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1. と、出会う

17 大嫌い

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「へ?同じ部屋?!」
「当たり前でしょ。うちの課にそんな個室捻出する財力があると思う?ザカリーさんに怒られるよ」
「ザカリーさん?」
「うん。いつもタイプライターの音、聞こえるでしょ。うちの課の財布握ってんの」

 一通りの調査と処理を終え、とりあえず、宿屋だけ確保しに行くということで、ヴィクトリアグローブから一番近いエリアの宿に着いた時だった。そもそもベスィは基本的に、夜に行動を起こすので、犯人がおそらくベスィであるとわかっている以上、捜査と言っても、できることは限られているのだ。
 とにかく、てっきり二部屋だと思ってたら、ネルは当たり前のように相部屋を選んだ。
 えっ!と内心思いながらも、経済的な問題だと言われてしまえば、従うしかない。

 先日、タイプライターの音に振り返ったら、そこに誰もいなかったことを思い出した。あの時、あそこにいた人なのかもしれない。
 でも、なんで女帝陛下直属の課に、お金がないんだろう。話を聞いている限り、吸血鬼の問題を解決することは、長い目で見れば、この国を救うことなような気がするのに。

「ベッドはそっち使って。俺は窓際の方が景色いいからそっち」
「っなんで!」
「だってせっかくのクウィンタべリーだよ。おもちゃの街みたいだって有名な、街並み見ながら、ゆっくり転がりたいし」
「そんな暇ないだろ!人が死んでるのに」

 俺も、窓際の方が良かったなと思いながらも、ドカッとベッドに横になってしまったネルを見て、なんとなく、もうそっちのベッドにしたいとは思わなかった。むむむっと口をつぐみながら、仕方なく、壁側のベッドに腰をおろした。ベスィは夜に活動するから、少し休憩したら、また、劇場へと向かわなくてはいけないのだ。
 少しだけでも休憩したいなと思うのだが、なんとなく、死体も見たし、外にいた格好のまま、ベッドに横になる気がしなくて、どうしよう…と考えていたら、仰向けに寝てたネルが、ちらっと俺の方を見て、言った。

「まだ時間あるから、シャワー浴びてもいいんじゃない?でもま、そんな細い神経してて、これからが心配だけど。ベスィに関わってると、結構グロいことあるよ」

 言ってることは、シャワー浴びてきたら?っていうことなのだ。多分。だけど、なんでこんなにもぐるぐると回りくどく、意地悪に言われないといけないんだろうと、こめかみにぴくっと力が入った。
 自分は、多分、本来、短気な方だと思う。だけど、───もう、これからずっと一緒に行動しなくちゃいけないと言うなら、一言言わせてもらおう!という気になった。

「………なあ、他の人には普通なのに、なんで俺にはこんななの?俺、なんか嫌われることした?」
「え。好かれてると思ってたの?」
「……お、思ってない!思ってないけど!そうじゃなくて、何がそんなに気に食わないんだって聞いてんだよ」
「別に。怖がってる新入りが、俺できるかも、みたいに調子に乗って、ベスィに突撃してったら困るからさー。ほら、もしソーマが怪我とかしたら、指導係になっちゃってる俺が迷惑被るし。忠告だよ、忠告。僕に面倒かけないでって話」

 調子に乗ってベスィに突撃……そんなこと、自分がするとは思えなかった。でもやってもいないことで、迷惑だとか言われる筋合いは、やっぱりないと思うのだ。確かに、まだ色々わからないことはある。それでも、自分なりに、考えたり、慣れようと思ったりしているところなんだから、そんな頭ごなしに決めつけることはないと思うのだ。
 だけど、そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ネルは続けた。

「…ほんと、ソーマと行動するなんて、絶対に嫌だったのに…」

 その一言を聞いた瞬間。俺の中で、何かが弾けた。
 というか、俺はそもそも、ネルに対して、我慢をしていた。色々助けてもらうこともあるだろうし、一応先輩だし、と、意地悪なことを言われても、我慢してたのだ。そして正直、戸惑っていたのだ。なぜ、ネルがこんなにも、俺に突っかかって来るのか。
 まだ頼っている部分があることが、若干負い目にもなっていた。───が、ここまで言われて、大人しくしていなくちゃいけない道理はなかった。

「ふうん……あ、そう。へーふーん。そういう感じ……。…俺だってな、、」
「何」
「俺だって、好きでお前といるわけじゃないんだよ!何でも文句つけられて、二言目にはバカにされて、嘘つくし、色んなこと隠すし、怖がらせようとするし。俺だって、俺だって!───お前のことなんて大嫌いだ!」

 俺はコートを脱ぎ捨てると、もう、なんでもいいからシャワーでも浴びようと思って、簡易シャワーのついてる浴室に向かった。夜まで待機だって言うんだったら、さっぱりして、ネルと一言も話さないで、眠ってやる!と心に決める。
 浴室の扉を閉めるときに、ぽつりとネルが呟くのが聞こえた。

「奇遇だね。俺も、───大嫌い」

 俺は、バンッと思いっきり、扉を閉めた。
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