルに顔を出した時、正直言ってうんざりした。
別に彼女を連れて来るなとは言わないよ。
他の部員も連れてきて見学とかしてるしな。
でもなー、心象としては日向の彼女と聞いただけで関わりたく無かった。
まあだからこっちも簡単な挨拶だけして気配消してんだけど。
マネージャーの亜沙美が「可愛い彼女さん」何て褒め言葉を日向に言ったのをきっかけに、頻繁に連れて来るようになってしまった。
……面倒くせ。日向だけでも鬱陶しいのに。
とは言え関わる気が無いものだから、視界に入れないでいると、逆に変に意識するようになる。
(何か静かじゃね……?)
チラリと見ればコートの端で一人座って観戦しているようだった。
……別にどこで見ようと勝手だけど……遠くないか?
日向を見れば彼女の事は目にも入らないのか、別の部員と話し込んでいる。
(俺関係ないし……)
結局そんな光景を三日も見たら俺の神経は根を上げてしまって……
仕方がないので、それとなく「彼女さん」に近付いて、もっと皆の傍に寄ったら? なんて声を掛けてみた。
「気が散るみたいなんです……すみません。お気遣いありがとうございます」
困ったように笑う彼女に対して眉間に皺が寄る。
──なんであいつの都合に付き合ってんの?
そもそもあいつも見栄の為に呼びつけておいて、放置って冷たく無いか?
イラつき出す俺に静かな声で彼女さんが口にする。
「ご迷惑ですか?」
「……いや」
そんな事を思ってる訳じゃ無いけど……
もし日向に「彼女を放っておくなよ」とか言ってしまえば、俺のその言葉を盾に「他の部員から苦情があったから」とでも彼女に対して言い兼ねない。
俺と同じように、あいつも俺の事は嫌っているからな。
だから、
「……彼女さん、名前何て言うの?」
そんなあいつの都合に付き合うのが嫌だと思った俺は、それなら彼女さんと仲良くなれば、あいつに苦言を呈してくれるかもしれない、なんて単純に考えて。深く考えもせず三上さんに声を掛けた。
三上さんは段々と亜沙美や他の女子部員たちとも仲良くなっていき、自然とサークルに溶け込んでいった。
俺も少しずつ彼女と話すようになっていって、彼女は大分盲目的だなあ。と、かなり心配になってしまった。
「日向の一途なところが好きになったんだ?」
恥ずかしそうに話す彼女を見ては、いらっと顳顬に力が篭る。
「そんな人が自分を好きになってくれたらなあ……と」
はにかむ顔にむかつくのは何故だ。
一途と言えば響きがいいけど、結局どっちつかずの状態なんじゃないの?
腹立ち紛れに、じゃあもう幼馴染の子とは会って無いんだね? なんて、意地悪な言葉をぶつけてしまった。
この歳まで仲良くしている幼馴染と、急に距離を置くなんてありえないような気はしてた。
それでも心のどこかで、彼女から「うん」なんて嬉しそうな返事が返ってくる予感があったのと、そんな反応を聞いておきたい自分がいたから。
けれど彼女は曖昧に笑っただけで……否定はしなかった。
それを見ただけで俺は、
頭にカッと血が登った。
(何でだよ)
何で平気なんだ?
ずっと本命だった相手と、彼氏がまだ会ってるんだぞ。
しかも三上さんも、何でわざわざライバルの女に会ってやるんだよ。お人好し過ぎるだろ。
声を掛ける日向もおかしいが、応じる三上さんだって──
何で主張しないんだ……
(何で俺はこんなにイライラしてるんだ)
三上さんが笑ってるから。
……日向が好きだって。
一途で……いい奴だって。
一途イコールいい奴って訳じゃないだろうに。
付き合ってる彼女を不安にさせてる時点で……本当は日向は不誠実なんじゃないの?
はっと気づく。
でも多分それは……俺が三上さんに……日向に対して持って欲しい感情なんだって……
だからいつもこんなにイラついてたんだ。
一体いつからか、どうしてか、何て、自分でもよく分からないけれど……
(うあー、最悪……)
大嫌いな奴の彼女の事が……俺は好きみたいだ。
10
お気に入りに追加
256
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる